いつものリオとは違う
ライト先生はふいに小さく笑った。
目は相変わらず固く閉じられたまま、まるでこちらの動揺を楽しんでいるようだった。
「ふふ……シン、お前は本当に警戒心が強いね」
そう言うと、今度は父さんと母さんのほうへ顔を向けた。
「そちらの二人が……シンのご両親かな?」
父さんと母さんはすぐに立ち上がり、深く頭を下げた。
「はい、私たちがシンの親です」
ライト先生は淡く微笑む。
「私はライト。こいつら五人の教師だよ」
先生は俺、レノ、ジョーカー、ローク、そして眠ったままのリオへ視線――いや、気配を向けた。
母さんが柔らかく微笑む。
「まあ……あなたが子どもたちの先生なんですね」
ライト先生は小さく頷く。
俺は恐る恐る口を開いた。
「えっと……先生、どうしてここに?」
ライト先生は目を閉じたまま俺を見る。
その“視線”は、目を開いていないのに鋭さだけははっきり感じられた。
そして父さんと母さんへ許可を求めるように顔を向け――
「ちょっと用があってね……この五人を少し借りるよ」
その声は穏やかだが、どこか逆らえない圧を帯びていた。
父さんと母さんは即座にうなずく。
「はい、お願いします」
ライト先生は二本の指を静かに上げた。
直後――
俺たち五人の身体が青い光に包まれ、風が渦を巻く。
――ウシュッ!
瞬きする間に景色が変わった。
※※※
目を開くと、そこは薄暗い地下の部屋だった。
エリュシオン学園にある、ライト先生専用の私室らしい。
冷たい空気、天井で淡く輝く青い魔力結晶、そして濃密なマナの匂い。
ライト先生はいつものようにゆっくりと椅子へ向かい、静かに腰を下ろした。
俺が息をのんで質問する。
「先生……どうして僕たちをここに?」
ライト先生は薄く笑う。
「今日から、お前たち五人は正式に一つのチームだ。そして――私がその指導役を務める」
「へっ!? なんで急に!?」
レノが文句を言う。
「校長の許可とかいるだろ!?」
ライト先生は指を軽く弾いた。
――ティンッ。
空中にホログラムが映し出され、校長の顔が表示される。
「レノ、ジョーカー、ローク、シン、そしてリオ……
君たち五人はライト先生の指導のもと、一つのチームとして活動してもらう。
任務は――この世界を守ること。
君たちの実力は、すでに他の生徒とは別次元にあるからだ」
校長はため息まじりに続ける。
「……本当はライト先生に無理やり押し切られただけだが……すまん」
映像はそこで自動的に途切れた。
レノが腹を抱えて笑う。
「やっぱり! 先生に押し切られただけかよ! ははは!」
ライト先生は軽く手を上げた。
――ブワッ。
その瞬間、レン・ツバサが部屋の中央に転送されてきた。
表情のない、ぬけ殻のような顔で立っている。
「さて」ライト先生が言う。
「君たち五人の任務だが……こいつを殺せ」
「は……レン!?」
ロークの顔が一瞬で強張った。
怒りが彼の顔に溢れる。
「先生! レンに何をしたんですか!」
ライト先生が手をひらりと振る。
――ドサッ。
レン・ツバサの目に一瞬で光が戻る。
「まだ、友達だと思っているのかい?」
ライト先生は目を閉じたまま淡々と言う。
「こいつは……裏切り者だ」
「裏切り者!?"
ロークが叫ぶ。
「そんなわけないだろ! あの坊主が裏切りなんて――!」
「ローク……」
レンが眉をひそめた。
そして――いきなり怒鳴った。
「俺は裏切り者だよ、このバカ!
お前のほうこそ無警戒すぎるんだよ!
少しは考えて行動しろ!」
部屋に響き渡る声。
ロークは呆然と固まった。
「は……うそだろ……?」
声が震える。
「俺……お前を……初めての友達だと思ってたのに……
この四人より先に……」
レンは無表情のまま、しかし淡々とした声で答えた。
「悪いな、ローク……俺はお前のこと、友達だと思ったことなんて一度もない」
空気が一気に冷え込む。
一歩、リオが前に出た。
その呼吸が――いつもの彼とはまるで違う。
重く、冷たく、そして……どこか暗い。
「先生が殺せと言うなら……俺がやる」
声は低く静かだが、圧だけは異常だった。
俺が慌てて腕を掴む。
「リオ、待て――」
だが、彼の目を見た瞬間、動きが止まった。
あれは――俺の知っているリオの目じゃない。
深く、冷たい光を放つ“何か”の目だった。
「邪魔するなよ……シン」
声が無機質にひびく。
俺はその腕を放すしかなかった。
リオはレンへと歩き出す。
「覚悟しろよ、レン……」
――ドガァッ!!
リオが一瞬で姿を消し、次の瞬間にはレンの目の前に現れる。
「くっ――!」
レンは即座に腕を上げ、防御態勢を取る。
しかし、リオの拳が嵐のように降り注ぐ。
――バンッ!
――ガッ!
――ドッ!
目で追えない速さ。
残像が三重にも四重にも重なる。
レンは必死に防御するが、押される一方だった。
「ちっ……いつからこんな速く……!?」
リオは鋭い目で彼を見下ろす。
その目は本当に“光”を宿していた。
「逃げられると思うなよ……」
低い声が部屋に響く。
「俺は……いつだってお前を捉えられる」
レンの喉がごくりと鳴る。
圧力が増し、空気そのものが重くなっていく。
リオは少し顔を上げ、瞳が淡く光を帯びた。
「俺の《光眼》……
この目は、俺の周囲の時間を“無意識のうちに”遅らせる」
「な……に……!?」
リオは薄く笑った。
その笑みは、いつものふざけた笑顔とは違う――冷たい笑み。
「ただ――弱点もある」
「でも、その弱点は……教えるつもりはない」
風が渦を巻き、光が散り、リオの気配がさらに鋭く尖っていく。
レンが歯を食いしばる。
「チッ……面倒な奴だ!」
リオが一歩踏み込む。
足音すら聞こえないほど、静かで――速い。
「もう警告はした」
囁くような声が降りた。
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