第5話~捜査会議~

警視庁に戻った俺と丸山は、捜査一課の室内に戻るとすぐに、錦織が近づいてきた。


「警部、頼まれていたこと調べました」


「早いねぇ。流石だよ」


俺はホワイトボードの前にある椅子に腰をかけた。


錦織は手帳を見ながら


「調べによると、確かに一ノ瀬みどりは生まれつき、心臓疾患を持っており、過去二回ほど大規模な手術を受けています。一年前にも〈国立東京医療総合センター〉にて手術を受けています」


「そのドナーの相手は」


「それが担当の医師は頑なに相手を明かしませんでした」


「相手を明かさない?」


「はい。それどころか、相手の情報や性別も教えてくれませんでした」


「それはおかしいな」


ドナーが見つかったのは事実みたいで、手術を受けたのも事実だった。


しかし、担当医師は頑なに教えない。


相手が警察であっても教えたくない何かがあるのだろうか。


可能性を考えると、何か重大な真実を医師は隠しているに違いない。


それが今回の殺人事件のヒントになる。


俺は目を閉じてよく考えた。


その間に丸山が錦織に


「一ノ瀬みどりが手術を受けたのは大体いつぐらいだったのですか?」


「えっと、一年前の冬よ。十一月ぐらいかな。向こうも頑なに日付も言いたくなさそうだったから」


「それだと、二ノ瀬かおるが行方不明になった時期ですな」


「それともう一つ気になることがあったの」


「なんですか?」


「二ノ瀬かおる、被害者が住んでいたあのマンションの元住民だったの」


「え?」


「それも階数は二十階」


俺はそれを聞いてすぐに目を開けた。


「いつまで住んでいたんだ」


「確か二年前までです。その時期にテレビ局の編成部長に昇進したので、その祝いで家を買ったのかと」


「なるほど」


これで何故、あの監視カメラに映る女性が二十階で降りたのか。


全ての糸が繋がった。


そんなヒントを残すということは、犯人は一ノ瀬みどりに間違いない。


俺は錦織の方を向いてから


「二ノ瀬かおるが住んでいた家の近所での聞き込みは済んだのか?」


「はい。やはり仕事上、あまり親交を持つ人はいませんでした。ですが、妹さんとは仲良くしていたという証言は取れています」


「一ノ瀬みどりは、家に出入りするだけではなく、近所の人にも愛想振舞っていたのか」


恐らく何かのごまかしだろう。


テレビ局の幹部にいる以上、コミュニケーション能力は高くなければならない。


それもテレビ局が組む番組タイムテーブルを作り、それをきちんと説明する義務が伴う編成部長であれば尚更だ。


「ですが、一つ気になる証言が取れまして」


「なんだ」


「二ノ瀬かおるが行方不明になる一週間前から、一ノ瀬みどりが自宅を頻繁に出入りしているところを見られています」


「頻繁に?」


「はい。何を会話していたのかは分かりませんが」


恐らく被害者を殺害する計画だろう。


そして姉の二ノ瀬かおるは、一週間後に二度と住民に姿を見せることはなかった。


だが、肝心なのはその時間にどんな話をしていたのか。


もしかすると殺害以外の何か重大な計画を。


俺は丸山の方を向いて


「何か、分かるか?」


「もしかすると、一ノ瀬みどりが受けた心臓移植のドナーは、二ノ瀬かおる」


「可能性はあるな」


「二ノ瀬かおるは一ノ瀬みどりに殺されて・・・」


「それはない」


「え?」


「恐らく二ノ瀬かおるは自殺だろう」


「なぜ分かるのですか?」


「考えてみろ。心臓を傷つけてはいけない。そうなると撃つ場所は自然とどこになる」


「頭ですか?」


「そうだ。だが、女性でそれも初めて殺人を犯す人間が頭をクリーンヒットできるわけがない。そうなると、やはり簡単な手段は自ら頭を撃つことだ」


「なるほど」


それは支離滅裂しているかもしれないが、それでも普通に考えてみればそれが無難なのかもしれない。


二ノ瀬かおるは自ら頭を撃ち、自殺をした。


そしてその残った心臓を一ノ瀬みどりは自分の心臓に埋め込んだ。


そこまでしてあの被害者に何の恨みを持っていたのだろうか。


この恨みの根源を確かめない限り、この事件は終わらない。


今度は錦織の方を向いてから


「何か、動機関係で掴んでいることは」


「特にありません。女性関係だけで殺すとは思えないので、色々と当たっているのですが」


「女性関係はないと決めつけない方がいい。色々と女関係に関してはメニューがある」


「一応当たってみます」


「よろしく頼む」


俺は立ち上がり、その場を去ろうとすると、宮口が部屋に入ってきた。


「よう」


「なんだ」


「良い情報持ってきたんだ。聞かないか?」


「聞かせてくれ」


「今度、上手い焼き肉屋見つけたんだけど」


宮口はそう言って俺の方をじっと見つめた。


いつものたかりだろう。


こいつに奢るのはもう慣れっこだ。


過去には銀座の高級寿司を奢ったことがあるが、その時だけでも二十万は軽く吹っ飛んだ。


当時は警部補であったが、現在は警部という肩書まで昇進出来た。


だからこそ今ではいくら高級焼き肉店でも奢ることは可能だ。


俺は微笑みながらも


「いくらでも奢ってやるよ」


「よし交渉成立だ。例の拳銃の件、吐いた組がいたぞ」


「それは本当か!?」


「あぁ、それも購入者は恐らくお前たちが追っている女だ」


「一ノ瀬みどりか?」


「当たりだ」


「口径は」


「9×19㎜だ」


「被害者が殺された凶器と合致する」


「これで決まりみたいだな」


これは大きな進展だ。


これで一ノ瀬みどりが拳銃を使い、被害者を殺害した証拠になる。


後はこの二人はどのようにして被害者を殺害するきっかけを作ったのか。


その動機を探るべく、動かなければならない。


宮口の手を握ってから


「ありがとう」


「焼き肉、忘れるなよ」


「もちろんだよ」


そう言って、丸山の方を向いて


「丸山、ついてこい」


「分かりました」


そう言ってデスクを離れた。


これで準備万端だ。


後は一ノ瀬みどりを追い詰めるだけだ。


すると丸山が


「どちらに」


「当り前だろ。一ノ瀬みどりのところだよ」


「しかし、彼女はそう簡単に口を割るとは限りません」


「対決でも色々な種類がある」


「え?」


「泳がせる手段もあるわけだよ」


そう言って俺は丸山より先に廊下を歩き始めたのだった。

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