第2話~事件報告~
警視庁に戻った俺は、捜査一課のメンバーらと共に捜査会議を行った。
色々と被害者〈城山仁〉の情報や、過去の経歴などを報告されたが、特に恨まれる要素や組織絡みという情報はなかった。
一体何故、被害者は殺されたのか。
マンションの二十階で話を聞いたが、一切情報源となるものは取れなかった。
住民には一人一人に被害者と謎の女性の写真を見せたが、被害者のことは知っていても女性が知らないという情報がほとんどであった。
では、一体何故〈謎の女性〉は二十階で降りたのか。
丸山の言う通り、アリバイ作りのために二十階で降りたのだろうか。
アリバイ作りだとしても、なんだか安易な気がする。
あの女性の正体と目的が知りたいと思いながらも、ホワイトボードをじっと眺めながら考えていると、丸山が近づいてきて
「警部。被害者のことで分かったことがありました」
「なんだ」
「被害者と内縁を結んでいる女性なのですが、一年前から行方不明になっています」
「行方不明?」
「名前は〈二ノ瀬かおる〉。テレビ局の編成局で部長をしている人物です。捜索願を出された記録も残っています」
「そうか」
そうなると、あの女性の正体は行方不明になった内縁の女性なのか。
そうなると、一年越しを経て何故被害者を殺害したのか。
恨みがあったとはいえ、一年間姿をくらませていたとしたら長すぎる。
それほど計画を練っていたとなれば、それまでだが、やはりあの監視カメラに映っている行動が気になる。
監視カメラに映っていると分かっていながら、二十階で降りるという謎の行動。
俺は丸山に
「その女性の写真あるか?」
「はい。こちらになります」
そう言って女性の写真を見せてきた。
しかし、監視カメラに映っていた女性とはまた違う顔だ。
だが、これで完全に内縁の女性が白だとは言えない。
女性自身が整形をしている可能性だってあるのだ。
顔を変えてカメラの前に現れて、被害者を殺害した線もあり得る。
俺はしばらく考えていると
「あの警部」
「どうした」
「一つ気になることがありまして」
「なんだ」
「実は、内縁の女性なのですが、妹がいまして」
「妹?」
「名前は〈一ノ瀬みどり〉。現在同じテレビ局の演出ディレクターをしているんです。主にバラエティ番組の」
「その妹の何が気になるんだ」
「実は姉が行方不明になっている時、何度か被害者に捜索願を出すのを取り下げてほしいと嘆願していたみたいなんです。これは被害者の知人から聞いたのですが」
「捜索願を取り下げてほしい?」
「はい。どうも気になると思いませんか?」
「そうだな。その姉妹は仲が悪かったとかその話は」
「いえ、話を聞くところだと、仲は良好だと」
「どういうことだ」
確かにそれは気になる。
姉が行方不明になっているというのに、その行動はおかしい。
捜索願を取り下げるということは〈見つからないでほしい〉と傍から見れば思われても仕方がない。
仲が悪ければまだ話は少し分かる気がするが、仲は良好であり、尚且つ同じテレビ局に務めているほどだ。
もしかすると、既に姉は殺されており、その犯人は・・・
そんなことを思いながらも、俺は立ち上がった。
丸山は俺の後を追いかけて
「どこか行かれるのですか?」
「ちょっとな。お前もついてくるか?」
「はい。ご一緒に」
「じゃあついてこい」
初めて丸山にこんなことを言った。
いつもは何も言わずともついてくるのだが、今度ばかしは先手を打とうと思い、自然と口からはみ出てしまった。
捜査一課の部屋を出てから丸山に
「それより、銃口径は何ミリか分かったのか?」
「はい。鑑識の調べによりますと、9×19㎜です。海外では女性がよく使う拳銃の口径で有名ですね」
「やはりその線か」
「恐らく海外から密輸された拳銃を使ったと鑑識は言っていました」
「そうなると、やはり暴力団が関わっている可能性もあるな」
「拳銃を密輸されている港周辺の暴力団組織を中心に調べています」
「組織犯罪対策部とか?」
「はい」
そうなるとあいつも関わってくるのか。
俺はあまり相手にしたくない人物なのだが、今回ばかりは致し方ないと思いながらも歩こうとすると、前から噂の人物が歩いてきた。
「あれ、島っちゃんじゃないの」
「よう、宮」
体格がよく身長は170近くあるスキンヘッドのこの人物こそ、俺が会いたくない人物だ。
名前は〈宮口〉。
組織犯罪対策部の暴力団対策課にて係長をしている男だ。
この男も警察学校の同期なのだが、かなり人懐っこい人物でもあり、人見知りの言葉を知らないのかと思うほど、フレンドリーな男だ。
何故この男が苦手か。
それは俺ら捜査一課を下に見ているということだ。
噂では宮口は暴力団から多額の黒い援助を貰っており、上層部もそれを知っていながら隠している。
所謂隠蔽だ。
俺はそれがどうしても許せずにいる。
それどころか、何も後ろ盾がいない捜査一課をただ下に見ており、この男の口癖は「金が全てだ」。
俺としてはこの男こそ金の亡者なのだ。
宮口は俺の近くまで近づいてきて
「お前らのおかげで、また俺たちが動く羽目になったわ」
「まぁいつものことだろ」
「にしてもだぞ。少しは休ませてほしいなぁ」
「すぐに終わる。ただ拳銃を密売している港周辺の暴力団から話を聞いてほしいだけだ」
「すぐに終わるわけねぇだろ」
俺の顔を睨みながらも言った。
これが彼なりの脅しなのか知らないが、カッコ悪いとしか思えない。
相変わらずだなとため息をしながらも
「まぁ頼むよ」
そう言って宮口の元を後にしようとすると、彼が振り返ってから
「言っておくけど、あいつの死は俺が原因じゃないからな」
俺は一瞬立ち止まったが、宮口に背を向けたまま再び歩き始めた。
細かいことはここでは説明しないが、それでも今の言葉に怒りを覚えたのは正直なところだ。
すると丸山が
「あの、大丈夫ですか?」
「ほっとけ。いつものことだ」
「あいつの死って」
「これ以上何も言うな。いつか時期が来たら言う」
そう言って丸山との距離を離すかのように、足のスピードを速めたのであった。
角を曲がると、タイミングよく錦織と遭遇した。
錦織は目を見開きながらも
「あっ警部。どちらへ」
「ちょっと会いたい人間がいてな」
「もしかして、被害者の内縁女性の妹さんですか?」
流石、察しの良い刑事だ。
出来れば丸山もこのように先が二手以上読めるように努力をしてほしい。
錦織がまさにその見本だ。
俺は小さく頷いてから
「そうだ」
「そのことなんですが、少し問題が」
「なんだ」
「妹である〈一ノ瀬みどり〉本人から赤坂東警察署から連絡が入りまして。出来れば刑事の面会はご遠慮いただきたいと」
なるほど、先手を打ってきたか。
テレビ局とはいえ、いわばイメージ戦略が前提の会社だ。
変に噂を流されたくないのだろう。
しかし、その妹の〈みどり〉は変わった行動ばかりするなと思いながらも
「分かった。ありがとう」
そう言って先を進もうとした。
錦織が目を見開いた状態で
「どちらへ」
「決まってるだろ。テレビ局だよ」
別にそのみどりという女に会わなければいいだけの話だ。
向こうが挑戦的ならこちらもそれ相応の対応を取る。
微笑みながらも、俺は丸山を連れて警視庁を出ることにした。
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