ライト先生は私を疑っているのでしょうか?

【POV:ライト先生】


五人の部下が同時に襲いかかってきた。

俺は軽く身体を横にずらすだけで、まるで遊びのように攻撃をかわした。


そのうちの一人が焦って踏み込みすぎた。

俺は片手を振り下ろし、わずかに笑みを浮かべる。


「悪くはない……だが、動きがまだ素人だな。」


目を閉じたまま、両の掌に青いマナを重ねていく。

その魔力は電流のように輝き、冷気の霧を纏いながら渦を巻いた。


次の瞬間、俺はその力を解き放つ。


――カラァンッ! ドォォンッ!


爆音とともに、四人の部下が吹き飛ばされた。

壁に叩きつけられ、呻き声を上げる者、地面に転がりながら血を吐く者。

鉄と土の匂いが鼻を刺す。


一人が這いずってこちらに手を伸ばした。

「……たすけ、て……レン……」

その声が途切れ、彼の身体は動かなくなった。


俺が使った青いマナには、微細な毒を混ぜてある。

触れただけで、筋肉も神経も麻痺し、やがて心臓が止まる。


短く息を吐き、倒れた死体たちを無表情で見下ろした。


レン・ツバサが一歩前に出る。

その顔は無感情に見えたが、瞳の奥で確かな炎が揺れていた。


「へぇ……授業をサボってばかりの先生が、こんなに強いとはな。」

「でもな、俺はビビらねぇ。むしろ――勝負がしたい。」


俺は力を少し抑え、目を閉じたまま穏やかに答える。


「お前もここにいたか。いつもふざけている生徒だが……内側は違うようだな。」


背後で、指導者らしき男が小声で命じる。


「おい、遊んでる場合か。さっさと殺れ。」


レンは小さく頷くと、次の瞬間――姿を消した。


俺は反射的に背後へ青いマナを放つ。

だが彼の姿はすでにそこにはない。


「……ほう。なかなかやる。」

わずかに口元が緩む。


突如、俺の足元から殺気が走った。

レンが影のように地面から現れる。


俺は即座に跳躍する。空気を蹴るようにして避けると、

下から笑い声が響いた。


「ハハハッ、ライト先生でも驚くんだな! 遊びとしては悪くねぇ!」


彼の姿が再び掻き消える。

空間のどこかに、息遣いだけが残る。


俺は耳を澄ませ、目をさらに閉じた。


――仕方ない。


この力を使うしかない。


意識を一点に集中させ、感覚を閉ざす。

そしてゆっくりと瞼を開けた。


視界の奥に、わずかな「揺らぎ」が見える。


「……見つけた。」


俺は音もなく踏み込み、一瞬で距離を詰めた。


「捕まえたぞ。」


「なっ――!?」


レンが驚愕する間もなく、俺の拳が彼の喉元を打ち抜く。

その身体は力を失い、地面へと崩れ落ちた。


俺は静かに近づき、軽く衣服の乱れを整える。

その視線の先で、指導者の男が立っていた。

冷たい笑みを浮かべながら。


「さて……お前は何者だ? なぜ俺の生徒を巻き込んだ?」


俺の声に、男は小さく笑う。


「ハハハ……落ち着け。俺はただ見てみたかっただけさ。お前らの学院の生徒――シン・ウメザワをな。」


「……シン・ウメザワ?」

俺は眉をひそめる。


「あの“属性なし”の少年か?」


男の口元が歪む。


「フッ、属性なし? そんな冗談があるか。

無属性の少年がどうしてエリートクラスに入れる?」


俺は沈黙のまま男を見据える。

次の瞬間、俺の瞳が僅かに輝いた。


目には見えぬ“何か”を掴むように、手を伸ばす。


男の顔色が変わり、口端から血が流れる。

身体が震え、膝をついた。


「……俺は興味がない。

その少年がどんな力を隠していようと、どんな過去を背負っていようと――関係ない。」


淡々と告げると同時に、俺は掴んだ“それ”をひねり潰す。


――パキィッ。


静寂の中に、何かが砕ける音が響く。

男は倒れ、そのまま動かなくなった。


俺はゆっくりと屈み、気を失ったレンを抱き上げる。


「……行くぞ。」


静かな足音だけが、壊れた建物の中に残った。

俺は背を向け、夜の闇へと歩き出す。


――こうして、一つの拠点が沈黙した。


※※※


【POV:シン・ウメザワ】


俺たちは街の中心にある高級レストランで食事をしていた。

今日の支払いは父さん――というより、母さんに強制された形だ。


父さんはどこか諦めたような顔をしていたが、それでも笑おうとしていた。


「父さん、食べないの?」


そう尋ねると、彼はハッとし、慌てて笑う。


「ああ、食べるよ、ちゃんと。」


スプーンを動かし、一口食べた瞬間、顔がぱっと明るくなった。


「うん! うまいな、これ!」


その様子に、母さんが小さく笑う。

隣ではレノとジョーカーが、まるで明日がないかのように食べ続けている。


アカガミ・リオはというと、椅子にもたれてすでに眠っていた。

膨らんだお腹が静かに上下している。


俺は思わず小さく笑った。


「……ハハッ。」


そのときだった。

心の中に、あの声が響いた。


――女神の声。


『今のあなた、幸せを知ったようですね……シン。』


俺はしばらく黙ったまま、目の前の光景を見つめた。

笑っている顔。温かな時間。


自然と微笑みがこぼれる。


母さんがそれに気づいた。


「え? どうしたの、シン? 一人で笑って。」


俺は首を振る。


「ううん、なんでもない。ただ……今が幸せだなって思っただけ。」


みんなが俺を見て、笑った。

静かで穏やかな笑い声。


俺は立ち上がり、父さんと母さんを見た。


「俺、レン・ツバサを探してくる。」


そう言って歩き出そうとした瞬間――


背後の空気が重くなった。


ピタリと足が止まる。

誰かが、そこにいる。


「……シン・ウメザワ、だな?」


静かで、しかし鋭い声。


ゆっくりと振り返ると、そこにいたのは――長い外套を纏った男。

目を閉じているのに、恐ろしいほどの威圧感を放っている。


――いつから、そこに?


「……はい。」


答えると、彼――ライト先生は微動だにせず立っていた。

閉じた瞳の奥に、何かを見透かすような気配があった。


周囲の空気が張り詰める。

父さんも母さんも、誰一人として言葉を発しなかった。


沈黙の中、ただ、時間だけが流れていった――。

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