第4話~直接対決~
一番会いたいと思っていた人物〈一ノ瀬みどり〉
彼女に案内されて、応接室の中に入る俺と丸山。
壁には歴代のテレビ局社長の肖像画や写真が飾られている。
俺は思わず目に入った。
テレビ局が設立されて七十年。
社長は合計で十人だ。
俺も色々と番組提供で過去の大事件を提供するために、このテレビ局を訪れたことがあるが、社長の顔はその時からはあまり変わっていない。
最近はテレビの若者離れが急激に進んでいるが、それでも諦めずに視聴者に楽しめるようなテレビ番組を作っていく姿勢は尊敬の限りだ。
俺はすぐに視線を一ノ瀬に変えた。
今の目的はこの女性から全てを聞き出すことだ。
被害者との関係や、姉の捜索願を取り下げようとした経緯など、謎な部分を取り除かない限りは、この事件は解決に進まない。
俺は彼女に促されて、広く大きなテーブルを挟んだ革製の椅子に、対面で座るとすぐに
「今、バラエティで演出をされているみたいですね」
「戸部局長から聞いたのですか?」
「えぇ」
「まぁ、今は演出と言っても、番組内容は総合演出の上司が決めていて、私は既に出来上がっている料理に更に味付けをするだけです」
「なるほど」
「いつかは総合演出をやりたいと思っていますが」
一ノ瀬は微笑みながらも言った。
「出来ると思いますよ」
一ノ瀬の目線が一気に鋭く変わり
「それで、私に用とは?」
「こちらの男性、知ってらっしゃいますか?」
そう言って、俺は一ノ瀬の前に被害者の写真を見せた。
しばらく一ノ瀬は写真を見ている。
だが、表情は決して変わらず、至って冷静に写真を見つめているのに違和感を抱いた。
すぐに答えが出るとばかり思っていたが、体感では十秒経っても何も喋らずに見つめている。
何か思うことでもあったのだろうか。
だが表情は変えずに、ただ不気味さだけがこの応接室を漂わせている。
耐えきれなくなった丸山が
「あの、大丈夫ですか?」
「え? あぁ、大丈夫です」
「この方に見覚えは」
「あります。姉の内縁の男性ですよね。確か名前は〈仁さん〉ですね」
俺は小さく頷いてから
「この方に会ったことは」
「ありますよ。姉と一緒に食事をしたことがあります。確か三回ほど」
「お姉さんが行方不明になられてからは」
「ありません」
「一度もですか?」
「えぇ、ないです」
それは嘘だ。
実の姉が行方不明になり、内縁の男性である被害者が警察に捜索願を出している。
被害者も一ノ瀬と以前から会っているとなると、何の相談もなしに捜索願を出すとは思えない。
その流れも含めると、二回ほど会っていてもおかしくはないのだ。
それを隠すということは、何か自分たちに話せないものがあるに違いない。
「あの、連絡とかは」
「してないです。仁さんが亡くなったのもニュースで知ったくらいなので」
「そうですか。それともう一つ」
「なんですか?」
「以前、出されていた捜索願を取り下げるように言ったみたいですね。被害者本人に」
「・・・」
俺は微笑みながらも一ノ瀬を見た。
これで引っかかった。
被害者本人に連絡している情報を既に得ているため、あえて引っかけるような質問をした。
丸山も俺の策に気づいたため、微笑みながらも
「連絡しているではないですか」
「それは・・・」
「何故嘘を付かれたのですか?」
「・・・」
すると一ノ瀬が突然立ち上がり、俺たちに鋭い目線を送りながら
「もう話すことはありません。帰ってください」
やはりそう来たか。
自分が不利になると追い出す作戦だ。
丸山は納得できないのか、そのまま質問を続けようとしたが、俺はそこで止めた。
ここはあえて泳がせておこう。
俺も立ち上がってから
「あなたには謎が多すぎます。そこを突き止めるまでは何度でも訪れますから」
「・・・」
一ノ瀬は俺の顔をじっと見ながらただ黙って立っている。
丸山も立ち上がり、俺は彼を連れて応接室を出た。
そのまま廊下を歩き始めると、丸山が怒りの表情になりながら
「あの女、絶対何か隠してますよね」
「嘘をつくということはそういうことだろう」
「やっぱり、彼女がクロなんでしょうか」
「まだ断言できないが、恐らく関わっている可能性はものすごく高い」
「ちくしょう」
すると目の前から三十代の人気女性タレントである〈新井田ひとみ〉が近づいてくる。
そうだ、この近くには撮影スタジオがあるため、タレントや芸人が通ってもおかしくはない。
しかし、テレビで見るよりもかなりの顔の小ささに驚きながらも見ていると、新井田が不信な表情を浮かべながらも
「何か?」
「いえ。これから収録なんですか?」
「はい〈お笑いミュージアム〉の」
すると丸山が俺に耳打ちで
「一ノ瀬みどりが演出をしている番組です」
「よく知ってるな」
「調べました」
「ありがとう」
これは良いチャンスだと思い、新井田に警察手帳を見せてから
「警視庁のものです。ちょっとお話良いですか?」
新井田は戸惑いながらも
「何もしてませんよ」
「大丈夫です、あなたのことではないので」
「え?」
「今の番組の演出担当している一ノ瀬みどりさんについて、お聞きしたいことがありまして」
「あぁみどりちゃんね」
「仲いいのですか?」
「えぇ。親友みたいな関係ですね。まぁ演者とスタッフがあまり深い関係になってはいけないと、聞いたことがありますが。私はそんなこと関係ないので」
確かに演者とスタッフが深い関係になることは聞いたことがない。
まぁ一ノ瀬のあの性格を見ていれば、誰でも仲良く出来そうな感じがする。
新井田も若いながらもかなりベテランタレントになっているため、スタッフとの良い仲になっていてもおかしくないなと感じながらも
「それで一つ聞きたいことがあって。最近一ノ瀬さんに何か変わったこととかありませんでした?」
「えっと・・・あっ、一年前かな、この番組が始まった時期だと思うんですけど、みどりちゃん手術したって言ってたな」
「手術?」
「はい。みどりちゃんとは五年前から付き合いがあるんですけど、生まれつき心臓疾患持っていて。上手く心臓バイパスが上手く動かない病気みたいで。心臓も移植手術をしないと長くは持たないと言われていたみたいですよ」
それは初耳だ。
先ほど対面した際は、そんな素振りは一切見せなかった。
報告にも上がってきてないため、想定外の内容に目を見開きながらも
「かなり大きな病気だったのですね」
「えぇ。でも一年前にドナーが見つかったみたいで、それで手術をしたみたいですよ」
「ドナーですか。ちなみにそのドナーの相手は」
「分からないです。そこまで深くは聞いてないので」
「そうですか。分かりました、ありがとうございます」
そう言うと、新井田はその場を離れて行った。
丸山が俺の方を見ながらも
「まさか、一ノ瀬みどりに手術歴があったとは」
「それも心臓移植という大規模なものだ。ちょっと警視庁に戻るぞ」
「分かりました」
俺は片手に携帯を持ち、電話をかけながらも廊下を歩き始めるのであった。
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