偽りの勇者の絶唱
責任と決意
国際会議の場に響き渡るメタルゴーレムドラゴンの咆哮と叛逆者の声明。混乱の極みで、シオンは静かに立ち上がった。
「これは俺の責任だ」
シオンは、リリスとフィオナを見た。その瞳は、逃亡者でも、軽薄な夫でもない、かつての戦争の道具としての冷徹な輝きを宿していた。
「フィオナは、茶でも飲んで休んでてくれ。リリスは、この場から動くな。アンタの設計図が未来なんだから、絶対に死ぬなよ」
シオンは、フィオナの「平和の演説」を、そしてリリスの「平和の設計図」を、自らの命を懸けて守ると決めた。
「俺の口から出た言葉を利用して、世界中に心中を持ち掛けるような真似、させるかよ」
シオンは、リリスの空間魔法の力を借りず、自らの魔力で不完全なテレポートを発動させた。彼の姿は一瞬で消え、王都郊外へ向かうメタルゴーレムドラゴンの進路上に現れた。
偽りの勇者と抜けぬ剣
シオンは巨大な金属の竜の前に立ち、まず背に負った「勇者の剣」に手をかけた。それは父が容易く引き抜いたと言われる、伝説の剣だ。
シオンは力を込めて剣を鞘から抜こうとするが、柄は動くのに、刃が抜けない。昔からそうだ。彼は、自分が「勇者の名を騙る偽物」であるかのように、心の中で罵倒した。
「チッ、相変わらずご機嫌斜めかよ、クソ剣が」
剣を諦めたシオンは、肉体強化の魔力を最大限に高め、メタルゴーレムドラゴンに向かって突進した。
ガシャアァン!
シオンの突進は、巨体を止めるどころか、逆に簡単に轢かれてしまう。ドラゴンの硬質な足が通過した後、シオンは土煙の中で立ち上がった。
彼の体には傷一つない。長年の戦いで、彼の肉体は規格外の強度を獲得していた。しかし、内部への衝撃は免れない。身体の中身がどうなってるかなんて、考えたくもないほどの激痛が全身を襲った。
絶望的な反撃
シオンは痛みを無視し、再び拳を握りしめ、咆哮を上げてドラゴンに殴りかかった。
「痛み分けだ、クソがよ!」
ドラゴンの硬質な鱗にひびすら入らない。次の瞬間、メタルゴーレムドラゴンの口が閃光を放ち、永久機関のマナを炎に変えたブレスが放たれた。
シオンはブレスを避けようとするが間に合わず、右腕が肘から先、完全に吹き飛ばされた。
激痛は全身を麻痺させたが、シオンは止まらない。彼は吹き飛ばされた右腕の代わりに、左腕を振るい、ドラゴンの右足に飛びついた。全身の魔力を左腕に集め、捻る、捻る、捻り切る!
ギチギチッ、ゴガアアァン!
シオンの左腕とドラゴンの右足の接続部が悲鳴を上げ、巨大な右足が文字通り捻じ切られた。メタルゴーレムドラゴンは、バランスを崩してよろめいた。
「ハッ…クソがよ!」
最後の賭け
メタルゴーレムドラゴンは怒り狂い、その口からマナブレスを連続的に、そして無差別に、様々な方向へ吐き続けた。辺り一帯の山々は焦土と化す。
シオンは、吹き飛んだ右腕の傷口を押さえ、最後に一度だけ、王都の方角を見た。彼の脳裏には、リリス、フィオナ、そして顔も知らないがリリスのお腹に眠る未来の子供の姿が浮かんだ。
「リリス。フィオナ。親父、お袋。そして……」
シオンは、心の中で深く、謝罪を告げた。
「心から……すまない。俺の戦争は、ここで終わらせる」
彼は最後の魔力を振り絞り、テレポートで一気にメタルゴーレムドラゴンの巨大な開かれた口の中へ突っ込んだ。
ゴオオオオォォォ……
シオンの肉体は、ドラゴンの体内に入った瞬間、自己破壊を伴う最大級の魔力暴発を引き起こした。永久機関のマナ炉心と、シオンの全魔力と肉体のエネルギーが衝突し、内側から巨大な閃光が噴き出した。
ドォオオオオオン!!!
王都を揺るがすほどの、最後の、そして最大の爆発が起こり、メタルゴーレムドラゴンは、頭部から炉心に至るまで完全に破壊され、静かに崩れ落ちた。
シオンの姿は、その爆発の中に消えた。彼は、偽りの勇者として、最高の自己犠牲を世界のために捧げた。
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