第14話 悪心に救いは不要

「凄いですこの服! 魔法の威力強化と状態異常への耐性の効果があるんですね! それにデザインもとっても可愛くて素敵! 下着と同様着心地もすっごく良いです!」

「良かったです。魔力回復薬も飲まれたようで全回復してますね。それじゃあ行きましょう」


 ルシーアさんと共に盗賊団のアジトである洞窟へと向かう。さっきの所からはそんなに離れておらず、森を抜けてわりとすぐの場所にその洞窟はあった。

 高くそびえ立つ岩壁の根元に、ぽっかりと口を開けた洞窟の入り口が見える。


 大きな入り口の周りには焚き火の跡や乱雑に積まれている薪、汚れた布などが散らばっていた。


「うわぁ、すっごくきったなー」


 つい思った感想を口に出してしまった。ルシーアさんも同意のようで頷く。

 ルシーアさん、表情がひどく険しい。


 ちなみに今回のメイン武器として短弓を生成してみた。

 武器チェンジの理由として洞窟内は狭そうだし、短弓は速射性に優れているので選択。矢にはおっさんAとBを倒した時のと同じ効果を付随させる。但し簡単に楽にさせない為に眠りの効果は外したけど。


「入り口に表立った見張りはいないみたいだね。近寄ってみましょう」

「分かりました」


 洞窟の入り口へと小走りで近づく。中から湿った土とカビの混ざったような、むっとする空気が鼻につく。内部は壁面に等間隔で松明があるが、奥は薄暗闇に包まれていて見えにくい。

 

「あそこの影になっているあたりに人の気配がー、あー、四人程居ますね。敵に見つからない様に近づく……」

「オウリさん?」


 ――敵のアジトに乗り込んでも姿を見られたら厄介なことになる。だったら最初から自分らを見えなくして侵入すればいいのでは? その手の魔法があったよね。うん、あるある。使う機会ゼロだと思ってたけど。


「ルシーアさん、オレたちの姿消しましょう。透明状態になる魔法があるんで、見つからずに進めます」

「そんな魔法が……。凄いですオウリさん!」


 早速ルシーアさんの手を取り魔法を発動する。

 数秒経過し確実に魔法はかかっているのだが、自分の視界は何も変わらない。目の前にルシーアさんが立っている。

 だけど手を離すとルシーアさんの姿は消えた。


「えっ、オウリさん!? 消えちゃいました!? 一体どこへ?」


 再度ルシーアさんの手を取ると姿が見えるようになる。

 うーん、離れるとお互いが見えなくなるのはちょっと困るね。魔力変換して、離れた際にお互いの輪郭が分かるように仕組みをちょっとだけ変化させてみよう。


「わぁっ! オウリさんが突然出てきてびっくりしました!」

「離れていても相手の輪郭が見えるようにしました。どうですかね?」


 もう一回ルシーアさんの手を離してみる。

 うん、ルシーアさんの体の輪郭がうっすら見える。よし、これでどこにいるのかが分かるね。


「オウリさんの輪郭が見えてます。姿が見えなくても声は聞こえるんですね」

「そーなんですよ。この魔法、声は消せません。それに勘の鋭い人は姿が見えてなくても気配を察知出来る様ですし。気付かれたら居る辺りを無差別に攻撃してくるかもしれませんね。勘づかれて攻撃されないように気を付けて下さい」

「わ、分かりました!」

「効果は約1時間くらいです。じゃあ行きますか」


 姿を消して洞窟の奥へと進んでいく。先程人の気配を察知した場所を覗き込むと、そこには三人の男たちとぐったりと横たわっている女の人がいた。


 ここで何があったのか直ぐに判った。瞬間短弓を構え、三人の男たち目掛けて矢を放つ。即座にごろつきどもが悶え苦しみだすが、めっちゃ邪魔なので向こうの壁の方へ思いっ切り蹴り飛ばす。

 そして収納魔法から毛布を取り出し、素早く女の人にかけた。


「リ、リオさ、ん……?」

「大丈夫、呼吸しています。今すぐに回復魔法かけます」


 完全回復魔法をかけてるついでにステータスを勝手に見る。

 ああ、この人麻痺させられているし毒状態だ。状態異常完全回復魔法も発動させて治癒を行う。

 武闘家としてこのレベルなら能力的にはごろつき三人くらい余裕っぽいけど、麻痺と毒盛られてたら……、そりゃ無理だよね。


 この人のさっきの状態、ルシーアさんが見たら悲鳴を上げたと思う。自分も一瞬しか見てないけど、衣類は破られており、顔や身体には腫れ上がるほどの酷いあざがたくさんあった。

 多分抵抗しなくなるまで暴力を受けたのだろう。酷すぎる。


「よしっ、回復終わり。あざも消えましたー。ルシーアさんこの人見てて下さい。じきに目を覚ますと思います。起きた時姿が見えてないと驚くかもなので、透明魔法は一旦解除しますね」

「オウリさんは……」

「残りを潰してきます」


 安心させたいので笑顔でルシーアさんに話す。だけど自分でも分かる。口角は上げているけど、目は笑えていない。


「……ま、待って……。わたしも行くよ」

「リオさん! 大丈夫ですか! オウリさん、リオさんが目覚めました!」

「ルシーアこそ大丈夫? わたしの身体は治してもらったから平気。あなたが助けてくれたのね。ありがとう、本当に……」


 眠っていた訳じゃなかったのね。パワー系職だから回復が早いのかもしれない。涙を拭っているリオさんにルシーアさんが背中を擦りながら話をしている。


 今のうちに武闘家さん用の衣類一式作ってみようかな。

 確かこやきの説明では生成コマンドの自動にチェック後、必要な魔力を流して変換すると一瞬でできるって言ってたね。

 ものは試しに両手を合わせて魔力を巡らせる。下着はー、リオさんのお胸チラ見しましたが多分AかBくらい……。


「出来たっ! えっ、初回でこれは、自分凄くない!?」

「オ、オウリさん? 出来たとは?」

「あ、ごめんなさい。えーと、服の生成を初めてしてみたら上手く出来たので、ついテンションあがっちゃって」


 収納魔法を発動させて、中から出来立ての衣類を出してリオさんに渡す。動きやすい素材でプリーツスカート風のショートパンツにニーハイソックスの組み合わせがいいね。

 状態異常への耐性と素早さアップの効果が付いている。


「えっ、この服貰っていいの?」

「はい、是非是非」

「私も頂いて着ていますが、着心地がとても良いんですよ」

「何から何まで……、オウリありがとう! 早速着てみるね!」


 リオさんが着替える間ルシーアさんと後ろを向いておく。視線の先に地面に突っ伏して身をよじらせ苦悶している三人のごろつきがいた。


「「「ーーーーーー!!」」」


 かなりの痛みを伴う痺れが身体中に回っているであろう。

 叫ぶことで痛みを軽減させるという話を聞いたことがある。だけどこいつらは沈黙の効果で声を出すことが出来ない。更に暗闇効果で視界も奪っており、視覚による鎮痛効果も得られない。

 逃れることの出来ない苦しみをとことん味わうがよい。

 自業自得、因果応報、悪因悪果。あと知ってる四字熟語はないや。


「あいつらはしばらくあの状態です。効果が切れるのは2日後くらいじゃないですかね。オレの意思で効果の解除は可能ですけど。ルシーアさん、とりあえず今は放置でお姉さんを助けに行きましょう」

「……そうですね。この人たちの行いは決して許されるものではありません」

「天誅下しましょう、マジで」


 心が怒りの炎で燃え上がっている。不愉快極まりない。握っている拳に力が入る。ここまで頭にきたのはかなり久しぶりだ。

 漫才グランプリ準優勝後の迷惑行為を受けた時以来かもしれない。いや、あの時のこととは比較なんてできないな。失敬失敬。


「着替え終わったよー。この服凄くいいね! 動きやすいし着心地最高だし、何より可愛い! スカートに見えて実は短パンっていうデザインなんてオシャレだね! オウリありがとうー! 下着もぴったりサイズだったよ」

「リオさん、とてもお似合いです」

「気に入ってもらえて良かったです。さて、悪を殲滅しに行きますかね」


 ルシーアさんとリオさんの手を取り再度透明化の魔法をかけてから、オレたちは洞窟の更に奥へと進んでいった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る