第32話 決意の表明
「春ー?昼食いに行かないのか?」
「あ〜、なんか買ってきてくれないか?お金渡すから」
「なんだ?体調悪いのか?」
「そんな感じだな」
学人にはそう言いながらお金を渡し、玄関で見送った。
「……ふぅ、行ったな」
念のため鍵をかけ、密室を作り出す。
それは一人の時間を邪魔されたくないからだ。
特に理由はない、さっき考えてた事も、黒峰さんやらのことも考えても結論が出ない。
なら忘れた方が手っ取り早いし、普通に考えるの疲れた。
「すまんな学人、この部屋一人用なんだ」
独り言を呟きながら怠惰を貪る。
ホテルの一室を一人で使い、ダラダラするの事のなんて気持ち良さよ。
最近はテストのせいでゲーム出来てなかったし、今のうちにしとこ。
久しぶりのゲームは学人が帰って来るまでの暇潰しにピッタリだった。
……学人帰ってきたらボコすか。
ゲームは昔教わってたから、結構得意な方、だ?
……昔、教わってた?
あれ?昔のこと思い出せてる?
いや、教わってた以外分からんな。誰に教えてもらってたんだ?
……またこれかよ、最近考え事多すぎて嫌になる
やめやめ、これも忘れて今はゲームに集中だな。
□
しばらく遊んでいたら、学人が立喜を連れて帰ってきた。
「ただいま〜春、さて、俺は何を買ってきたでしょう?」
「納豆」
「お前は俺を何だと思ってるんだよ」
帰ってきて早々騒がしい奴だが、こういう空気も楽しいもんだ。
「普通に弁当だけど、なんとお店のやつな!」
「……なんか高そうなんだけど、何円?」
「……1500円、」
「お前は後でシバく」
嘘だろこいつ、コンビニ弁当なら1000円以内なんて飲み物つけても余裕だぞ。
俺の数少ない札が溶けたッ!?この弁当で?
「上手いんだろうなこれ、、、」
「外で同じようなもん食ったけどクソ美味かった。」
「立喜は?」
「俺も美味しかったと思うぞ、疑うなら毒見してやろうか?」
本気で食いたいだけのように見える。
確かに美味そうだけど、、、食にお金かける感性は
分からんのよなぁ。
学人と立喜が見守る中で弁当を一口食べる。
……案外うまいな。
「どうだ、美味しいだろ?」
なんかこいつの顔見てると認めたくないな、、、
「普通かなぁ」
「ツンデレ春じゃん」
「やっぱ◯す」
「すいませんっ」
そういえばそろそろ集合時間か?
初日はほぼ移動で半日終わるから面白いことは少ないな。
「集合って三時だよな?」
「うん、」
「今何時?」
「二時五十分」
「……」
集合は三時だから、、、逆算して、あと十分?
「それじゃ、俺ら行くわ」
「俺もー」
「クソォォォ!」
事態を理解した途端、咆哮を上げ弁当をかき込んだ。そこからは味はよく分からなかった、吐きそうだった事だけ記憶に残っている。
□
案の定集合には遅れ、アホみたいに目立ったし、最悪な事ばかりだ。
「さっきは災難だったな、春」
「気安く話しかけてくるな、裏切り者め」
「普通に弁当買うために並んでたら、時間ヤバくなっただけだし、」
それこそコンビニ弁当買えよ!遅れてまで食いたいとは思えなかったぞあの弁当。
「とりま自由時間だけど、どこ行く?」
「正直部屋にこもってたいけど、もう予約入ってんだじゃあな」
「……お前が予約?嘘だろ?」
後ろで失礼な事を言ってる奴は先程の事も全部含めて後で粛清します。
部屋を出て、スマホを取り出す。
『碧ちゃん、どっか行く?』
よし、後は待つだ──
『うん!』
返信はやっ
ラウンジ集合ね、先行っとくか。
約束したし、さっきまでの事は忘れて楽しむか。
エレベーターで降りようとしたけど、人多すぎて乗れないし、来たのに上りだったりしたから階段で降りた。
もう少しエレベーター増やしても良いよ?ほんと
ラウンジに行くと想像はしていたが、うちの生徒ばかりだった。自由時間を貰うと外で遊ぶという思考まで行くけど、中々出発しないのはあるあるだよな。
「……空いてる椅子とかないかな」
一人でキョロキョロしながらラウンジを彷徨う。
俺は仲間がいないと、こういう場所で生きられん
「柏村くん、ここ空いてるわよ」
「あぁ、ありがとうございます。てっ、え?」
流れる様に座らされるとこだった。
いつもの如く急に現れるな、黒峰さん。
「い、いいの?座っちゃって」
「ええ、別に構わないわよ」
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
「ええ、」
相変わらず何考えてるのか分からんな。無表情で寡黙だからなぁ、これが許されてるのは美人だからかな?
この一見冷たい態度も、ミステリアスな魅力で通ってるらしい。
「さっきの、大丈夫だった?」
「え?あぁ、碧ちゃんの事?大丈夫だよ。」
「襲われかけていたのに?」
それはそうなんだよなぁ、でも碧ちゃんそんな感じのはいつもやってるし、変わらないと思ってしまった。
「修学旅行ではしゃいでるのかな?多分、」
「……そう、貴方がそれで良いなら良いのだけど」
やっぱり人の目から見たら変かな?
そういや碧ちゃんと黒峰さん、初対面じゃ無さそうだったな。
「あっ!そういえばさ、碧ちゃん黒峰さんの事、雅って呼んでたよね?実は知り合いだったり?」
「ええ、小学校の頃からね」
思ってたより長いな、小学って事は俺もいたんじゃね?碧ちゃんとはよく遊んでたはず。
「俺も小学の頃は碧ちゃんとよく遊んでたらしいんだ。もしかしたら会ったことあるかもね!」
「……そうね、」
……あれ、なんか間違ったか俺、めっちゃ悲しそうな顔してんだけど。
謝った方がいい?土下座しよか?
「はぁ、柏村くん来たわよ」
「来た?なにが?」
黒峰さんの視線を追い、振り返る。
そこには満面の笑みを貼り付けただけの般若がいた。
「……碧?」
「……春くん行こっか」
火葬場に連れてかれるわけではないよね?
……別れの挨拶は済ましておくか、
「じゃあね、黒峰さん、、、」
「ええ、また」
伝わっただろうか、俺の最後の挨拶……
□
ホテルを出てすぐ、碧ちゃんが口を開く
「……春くん、怒ってない?」
「怒る?何にって……あれのことか、」
本当に怒ってないけど、
「別に怒ってないよ」
「ほんと?」
「ほんとほんと!碧ちゃんちょっとはしゃいじゃっただけでしょ?」
「でも、、、ごめんなさい。」
謝れるって事はしっかり考えて反省できたってことだ。なら、俺がこれ以上何かを言うものではない。
鞭は終わりここからは飴のターンだな。
碧の頭にポンッと手をのせる。
「……春くん?」
「もう反省したんだろ?ならいいよ、せっかくの
修学旅行楽しまなきゃ損だよ?」
「うぅ、、、はるくぅん、ぅぅ」
碧は俺の背中に手を回し、顔をそのままうずめてきた。こんなとこで、、、と思ったけど今はいいか。
……なんか前にも見たことある光景だなぁ。
申し訳ないけど、当たってるんだよね、碧って割とサイズあるんだよ。
こんな時でも発情できる、これが男子高校生。
「落ち着いた?」
「……うん、ごめんね春くん。」
「また謝ったなぁ?次謝ったらこしょこしょの刑だからね!」
「えっ、」
夏樹にはよくやる処刑法だ、これが効くんだよ。
「春くん、ごめんね?」
「謝ったなぁ!?こしょこしょの刑!」
早速法を破った碧には、悪いが無慈悲のくすぐり地獄確定だ。
「ほれほれぇ!」
「んっ♡、」
「……」
勢いで触ったけど、なんか出ちゃいけない声出たよね?
「……どうしたの?続きは?」
続きは?とか言ってるじゃん、碧にこれするのはやめとこ。
「……終了です」
「えぇー!なんでなんで!?」
やっぱり欲しがってんじゃん、ダメじゃん刑として機能してないじゃん。
「もう泣き止んだでしょ!行くよー」
「……春くん、最後にひとつだけ謝らせて?」
「うん、でもこしょこしょしないからね?」
「私、春くんのことになるとね、すぐ歯止めが効かなくなっちゃうの、……だから、覚悟してね!春くん!」
……やっぱり、碧は笑ってる方が何千倍も可愛いな。これ以上、彼女を悲しませたくない。
……俺も、そろそろ心を決めないとな。
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人助けしまくってた俺、いつの間にかヤンデレ量産してた 赤尾 @tuu159357
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