第11話 守護騎士の夜は、あまりに刺激的すぎる
「……カイト。背中、流してくれないかしら?」
「却下します」
僕は、即答した。
声が裏返らなかった自分を褒めてあげたい。
ここは、女子寮の最上階にある、聖女アリア様専用のバスルームだ。
大理石で作られた浴槽からは、甘い香りのする湯気が立ち上っている。
そして、その湯気の向こうには——
一糸まとわぬ姿(※湯気と泡でギリギリ見えない)のアリア様が、とろけるような表情でこちらを見ていた。
「どうして? 守護騎士なら、主人の身体の隅々までチェックするのも仕事でしょう?」
アリア様が、濡れた長い銀髪をかき上げる。
その仕草に合わせて、白い肌に水滴が伝い、豊満な曲線を際立たせる。
鎖骨の窪み、胸の谷間、そして腰のくびれへ……。
(目の毒すぎる!!)
僕は必死に視線を天井のシャンデリアに固定したまま、ドアの外で直立不動の姿勢を取っていた。
いや、正確には「ドアを開け放たれた脱衣所」に立たされている。
「アリア様……常識を思い出してください。守護騎士の仕事は『警護』です。『入浴介助』じゃありません」
「でも、お風呂場は無防備でしょう? 暗殺者が窓から入ってきたらどうするの?」
「窓はありません! ここ最上階ですよ!?」
「もう……カイトは堅物ね」
パチャ、と水音が響く。
アリア様が浴槽から立ち上がった気配がした。
(待て待て待て! 立つな! 今立ったら全部見える!)
「【絶対時間(クロノ・ワールド)】起動!!」
僕は咄嗟にスキルを発動した。
世界がスローモーションになる。
飛び散る水滴が、空中で静止する。
その0.01秒の世界で、僕は脱衣所に置いてあったバスタオルをひったくり、超高速で移動。
立ち上がろうとしたアリア様の身体を、視認する前にバスタオルでふわりと包み込み、再び元の位置へ戻った。
「——解除」
「きゃっ?」
時間が動き出す。
アリア様は、気づけばバスタオルに包まれていたことに驚き、目を丸くした。
「……さすがね、カイト」
アリア様の頬が、朱に染まる。
彼女は、バスタオル越しに自分の身体を抱きしめ、熱っぽい瞳で僕を見上げた。
「私に見えるか見えないかの速さで、私を気遣ってくれるなんて……。そんなに私の裸を守りたかったの?」
(違う! 僕の理性を守りたかったんだ!)
「うふふ……。その『独占欲』、嫌いじゃないわ」
アリア様は勘違いをさらに加速させ、バスタオルの隙間から、艶めかしい太ももをチラリと見せつけた。
「でも、残念。お風呂上がりは、もっと『密着』してもらうわよ?」
「……はい?」
「守護騎士のもう一つの大事な仕事。『マッサージ』と『魔力充填』の時間だもの」
アリア様は、バスタオル一枚の姿のまま、湯上がりで火照った肌を晒し、寝室へと歩き出した。
その無防備な背中と、揺れるヒップラインを見ながら、僕は絶望した。
ゼノンとの決闘なんて、生ぬるかった。
本当の地獄(天国?)は、ここからが本番だったのだ。
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