孤独のゆりかご
三鞘ボルコム
第1話
わたしは毎日、仕事で疲れてるの。
みんな「いつも元気ね」って言ってくれるけど、作ってるの。
誰も、本当のわたしを知らないの。
パパも、ママも、上司も同期も、学生時代の友達も――。
でも疲れた顔を見せると、「どうしたの?」って心配するから作ってるの。
わたしを疲れさせてるのは、あなた達なのに。
1人だったら疲れなんてしないのに。
ある日、吐き気が止まらなくなった。
1歩、職場に近づくたびに
とうとうその場にしゃがみこんで、会社に欠勤の連絡をした。
その途端、身体が軽くなる。
そんな日が稀に、たまに……
知り合いに、心の病院を紹介された。
「双極性障害……平たく言うと
それを聞いた瞬間、わたしは救われた。
わたしは病気なんだ。
誰かが「根性なし」なんてヒドイ言葉を言ってきたけど、そうじゃない。
わたしは心の病気で、だから根性がないわけでも甘えているわけでも性格が悪いわけでもないんだ。若さなんて関係ない。大学を中退したのだって関係ない。
だって、わたしは病気なんだもの。
翌日、わたしは
あぁ、なんて晴れやかな気分なんだろう。
だけど休職は1カ月……。
その日が近づくにつれて、またわたしの体調は崩れていった。
わたしは、2度と職場に戻ることはなかった。
それから1年……。
家ではケンカが絶えない。
パパもママも言うことは同じ。
「いつまで」「どうするの?」「これから」「昔は」……。
だからわたしは、いつも友達の車に乗せてもらう。
友達は話を聞いてくれて、私は窓から流れる景色を眺める。たまに川へと連れて行ってもらって水の流れを眺める。何時間でも……。
たまに友達もパパやママと同じことを言ってくるけど、2人ほどしつこくしてこない。だから、耐えられる。
わたしは、1人じゃないから。
それからはたまに仕事に就くこともあったけど、どこも長続きはしない。
わたしは入退院を繰り返し、その度に仕事を辞め、そして左腕にはカッターと、ライターの
どれくらい経ったんだっけ?
……7……8……10年?
いつの間にか、わたしは「おばさん」と呼ばれるような歳になり、履歴書は職歴のマスが足らなくなった。
それでも、わたしは働いた。だって先生も友達も、パパもママもそう言うんだもの。
でも、今回もいつもと同じ。
職場に嫌な人がいて、わたしを攻撃してくる。だから、わたしはわたしを守るために病院へと避難しなくちゃいけない。
愚痴まじりに、そのことを友達に電話した。
「いい加減、もうちょっと頑張ったら? あんた、いつまでそうしてんの?」
――――息が、止まった。
なんでそんなことを言うの? 病気の人には「頑張れ」って言っちゃダメなの、知ってるでしょ? 何年、わたしと一緒にいるの?
「あんた、病院の先生に頼りすぎ。入院して良くなったことあった? 一時しのぎで気分だけ晴れても、また同じことの繰り返しじゃない」
なんであなたにそんなこと言われなきゃいけないの? 先生が「入院した方がいい」って言ったんだよ? あなた、素人でしょ? 向こうはプロなの。素人のクセに口出ししないでよ!!
「……あっそ。じゃあ、私はもう何も言わない。あんたに会うことも、もうきっとないけど……頑張ってね」
最後にまで、また……っ!!
どうしてみんな、わたしにイジワルするの!? 数少ない味方だと思ってたのに。
所詮、赤の他人で素人の健常者にはわたしの辛さは分からないのね。
わたしを救ってくれるのは先生だけ。
わたしと苦しみを共有できるのは両親だけ。
わたしの辛さを分かってくれるのは、同じ病気の人たちだけ――。
そして、わたしは最後の友達を失った。
それでも日々は続いていく。たとえ、わたしが
孤独のゆりかご 三鞘ボルコム @misaya-volcom
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます