爆発の先:偽りの勇者の生還
覚醒と痛み
シオンは、意識が浮上する重い感覚とともに、全身を貫く激しい痛みで目を覚ました。最後に覚えているのは、メタルゴーレムドラゴンの口の中で、自分の存在がすべて光に変わった瞬間だった。
「……くそ、俺は……死んだんじゃねえのか?」
彼は重い瞼をゆっくりと開いた。視界に入ったのは、見慣れた王城の一室、そして白いシーツに包まれた自分自身の体だった。
次にシオンが確認したのは、吹き飛ばされたはずの右腕だ。
右腕はある。だが、それは血肉の腕ではない。肘から先が、精巧な金属と魔力結晶で構成された、リリスの技術の粋を集めた義肢になっていた。指先を動かすと、かすかに金属が擦れる音がした。
「ハッ……チートかよ。さすが魔王サマ」
安堵と苦痛が混ざり合った笑いを漏らすシオンの視線が、部屋の隅に向けられた。
眠る魔王
彼のベッドのすぐ隣、椅子に浅く腰掛けたまま、魔王リリスが眠りこけていた。彼女は町娘の姿ではなく、真の魔王の姿――深紅の瞳を閉じ、夜の闇のような長い髪が肩から流れ落ちている――でいた。
リリスは、シオンの左腕を両手でしっかりと掴んで離さず、まるで宝物のように胸に抱きしめていた。その顔は、極度の疲労と、シオンの安否を案じ続けた緊張から解放された、無防備な寝顔だった。
彼女の頬には、乾いた涙の跡が残っている。
シオンは、動かない右腕の義肢をそっと動かし、リリスの頭に触れようとしたが、魔力回路の不慣れからか、わずかなノイズとともに手が止まった。
彼は、自分がメタルゴーレムドラゴンを内側から破壊した後、リリスがどれほどの絶望と、そして安堵を味わったかを想像した。
「チッ、また非合理的な行動をとっちまったな、俺は……」
彼の自己犠牲は、リリスにとって最も受け入れがたい計画の妨害であったはずだ。それでも彼女は、シオンを古代の魔法技術と魔族の知恵のすべてを使って、この世に引き戻したのだ。
偽りの勇者の決意
シオンは掴まれたままの左腕にそっと力を込めた。
リリスが掴んでいるのは、単なる彼の腕ではない。それは、彼が「戦争の向こう側」へ行くための唯一の設計図を握っているという強い意志の証だった。
「目が覚めたのね、シオン様」
リリスは、魔力感知でシオンの意識の覚醒を察知したのだろう、目を開けた。彼女の深紅の瞳は、すぐに涙で潤んだ。
「貴方は……貴方は本当に、愚か者だわ!」リリスは泣きながら、それでも左腕を離そうとしない。
シオンは、少しだけふざけた笑みを浮かべた。
「ああ、そうさ。俺は、勇者の剣も抜けない、偽りの勇者だ。でもな、リリス。俺の命は、アンタが作った世界の、土台だ。勝手に壊すわけにはいかねえだろ?」
シオンは、その精巧な義肢を軽く動かし、リリスの涙をそっと拭った。
「さあ、魔王サマ。俺の『激しい負荷』は、まだ完了してないぜ。俺をこの世に引き戻したんだ。最後まで、責任をもって未来の設計図を完成させろよ。それが、俺の『戦争の向こう側』だ」
シオンの生還は、単なる奇跡ではなく、魔王リリスの彼への強い愛と、未来への強い執着が生んだ必然だった。
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