リゼットは静かに、自分のことを話した。

「私の名前は、リゼット。ずっと、この村の端の小屋で一人でした。呪いで顔が歪んでたから、みんなに避けられて……カイル。あなたは、私に優しくしてくれた初めての人。だから、私の命は、カイル様のものです。」

　その言葉の重みに、カイルは思わず息を飲んだ。だが、王都に戻る気はない。ここが、自分の新しい居場所だ。そして、リゼットを放っておくことなどできなかった。

「わかった。俺は、この村に残る。」

　そう言うと、リゼットは目を輝かせながらこちらを見てきた。

　目標は――誰にも邪魔されない、平穏なスローライフだ。

　カイルはさっそく行動に移した。わずかな貯金をはたいて、村で誰も使っていない小さな家を買い取る。貯金は残り少ないが、これでようやくスローライフのはじまりの家ができた。

　こじんまりとした家だが、一人暮らしにはちょうどいい広さだった。

　新生活が始まってすぐ、カイルはリゼットの膨大な魔力を放っておけない問題だと判断した。再び暴走して彼女の身体を歪ませる前に、魔力の制御を覚えさせる必要がある。

「リゼット。その魔力、また溢れたら君の身体が持たない。俺と一緒に、魔力の操作を覚えよう。」

　リゼットは目を輝かせて頷き、カイルの指導を受け入れた。

　彼女は、生まれながらの天才だった。カイルが基本的な制御のコツを教えると、リゼットは瞬く間にそれを習得していく。

「さすがだな、リゼットは。教えたことをすぐ完璧にするなんて、天才だ。」

　カイルが褒めるたび、リゼットの瞳は喜びで潤み、カイルへの愛情は日に日に強くなっていった。

　毎日、カイルが隣で見守りながら練習する。リゼットにとって、この時間はカイルを独り占めできる至福の瞬間だった。

　ある日の午後。練習を終え、カイルが村の中心部で買い物を済ませて戻ってきたときだった。

「ただいま、リゼット。今日の練習もバッチリだったな。」

　リゼットはカイルの顔をじっと見つめ、不満そうに口を尖らせた。

「遅い……。カイル様、どこに行っていたの？」

「ああ、食材が切れたから、村の商店にちょっと買い出しに。」

　リゼットはカイルの服を両手でギュッと掴む。

「本当にそれだけ？」

「いや、ただの買い物だぞ？店主のおばちゃんと少し話しただけだ。」

「女の人と話したんだ……」

　ポツリとリゼットがつぶやき、カイルの胸に顔を埋めた。その姿は、一見すると可愛らしいものの――どこか異常な重さを秘めていた。

　うーん。過剰な感謝か？ ……いや、これは嫉妬ってやつじゃないか？

　まぁ、俺にとっては、誰からも邪魔されないスローライフさえ送れれば問題ないがな。

この度は『ただ回』をご愛読いただき、心より感謝申し上げます！【節約貴族】も公開中です！悪役令嬢もので楽しめる、節約をテーマにした物語です。ぜひ私のユーザーページから、次の物語も覗いていただけると嬉しいです！

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