マスターライトは犯人を見つけたのか?

翌日――。


エリートクラスから後方クラスの教師たちが、会議室に集まっていた。

空気は重く、真剣そのもの。

昨日の出来事――カエルが使った「呪われた力」について議論していた。


一人の教師が机を軽く叩き、険しい表情で口を開く。


「……あれは普通の魔法ではありません。高位の呪術です。

 なぜ生徒がそんなものを?」


どよめきと不安げな囁きが広がる。


だが、その中で一人だけ気楽そうに立ち上がった人物がいた。

ライト先生だ。

奇妙だが、いつも問題を解決する謎の教師。


「じゃ、行ってくる。用事があるんで」


「待て! こんな時にどこへ行くつもりだ!

 カエルの力の出所を調べないと――!」


腕を掴まれたライト先生は、薄く笑って目を細めた。


「調べなくても、そのうち分かるよ」


「……もう知っているのか!? その力の正体を!」


ライト先生は肩越しに振り返り、口元を歪めた。


「それは――秘密だ」


言い終えると同時に、その身体が淡い光に包まれ、音もなく消えた。


――チリン。


残された教師たちは言葉を失う。


校長はため息をつき、こめかみを押さえながら呟いた。


「……相変わらずだな。だが、不思議と信用してしまう」


***


その頃、俺たち生徒は校長の判断で休暇をもらっていた。

昨日の騒動の原因――カエルの力を調べるためらしい。

まあ、なんにせよ休みはありがたい。昨日の戦いで疲れたしな。


ルシアは女友達と出かけ、

俺はローク、レン・ツバサ、レノ、ジョーカー、そして生意気な赤髪リオと街にいた。


魔法の練習に励む子どもたち、

商人の声、焼きたてパンの匂い――

穏やかで、心地よい日常。


そんな中、突然誰かが叫んだ。


「シン!」


その声に足が止まる。

振り向くと、俺の心臓が一瞬止まった。


父さんと……母さんがいた。

仲良く並んで歩いている。まるで普通の夫婦みたいに。


「……マジかよ」


思わず駆け寄る。

父さんはいつもの調子で手を振り、母さんは優しく微笑む。

まるで昨日、死にかけた息子を見ていなかったかのように。


後ろでは仲間たちが固まっていた。


「……あれ、シンの親?」とロークが小声で。


ただ無言で頷く俺。

胸の奥が熱くなる。嬉しさ、驚き……いろんな感情が渦巻く。


父さんが肩を軽く叩いた。


「強くなったな、シン」


母さんは優しい目で俺を見た。


「怪我はしてないでしょうね?」


「大丈夫だよ。心配すんな」


リオが近づき、俺の親を見ながら呟いた。


「……シンの家族、普通に優しそうなのに……本人だけ戦闘狂なの不思議だよな?」


俺は無言で睨む。


「もう一回言ってみろ、リオ」


「ご、ごめんって! 冗談!」


皆がくすっと笑う。


母さんがきょろきょろし、尋ねてきた。


「……で、あなたのお姉ちゃんは?」


「女友達と出かけたよ」


リオがこそっと耳元で囁く。


「……ねえシン、お母さんの名前って――」


コツンッ!

俺は迷わずリオの頭をはたいた。


「言うかバカ」


「いってぇ! 暴力系主人公かよ……!」


俺はため息をつき、レン・ツバサを見る。

ずっと無言で、表情がどこか硬い。


「レン? どうしたんだよ」


答えたのはレノ。


「えっ俺? なに?」


「お前じゃねぇ。絡まった毛玉」


「毛玉じゃねぇ! これスタイルだから!」


ようやくレン・ツバサが口を開いた。

声がどこか震えている。


「……ごめん。先に行く」


そう言って背を向け、早足で立ち去る。

逃げるように。


(あいつ……様子がおかしい)


追おうとした瞬間、母さんが声を弾ませた。


「みんな、お休みなんでしょ?」


「はいーー!!」と全員即答。


母さんはニコニコ顔。


「じゃあ、うちの旦那にご馳走してもらいましょうね!」


父さんの顔が凍る。


「……え? なんで俺が?」


母さんの冷たい目線が突き刺さる。

父さんは静かに敗北した。


「……はい。ご馳走します」


仲間たちは大歓声。


「よっしゃぁ!」 「タダ飯~~!」 「肉五人前いきます!」 「ひゃほーー!」


俺だけは少し気を取られたまま、

レンの去った方向を見つめていた。


(……何があったんだ?)


***


一方その頃――。


静かな部屋。

レン・ツバサは重い足取りで扉を開け、中に入った。


「……で、シン・ウメザワはどうだ?」


部屋の奥、玉座のような椅子に座る男が問いかける。


レンは表情を変えず、静かに答えた。


「つまらない。……今すぐ殺したくなるくらいには」


男は笑う。


「ははは。で、例の呪術は?」


「渡したよ。シン・ウメザワを憎む者に」


そして、冗談めかして言う。


「そろそろ、道化の役も飽きたしね」


その時――扉がゆっくり開いた。


足音。

柔らかな光。

現れたのは――ライト先生だった。


「やっぱり……お前が後方クラスの生徒に呪術を渡した張本人か」


レンの顔が一瞬で青ざめる。


「せ、先生!?」


男はふっと笑う。


「見つかったか」


しかしライト先生は冷静なまま。

目を閉じ、両手をゆっくりと掲げる。


蒼い魔力が渦を巻き、部屋の空気が震えた。


「……さて。処刑の時間だ」


青い魔力が爆ぜ、冷たい雷のような音が響く。


――バチッ……バチッ……!


レンと男は息を呑み、構える。

部屋の隅の影が蠢き、黒い気配が浮かび上がる。


この瞬間――静寂が、戦慄へと変わった。

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