第6話~解決糸口~

再び、俺と丸山はテレビ局の応接室にいた。


やはり歴代の社長の肖像画が気になり、俺はじっと立ちながら眺めている。


丸山は座りながら後ろを振り返り、俺の方を見ながらも


「警部。今更、一ノ瀬みどりに会ったところでシラを切られるだけですよ」


「分かっている。俺は事件のことを白状させるためにここに来たわけじゃない」


「じゃあなぜ」


「ヒントを探したいだけだ」


「ヒント?」


丸山の言う通り、事件の追及をしたところで全てを隠すのは誰でも読めることだ。


しかし、少しながらのヒントは得られるだろう。


俺はそのヒントを用意しているのだ。


恐らく一ノ瀬みどりが動揺するのであろうヒントを。


俺は肖像画を黙って見ながらも、じっと立ち尽くしている。


すると扉が開き、一ノ瀬みどりが入ってきた。


こちらを微笑みながらも見つめてから


「また刑事さんですか。私も収録とか企画会議とかで忙しいんですけど」


「分かっています」


「手短に済ませてくださいね」


そう言って俺の前の席に腰を掛けた。


一ノ瀬がこちらを見つめる表情は何か不安を抱いていると感じた。


今まで見たことのない動揺した表情だ。


俺は何かを勘づいていると思い


「どうかされました?」


「いえ、何も」


まるでこの女は女優だ。


今の質問ですぐに冷静で沈黙な表情に切り替えた。


瞬発演技が早い俺にとっては、逆に対決しやすい。


「今日は番組の演出か何かですか?」


「そうですね。今日は二つのコントの演出をするだけです」


「コントですか」


「私にとって、笑いは人生の一部なので」


「確かにそうですね」


笑いが人生の一部。


それはお笑い番組を担当する人間じゃないと分からない言葉だ。


笑いを生んでから、そしてそれを世に放つ。


それだけでもかなりのプレッシャーや不安が付いてくる。


諦めずにコントを作り出す人間を俺は尊重する。


すると一ノ瀬がため息をしてから


「それで、何か?」


「あっそうでした。実は一ノ瀬さんに見てもらいたいものがありまして」


「え?」


そう言って、俺はスマホから現像してきた小さな写真を見せた。


そこにはカラー写真で学校の卒業写真が映し出されている。


一ノ瀬は黙ってそれを見始めた。


すると表情が一気に変わり


「これって」


「あなたの、高校時代の卒業写真です」


一ノ瀬は体を小刻みに震え始めてから、俺の方を睨みつけて


「・・・帰ってください」


「はい?」


「だから帰ってください!!」


一ノ瀬は声を張り上げながらも言った。


丸山も何事か分からずに、ただ黙ってこちらを見ている。


これで駒が揃い始めてきた。


恐らく一ノ瀬の計画の根源はこの高校時代からあるのだろう。


俺はその可能性を掴んだため、この写真をあえて持ってきたのだ。


カラー写真の請求は総務課に任せるとして、俺は立ち上がり


「また来ます」


そう言ってその場を離れて行った。


廊下に出ると、丸山が


「どういうことですか。写真なんて聞いてないですよ」


「とりあえず、歩きながら話そう」


「え?」


俺はそのまま前に歩き始めた。


「二ノ瀬かおると一ノ瀬みどりは、二人とも同じ高校出身だ。それも歳は二つしか離れていない。つまり、二人は共に顔を合わせられる存在だ。お互いが復讐心を強めるきっかけがあるとするならば高校しかない」


「会社という線はなかったのですか?」


「考えてみろ。会社は被害者と何も関係がない」


「そうでしたね」


「俺はそれを確かめるために、あの写真を見せたんだ。見事ヒットしたけどな」


すると奥からタイミングよく、新井田が近づいてきた。


俺は微笑みながらも


「新井田さん。これは偶然ですな」


「刑事さん、少しお話がありまして」


「はい?」


「ここでは何なので、こちらの会議室に」


そう言って、目の前にある誰も使ってない会議室に入らされた。


誰もいない会議室は、物静かで黒いカーテンが閉まっているため、なんだか軽いお化け屋敷に入ったかのような雰囲気だ。


新井田が電気を点けてから


「偶然会えてよかったです」


こんなタイミングよく話がある人間と会うわけがない。


恐らく新井田は俺たちが来るのを待ち伏せしていたのだろう。


丸山に「メモ帳」と一言頼んでから、新井田の方を向き


「なんですか?」


「実は一ノ瀬さんの件で。まだお話してないことがありまして」


「なんでしょうか?」


「実は、一ノ瀬さんはとある人物に恨みを持ってました」


「恨み?」


「確かIT企業の副社長で、名前は・・・」


「城山仁さんですか?」


新井田は目を見開きながらも


「そうです。その人です」


まだ被害者の名前はニュースで公表されていない。


何せIT企業の副社長であるため、地位や名誉を守りたいのだろう。


会社側から殺されたことは非公表でお願いと言われていたからだ。


新井田が知らなくても当然だ。


「何故恨みに思われていたのでしょうか」


「確か、高校生の同級生が何とかと」


「同級生?」


「はい。親友だったみたいなんですけど、あいつに殺されたって」


「その人の名前は?」


「確か〈井上まどか〉だった気がします」


「ありがとうございます。大変良い情報を聞かせてもらいました」


新井田は不安そうな表情を浮かべながらも


「これでいいのですか?」


「もちろんです」


俺は微笑みながらも言った。


恐らく、事件に関係ないと思って、前回は言わなかったのだろう。


だが、刑事である自分にこのような情報を出してくれた新井田の勇気に感謝しながらも、頭を下げてから


「丸山。行くぞ」


「分かりました」


そう言って会議室から出ることにした。


これで全てが分かるはずだ。


事件解決の糸口を見つけながらも、ゆっくりと歩き始めた。


丸山は後ろからついて来ながらも


「あの警部」


「なんだ」


「もし、一ノ瀬みどりが犯人だとしたら、何故二ノ瀬かおるは自殺をしたのでしょうか」


「恐らく時間がなかったのだろう」


「時間?」


「そうだ。一ノ瀬みどりは余命宣告をされていた。そうなると復讐が出来なくなってしまう。肝心なのは二人で復讐を遂げること」


「ですが、二ノ瀬かおるは・・・」


「考えてみろ。心臓移植をしたということは、今一ノ瀬みどりを動かしている心臓には、二ノ瀬かおるもいるということだ。つまり、実質二人ってことなんだよ」


「・・・」


丸山は言葉を失っていた。


これも憶測の一部なのかもしれないが、それでも俺は自信がある。


憶測だけで決めつけてはいけないが、憶測なしでは何事も動けないのだ。


これで事件が解決することを祈りながらも、歩き続けた。


俺たちがこれから向かうのは〈静岡浜松中央高校〉である。



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