新玄対市役所、古城の対決

Kay.Valentine

第1話

崩れかけた古城。


松風騒ぐ丘の上にその古城はあった。


苔むした甍(いらか)。崩れかけた石垣。壁には矢玉の跡。あたりには病葉が散る。


そこに現れた市役所の人「これは危険ですな。空き家対策措置法に基づき一刻も早く強制撤去しましょう。その後速やかに建て替えればいいでしょう」


ところが、そこにはかつての武将たちの地縛霊が住んでいた。その数四十七人。

市役所の人のその言葉を聞いて、強制撤去と建て替えが迫ることを魂たちは知る。


もし建て替えられたら彼らの行き場所がなくなる。

危機感を募らせ古城の天守閣に集まる魂たち。


会議。


竹田新玄は建て替え勢力に徹底抗戦をすることを宣言。


この時に魂たちの心が燃えたぎり、そのエネルギーで立派な武士に戻る。

皆一斉に火山の形の風鈴を掲げて


「風鈴火山が目にもの見せてやるわい、えい、えい、おー!」


解体作業のトラックが何台も到着。

撤去作業に入ると城の中から突然、鎧兜(よろいかぶと)に身を固めた侍たちが飛び出して来て刀を振り回す。

「やーやー、我れこそは、竹田新玄なり。」

「うわっ、本物だ!」

驚いた作業員たち。大騒ぎになる。


市役所では会議。


市長「えー、この度の『古城立てこもり事件』について早急に対策を立てなければなりません。市民の安全を第一に考える観点から、本日はとりあえず各部署からの忌憚のないご意見を伺いたい」


防災危機管理室長「えー、古城に立てこもった者たちは、身なりは武将のようですが、これは以前からかなり緻密に計画された古城乗っ取り事件と思われます。市民の安全を第一に、という市長の考えに全面的に賛成です。一刻も早い機動隊の要請を提案します」


広報室長「市民の安全については同意見ですが、ちょっと待って下さい、あんな崩れかけた古城を乗っ取ったって何のメリットもないでしょう。竹田新玄という者、実際に遭遇した職員によれば、新玄の風貌に酷似しているとのこと。私は彼らはやはり本物の地縛霊だと思います。だとしたら、うっかり攻撃したら呪いがかけられるかもしれないですし」


福祉部長「そうですね。彼らが我々の先祖の蘇りであるとしたら、『三顧の礼』をもって迎えなければならぬは必定! 大切なのは彼らに対する福祉対策です。彼らは病気を持っているかもしれないし、今後古城に住み続けるのであれば、何百歳という年齢を考慮すれば、当然年金も支払わなければならない」


財政部長「いや、そんなお金が財政破綻寸前の我が市のどこにあるんですか!」


文化スポーツ部長「なければ、彼等を筆頭に立てて文化とスポーツの一大イベントを開催して作り出したらどうです?」


保健医療部長「そうです。まずは彼らに人間ドックを受けてもらってですな、生活習慣病があれば保健指導をしなければならない」


環境衛生部長「賛成です。そして、彼等が古城に住み続けるとすれば、当然、生ごみや糞尿処理を考えなければなりません」


産業観光部長「これは市にとってまたとないチャンス。さっそく彼等、地縛霊を最大限に活用して町おこしにつなげたいですな。まず、新玄のテーマパークを作り観光客を集め、オカルトマニアのために隣に『奇跡の蘇り記念館』を建てれば世界中から人が集まる。そしたらディズニーシーのように超高級ホテルを建てたり、『新玄グッズ』や『蘇りグッズ』免税店を作る。そうすれば市の財政は一気に黒字転換するでしょう」


都市計画部長「皆さん、いろいろなご意見があると思いますが、原点に戻って、国が定めた空き家対策措置法を遵守するという観点から早急な撤去が必要です」


建設部長「おそらく成仏できない侍たちが古城にいるのでしょう。城の前に共同墓地を建ててお坊さんにお経をあげてもらいましょう」


市長「いろいろな意見が出ましたが、細部については後日、ということにして、とりあえず市民に対する安全を確保するという観点から、機動隊による『新玄一族確保作戦』を実行したいと思いますが、異存はありませんね」


市役所は機動隊の応援を求める。

機動隊到着。

城の前に機動隊の盾がズラリと並ぶ。

その横に放水車数台。

機動隊の後ろには「危ないので立ち入らないでください」という立て看板と警察署の警官たちを押しのけようとする見物人の山。


「おーい、見えないぞ」

「ちょっとその頭じゃまなんだけど」

警官がメガホンで「危ないから下がってくださーい!」


櫓(やぐら)の上で新玄が「やあやあ、遠からん者は音に聞け、近くば寄って目にも見よ。我こそは……」と名乗りを上げようとするとその顔を目掛けて、放水車からジェット水流がバシャ。


見物人のスマホが一斉に写メ撮り。


「きゃあ、新玄てイケメン!」

「新玄さーん、こっち向いて」

「新玄さーん、頑張ってえ」という黄色い声。


新玄はめげずに、ズラリと並んだ機動隊の盾を指さして「あの盾を突き崩せ」武士たちは刀を振り上げて一斉に機動隊の包囲網に向かう。


ところが機動隊の盾に振り下ろした刀の刃は次々に刃こぼれを起こす。


後ろにいる市の職員は「どうも彼らの刀は金属疲労をおこしているようですな」と高みの見物。


今度は機動隊の反撃の番。武士たちに催涙弾が撃ち込まれ、彼等は咳、くしゃみ、涙で顔はぐちゃぐちゃ。


「うーむ。飛び道具とは卑怯なり! とりあえず撤退!」


くしゃみをしながら城に駆け込む新玄達。


見物人からは「新玄頑張れ!」という新玄コールが自然発生的に起こりウェーブも自然発生。


「コチラハBBCC放送デス。日本ノ古城ニ、突然侍ノ魂タチガ現レマシタ」


「CNNN放送ハ、コレカラ日本ノ有名ナ侍デアル新玄ニ、独占インタビューヲ行イマス。現在特派員ガ城をヨジ登ッテイマス」


渋谷のハチ公前、新宿のアルタ前の巨大スクリーンには、この状況が映し出され道行く人々が皆、足を止めてスクリーンを食い入るように見ている。


「新玄頑張れ」の新玄コールがどよめきのように起こる。


「TBBSでは、特別番組『よみがえった新玄の衝撃』と題しまして、各方面の有識者の方に急遽お越しいただきました。

まず、東京都大学で輪廻転生がご専門の大平先生、よみがえりというのは実際にあるんですねえ」

「そうですね。専門的な立場からはこの現象は以前から世界各地で報告されていまして、最も有名なのは南アメリカのザブリア共和国で1963年に起こったUFOによって墓場に埋めてあった死体がよみがえったという報告ですね」云々。


再び新玄たちは天守閣に籠もり作戦会議。


「このうえは籠城作戦のみでござる」と新玄。


その時にテレビ局のヘリコプターが天守閣に迫り、アナウンサーがマイクを向ける。「新玄さん、どーもぉ、私どもBUSではただ今全国に向けてライブ中継をしています。新玄さん、今のお気持ちを一言」

「おぬしなにゆえ、鉄の鳥に乗っておる」

「いや、これはヘリコプターと言いまして……」

「なに? 減る子豚? なぜ子豚が空を飛ぶのじゃ」とトンチンカンな会話。


山のような見物人たちはその後も数を増しにわか作りの売店が軒を連ねる。


「新玄餅」

「新玄のポスター」

「よみがえりのお札」

「ラストさむらいラーメン」

「死なないクッキー」

「魂焼きそば」


その時、数台のドローンが天守閣になだれこむ。「うむ、鉄の小鳥を放ったな! 切れ!」


その後、外からは天守閣までも放水が続く。

「かくなるうえはこちらも飛び道具じゃ。一斉に矢を射るのじゃあ!」

ところが矢をかまえる度にジェット放水の水が武士たちを襲うのでなかなか矢を射ることができない。


「NHCにはただいま安倍川持知夫首相の記者会見の模様が入ってまいりました。


『えー、ただいま古城で起こっている出来事はたいへん異例なことでありまして、ですね、現在、政府部内でも今後の対策に対する意見が割れておりまして、ですね、この件に関しましては、ですね、有識者の方にご参加いただきまして早急かつ慎重に、ですね、結論の方向性を定めたうえに、ですね、』


ということですが、結局、何を言っているのか分からない状況です。以上首相官邸から山川がお伝えしました」


そんな時に市役所に吉報が届く。

この騒動を受けて諦めかけていた世界遺産への登録が決まったというのだ。

市長みずから古城に出向き、このことを拡声器を通して武士たちに告げる。


「たった今、この城は世界遺産に登録されました。だから城はこのまま存続します。あなた方は安心して成仏してください」


新玄は「これはワナかも知れぬ。徹底抗戦あるのみじゃ」と言い騎馬部隊を編成して機動隊の盾目掛けて突進。


「中央突破じゃあ!」

市長と市の職員はびっくり。

「げっ、騎馬隊が町になだれこんだら大混乱になる」


が、ちょうどその時に共同墓地が完成してお坊さんがお経をあげ始めた。

するとあら不思議、武士たちは馬と共に魂に戻り天守閣から共同墓地に流されていった。やれやれ、めでたしめでたし。

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