21 髪切って貰ってる時スマホ弄りたいけど、美容師が絶対に覗き込んでくるから弄れない

「ただいま~」


 女騎士マルガレーテがこっちの世界にやってきて――数時間後。


 どこに行くでも一緒だったルカをマルガレーテに預け、久々の1人の時間を満喫した俺は、頃合いを見計らって帰宅を果たした。


 髪の毛伸びてきたから美容院行ってきたぜ。

 今日は予約が入ってないとのことで、いつも使っている美容院に当日予約できたのはありがたかった。


 仕事がない日でもワックスつけないんだけど、いつも最後は美容師さんにつけて貰っちゃうんだよな。

 そのあとはエアコンの効いたファミレスで、スマホを弄りながらドリンクバーを嗜み、頃合いを見て帰宅した次第だ。


 ルカといる事は別段ストレスと感じたことはないが、久々に1人で過ごす時間も悪くなかったな。


「ん。おかえり」


https://kakuyomu.jp/users/nasubi163183/news/822139842031510145


「へぇ……へぇ……/// むほっ/// おほぉ……/// 巫女しゃまぁ~しゅきぃ~///」


 居間にあがると、そこにはげんなりした顔のルカと――畳の上で仰向けになり、普段の凛々しい表情からは想像できない蕩け顔で悶えるマルガレーテがいた。

 なんか快楽堕ちしちゃった系の女騎士みたいな状態だ……。


「えっと……な、何があったんだ?」


「ん……聞かないで」


 どうやら想像を絶する慰安・・があったのだろう……。


 まあ、見たところルカの服装に乱れはないし……一線・・は越えてないと判断していいだろう。


 ……。

 …………。

 ………………いいんだよな?


「ん。マルガレーテを元の世界に帰す。手伝って」


 ルカはそういうと、未だ意識が曖昧になっているマルガレーテの膝裏を抱え、トイレに向かって引きずっていく。

 俺も彼女の脇の下に腕を入れて、運ぶのを手伝う。

 そうしてルカは、マルガレーテを便器(の上に展開しているワームホール)に押し込んだのであった。


 なんか死体遺棄してる様な絵面だな……。


 どんなやり取りが2人の間にあったのかは詮索しないが、これでマルガレーテも蓄積した心労も癒され、魔王軍との戦いにも力が入ることだろう。


「んっ」


「なんだなんだ」


「たいようの匂い、薄くなった……だから、つけてる」


 マルガレーテを異世界に戻してひと段落つくと、ルカが甘えるように俺の腰に抱き着いてきた。

 たった数時間離れただけでこの甘えようとは……俺も随分と信頼されたものである。


 マルガレーテも悪い奴ではないのだから、下心を隠せれば俺以上に甘えてくれるはずなのに……。



 ――それが出来たら苦労はしない!!



 そんな悲痛な叫びが、トイレの奥から聞こえたような気がした。



***



「ん。髪の毛、短くなってる」


「これな。美容院行ってきたんだ」


「ん。知ってる。髪の毛を短くしたり、クルクルにしたり、色を変えたりする所」


 日頃スマホでこの世界の情報を収集しているルカも、美容院の存在は認知していた。

 ルッキズム最盛期の現代――TikTokでも美容院の宣伝動画は人気コンテンツだからな。


 俺も十代の頃は、ワックスの付け方とかドライヤーで癖をつける解説動画を、指先をワックスでベタつかせながら真剣に見ていたものだ。


「ん。ぼくも、行きたい」


「でもルカ、あんまり髪の毛伸びてないような……」


 ルカがこの世界に来てもう1ヶ月。

 子供の髪は大人より早く伸びると言うが、ルカの髪は初対面の時と殆ど変わってないように見える。

 ロングヘアだからそう見えるだけか?


「ん……ダメ?」


「分かった分かった。ルカもマルガレーテの相手するの頑張ったからな。ご褒美だ。連れてってやるよ」


「ん!」



 ――ぽわぽわ。



 魔力を溜めるのに1番てっとり早いのは、新しい体験をさせることだ。

 ルカを連れて、俺は再び美容院に足を運ぶのであった。



***



「うおw めちゃくちゃ髪綺麗スねw うおw」


 美容院の椅子に座ったルカの髪を触る美容師は、テンションが上がっているようで、ルカの髪に手櫛を入れている。

 美容師が髪を持ち上げるたびに、指の隙間をスルスルと流れるように落ちていく。


 俺のカットを担当したあとも、新規の当日予約は入らなかったようで、本日2回目の来店を快く受け入れてくれたのであった。


「んで、どんな髪型にしますw?」


 子供相手にも丁寧なカウンセリングをする美容師。

 かなり良い人だし、腕も確かだけど、どことなく喋り方が……アレなんだよな。

 美容師って、常に語尾に「w」をつけるような喋り方するよな(偏見)


「ん。こんな感じ」


 美容師の持ってきたヘアカタログを眺めて、そのうちの1つを指差す。


「うおw 結構バッサリ切りますねw! 本当にいいんすかw?」


「んw おーけーw」


「早くも口調が伝染している!?」


 美容師は奥のシャンプー台まで案内し、シャンプーを済ませて再びカット台に戻ってくる。


「あ、ウチお客さんに飲み物出すんすけどw ドクターペッパーかルートビアか選べるんですけどどっちにしますw?」


「なんでラインナップの癖が強いんだよ。俺の時はお茶とコーヒーだったろ!」


「冗談すよ冗談w」


 そういってお茶を持ってくる美容師。

 ルカはそれを一気に飲み干しておかわりを要求していた。


「既にこの子カットクロスみたいなのつけてますし、なくてもいいですかねw」


「いいわけねーだろ!」


「冗談すよ冗談w」


 連続ボケをかます美容師に突っ込みを入れ、ちゃんと白いポンチョみたいなのを首に巻いてもらう。


「んじゃカットしまーすw いきなりバッサリいきますよーw」


 ようやくカットが始まる。

 美容師は腰まで伸びた銀髪を掴み、ハサミをあてる。

 ジャキン――と、ルカの艶やかな髪が切り落とされる。



 しかし――ばっさぁぁぁぁ!



「うおw!?」


 ハサミを入れた瞬間、ルカの髪はあり得ない速度で伸びだし、元の長さに戻るのであった。


「……え? なにこれ……? 呪いの人形?」


 張りつけたような美容師スマイルが崩れ、困惑顔でルカの後頭部を見つめる美容師。


「ちょ! タイム! ちょっとタイムで!」


 椅子の上に座っているルカを回収し、店の隅に連れていく。

 唖然としている美容師に聞こえないように、ルカを問い詰めた。


「どうなってんだこれ……!」


「ん。ぼくも驚いてる」


 いつものポンチョの上から、更にオーバーサイズのポンチョを被っているルカは、後ろ髪を撫でた。


「巫女の体は、魔力でできてる。肉体が損傷すると、魔力を消費して元に戻るようになってる……だから、かも。多分」


「多分て……お前今まで髪切って貰ったことないのか?」


「ん。ない」


 なるほど……どうやらルカの肉体は、髪の毛を含め今の形で記憶されていて、そこから変化すると即座に修復される力が働くらしい。

 という事は、いくら髪を切っても魔力の無駄ということか。


 これも非力な巫女が、魔王封印の前に命を落とさないために身に着けた、生存戦略の結果のようなものなのだろう。


「あのー、大丈夫すかw」


「コイツ毎日ワカメ食べてるんで、髪伸びる速度早いんですよ」


「あーw 納得っすw」


 咄嗟にでた嘘だが、なんとか納得して貰えたようだ。


 美容師は客のプライベートについてズカズカと聞いてくるが、次に会う時には全部忘れている生き物だ(偏見)

 先ほどの怪現象も、明日には忘れてくれているだろう(願望)


「カットはいいんで、アイロンでいい感じに髪型作る感じに変更してください」


「うおw 了解っすw」



***



「ん。たいよう見て、クルクル。」


「そうだな。綺麗に巻いて貰ってよかったな」



https://kakuyomu.jp/users/nasubi163183/news/822139842031527037



 ――ぽわぽわ。



 数分後、美容師の見事なスタイリングによって、ゆるふわカールにしてもらったルカ。

 ルカは自分の毛先のカールを指で弄っては、満足そうにしている。


 どうやら自動回復機能も、巻くだけなら発動しないようだ。


「ん。似合ってる?」


「ああ。似合ってるぞ。可愛い可愛い」


「ん……!」



 ――ぽわぽわぽわ。



 どうやら魔力の補充は続いていたようで、先ほどよりも多くの魔力が溜まっていくのを感じる。


「うおw この子なんか光ってませんw?」


「ま、毎日アジ食べてるんで!」


「あー、納得っすw 光りものって言いますもんねw うおw」


 こうして、ちょっとしたトラブルはあったものの、ルカの初めての美容院体験は無事終わったのであった。



 という訳で良い感じにオチがついた訳だが……。

 美容院編――もうちょっとだけ続くんじゃ。



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【あとがき】

この話書いたあとに美容院行ったら、担当してくれた美容師さんがめちゃくちゃいい人で、「なんて失礼な話を書いてしまったんだと」良心が痛みました😅

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