順風満帆な外交と機械竜の咆哮
順調な平和への道筋
王城の外交ホール。聖女フィオナは、シオンとリリスが作り出した「恐怖による平穏」という異質な土台の上で、驚くほど順調に国際協定締結へと舵を切っていた。
フィオナは、リリスから提供された内政改革の成功データと、魔王軍の情報網が解析した各国の経済的弱点を巧みに利用しつつ、自らの清らかな道徳的権威を駆使して各国代表を説得していた。
「シオン様が望むのは、破壊ではなく共存です。リリス様の技術は、魔族のための支配ではなく、人類の生活水準を向上させるための贈り物です。私は、聖女として、この協定が人類の最も清らかな未来を約束すると断言いたします!」
フィオナの演説は、各国代表の心に響き始めていた。ガルディア帝国も、シオンの「悪魔のような脅迫」を恐れて沈黙を保ち、協定締結は目前に迫っていた。
緊急警報と衝撃の報せ
まさに、協定書への署名が行われようとしていたその瞬間、外交ホールの扉が乱暴に開け放たれた。血相を変えた王城の伝令兵が、壇上のフィオナに向かって駆け寄る。
「せ、聖女様! 緊急連絡です! 国境沿いの『古き封印の地』で、大規模な魔力反応と地殻変動が確認されました!」
ホールは一瞬にしてざわめきに包まれた。フィオナは顔色を変えず、冷静に問い詰める。
「封印の地? 何が解放されたの?」
伝令兵は息を切らしながら、絶望的な言葉を絞り出した。
「伝説でしか語られなかった、古代の起動兵器です! それも、ただのドラゴンではありません! メタルゴーレムドラゴンです!」
その名を聞いた各国代表たちは、一様に恐怖に顔を歪ませた。メタルゴーレムドラゴン。それは、古代の機械仕掛けのドラゴンであり、普通のドラゴンよりも遥かに高い硬度を持つ外骨格と、永久機関のマナ炉心を持つ、暴走し続ける厄介者として歴史書に記されていた。
「マナが尽きることがないため、奴は止まりません! すでに国境の山脈を破壊し、王都へ向かっているとの報告が……!」
叛逆者たちの声明
混乱の極みにある外交ホールで、伝令兵はさらに恐ろしい一報を付け加えた。
「そして、その封印を解き放った者たちからの声明が、王都の広場で大々的に貼られています……!」
フィオナは、伝令兵から渡された巻物を開いた。その声明の筆頭には、「勇者を愛する真の愛国者たち」と記されていた。
【勇者シオンへの叛逆声明】
勇者は、魔王という不届きな存在に誑かされ、我々人類を魔族との共存という名の緩やかな隷属へと導こうとしている!
我々は、真に人類の安寧を願う勇者への忠臣として、魔王の排除、そして「平和」という名の腐敗を破壊する!
古代の守護者は、魔族の知恵に頼る偽りの平和を破壊するために目覚めた!
人類よ、勇者シオンの真の敵は、その妻である魔王リリスとその計画であると知れ!
声明は、人類に魔族を取り入れようとした勇者への叛逆を持つ反対意見の者たちが集まった集団、「真なる人類の盾」を名乗っていた。彼らは、リリスの排除と、シオンの地位回復を名目に、世界を混沌に突き落とすことを選んだのだ。
フィオナは、その声明を握りしめ、顔を青ざめさせた。彼女が築き上げた平和の土台は、一瞬にして、シオンへの「忠誠」という名の狂気と、古代兵器の暴力によって崩壊の危機に瀕した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます