第3話~会社訪問~

テレビ局の廊下。


俺を先頭にして、丸山が付いてくる形で歩いている。


やはりこの場所は異世界だ。


多くのスタッフたちが出入りをしており、中にはADさんだと思われる格好をした女性がタレント楽屋に繋がる道に駆け足で通り過ぎていく。


そのほかにも怒鳴り声が会議室から聞こえてきたり、頭を抱えた男性が涙目で通り過ぎたりと、一つのビルの中だがとても異国に来た感覚を覚えた。


俺は〈一ノ瀬みどり〉の上司に当たるバラエティ制作局長の〈戸部真一〉に会いに行くため、バラエティ制作室に向かっている。


廊下を歩きながらも、俺は人目を気にせずに丸山に少し目線を送りながら


「そう言えば、一つ気になったことがあるんだ」


「なんでしょうか」


「一ノ瀬みどりは結婚しているのか? 姉が〈二ノ瀬〉なのに妹は一ノ瀬だから」


「確か一ノ瀬みどりは一人身です。結婚した経歴もありません」


「ないのか」


それは気になることだ。


偶然にも似た苗字である〈一ノ瀬〉という男性に嫁いだのであれば、それはまた話は変わってくるが、結婚履歴もないとなると、何故姉からの苗字を変えて〈一ノ瀬〉になったのか。


これも調べて行かなければならないと思いながらも


「丸山」


「はい」


「被害者はどうして殺されたと思う」


丸山は少し考えているのか、三秒ほどの間を空けてから


「そうですね。恐らく被害者は何かしらの恨みを持たれていた」


「どんな恨みだ」


「例えば女性関係とか。内縁の女性が行方不明でいまだに見つかってないというのに、新しい彼女を作っていることから、妹が殺意を持ったとか」


「被害者は結構遊び人だったのか?」


「実は錦織さんが被害者のお兄さんに事情聴取を。すると頻繁に銀座のキャバクラに出入りをしていたとか」


内縁の女性が行方不明中にキャバクラに出入りとなると、かなり女性関係に関しては一途な部分は見えない。


そうなると、やはり丸山の言う通り、女性関係にて妹のみどりが恨みを持ち、殺害した可能性も高い。


それにしてもあの監視カメラからの挑戦的な顔が忘れられない。


一体あれはどういう意味だったのか。


俺は考えながらも


「なるほど。合理性はなるな」


「ですが、自分も気になることが」


「なんだ」


「二ノ瀬かおるが住んでいた家のご近所さんから聞いた情報なのですが、行方不明になる当日、家から発砲音が聞こえてきたみたいなんです」


「発砲音?」


「はい。確か夜の八時過ぎだったと記憶しています。最初パーティーか何かをしているのかと思ったらしく、通報はしなかったみたいなんです」


確かにその可能性もあるが、もう一つの可能性は拳銃の音。


そうなると〈二ノ瀬かおる〉は既に・・・


だが、そうなると犯人は被害者なのだろうか。


被害者が内縁の女性を殺害し、そして一年後に妹が被害者を殺害した。


その線が濃厚であるが、それ相応の証拠を見つけなければならない。


一旦はその線を考えつつ、バラエティ制作室のオフィスに入った。


すると奥のデスクに一人の男性が仕事をしている。


恐らくこの人がバラエティ制作局長の〈戸部真一〉だろう。


俺はゆっくりと縦に並んだデスクの間を潜り抜けながらも、横に並んだデスクの一つに座っている男性の前に立ち


「戸部真一さんですか?」


「そうですけど。どちら様ですか?」


「警視庁捜査一課の島田です」


「同じく丸山です」


二人は並んで立ち、警察手帳を見せた。


戸部はため息をしながらも


「もしかして、一ノ瀬に用事でしょうが、彼女が取次ぎをしないので、俺の所に来たという感じですか」


「お察しが早いですね」


「俺も色々と先手を見る仕事をしていますから」


戸部は不機嫌そうな表情を浮かべてから、膝をつきながら両手に顔を乗せながらも、こちらを見つめている。


こんな表情は慣れるほど見ているため、俺も少し表情を重くしながら


「実は一ノ瀬さんの人柄を知りたいと思いまして」


「人柄?」


「はい。普段の仕事ぶりは」


戸部は微笑みながらも


「変わった質問をするね。まぁ、普段は優秀ですよ。バラエティに対して熱が籠っていますし、それに他のスタッフに対しても優しくて、リーダー気質のある人です。総合演出している番組もかなり跳ねてますからね。今後はバラエティ制作部の重要ポジションに置こうかなと思ってます」


「そうですか」


「でも、刑事さんがわざわざ人柄を聞くなんて。事件と何か関係でも?」


「そうですね。お姉さんがいた時はかなり優秀でしたか?」


「は?」


「いや、念のために」


「そうですね。かなり優秀だったと思いましたよ。まぁお姉さんとは部署が違ってましたが・・・」


そこで言葉を閉じてしまった。


何やら深刻そうな表情を浮かべていたため、俺は何か掴んだと思い、微笑みながらも


「何か?」


「いや、お姉さんとはあまり話しているところは見たことがなくて」


「同じテレビ局に務めているのに?」


「俺も気になってます。何せ二人は同期入社でしたから」


「同期入社?」


「えぇ、確かお姉さんの方は中途採用だったような」


「中途採用ですか・・・」


俺は小さく頷いてから


「分かりました。ありがとうございます」


そう言って丸山を連れて制作室を離れた。


丸山は後ろについて来ながら


「あの、さっきの質問って何だったのですか?」


「意味か?」


「そうです。何故人柄について聞くのですか」


「考えてみろ。一ノ瀬みどりは姉が行方不明になってから、捜索願を取り下げるように願ったりしているんだ。完全に良好な関係だとは思えないんだ」


「でも、姉の〈かおる〉はまるで妹に付いて行く形でこのテレビ局に入社しています」


「確かにな。そこが気になるんだよ」


「良好なのか、不仲なのか」


すると後ろから女性の声で俺たちを呼び止める声が聞こえた。


振り返ると、そこにはスーツ姿の女性が立っており、こちらに近づいてきた。


まるでモデルやタレントにいてもおかしくないスタイルと美貌を持っているため、つい惹かれそうになってしまったが堪えて、彼女が目の前まで近づいてきてから


「なんですか?」


「警視庁の方ですよね?」


「そうですが」


「私、一ノ瀬みどりです。ここに刑事さんがいらっしゃってると聞いて」


この女性が〈一ノ瀬みどり〉か。


だが、警視庁の出入りを断っていた人間としては、意外と冷静だ。


俺たちをじっと見てから


「こちらへどうぞ」


そう言われて、俺と丸山は一ノ瀬に連れられて応接室に向かったのだった。


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