名もなき悼みの余白

 幼少期の虐待的な環境から、少女時代の喪失体験、そして医者になった現在へと時間を行き来しながら、一本の線で繋がっていく。
 それぞれの時間軸で「泣かない」という行為の意味が少しずつ変化していく過程が、とても印象的でした。

 冒頭の100点の答案用紙の場面。
 花丸よりも余白の白さが気になるという感覚。
 この「満たされなさ」が、物語全体を貫く主人公の孤独の源泉になっている。
 構造的に、この冒頭の余白が最後まで響き続けているのが美しかったです。

 葬式で泣く大人たちと、ブランコで風を感じる少女。

 遺族の「愛していた」という言葉と、千景の「死ぬ前に何かできる」という信念。

「悼みの名前」

 誰にも語られない名前であり、同時に、誰にも名前をつけられない悼み方でもある。
 このタイトルが、作品のテーマ全体を凝縮していて、泣くことでも、言葉にすることでもない、彼女だけの記憶の形を感じられます。

 泣かないことが冷たさではなく、別の形の深い恩寵であることを、構造そのものが語りかけてくる。

 もちろん、通院モグラ先生のあの作品の、あの人のファンも大満足出来る作品でした。