第15話 なんか力のないかわいそうなやつ

「騒ぐな、落ち着け……ゲームの設定を思い出せ……魔法はともかく、スキルは強くなれば使えるはず……」


 ここで、『Mortal Destiny』のキャラクター強化システムの確認だ!


 ①敵を倒して経験値を獲得! 

 ②レベルアップして、ステータス上昇&スキルポイントをゲット!

 ③スキルポイントを割り振って、新たなスキルや魔法を習得!


「はうあ! すべての起点である『①』が、達成できてねぇじゃん!」


 スキルを使えるようになるには、体と技を鍛えるのとは別に、『敵を倒して経験値を得る』必要があるのか……? 


 でも、ちょっと待て……。


「そもそも、『敵』って誰だよ?」

 

 やっぱり、『モンスター』だよな……?

 でも、今のところ野生動物は鹿だの鳥だの魚だのいろいろと見つけたけど、まだモンスターは見てないな……。

 

「敵がいない以上、経験値が稼げない……ってコト!?」


 いや、敵はともかく! それなりの期間、激しい訓練をしているのだから、経験値は溜まっているはず!

 

「ねぇ、チュチュ君。『スキル』って知ってるかい?」

「すきる? なんですかぁ、それぇ?」


 えっ、知らない……?

 この世界、まさか『スキル』が無いのか?


「えーとねぇ……普通の斬撃とは別に、スキルを使うと『斬撃が遠くに飛んだり』、『斬撃で岩が斬れたり』――みたいな神業? みたいななんか凄い技っぽいやつ」


 俺が補足で言葉を足すと、小首をかしげていたチュチュ君が手をポンと叩いた。


「あぁ、そういえばぁ~……腕の立つ冒険者の人たちが、珍妙な戦闘技術のことを『スキル』とか呼んでいるのを聞いたことがありますねぇ」


 なに!? チュチュ君が詳しく知らないだけで、スキル自体は存在するのか!?


 おいおい、なんだか急にわくわくしてきたぞ!


 スキルが使えるなら、俺の唯一のアドバンテージであるところの『ゲーム知識』で無双できるぞ!


「チュチュ君! 俺も、『スキル』を使えるかなッ!?」

「無理ですねぇ」


 即答!?


「チュチュ君! 俺も、『スキル』を使えるかなッ!?」

「何事もなかったかのように二回目を尋ねても、答えは変わりませんよぉ?」


 普通に二回も否定された……!


「断言するじゃん。本当に『俺はスキルを使えない』……ってことなの?」

「ってことです」


「そ、そんなぁ~……お、俺はスキルを使えない……っ!」


 希望が打ち砕かれたショックで、ぐにゃあ~っと視界が歪む……!


「か、雷に打たれる前も、スキルを使えなかったの……?」

「はい。雷に打たれる前も、スキルを使えませんでしたっ!」


 そういえば、ペヨルマは最序盤の敵だけあって、スキルを使ってこなかった……。

 あれは、使ってこないんじゃなくて『使えなかった』のか……!


「なんだ、この無意味な謎解きタイム! 夢と希望が打ち砕かれた末に、哀しき答えに辿り着いただけじゃねぇかッ! だけじゃねぇかッ!」


 異世界初のわくわくからの落差で、テンションだだ下がりだぜ!


「あ、あの……再確認なんだけど。やっぱり、俺はスキルが……使えない……?」


 もしかしたら、クソマズクッキーの副作用で幻覚喰らってた可能性もあるので、恐る恐る再再確認した。


 すると、チュチュ君が俺の気持ちを汲んだのか、取り繕うように明るく笑った。


「え~っと、えへへ……使えないでぇーすっ★」


「言ってくれるじゃない! ご主人様の心を傷つけないように、優しい嘘をつきなさいよ! 真実はいつだって人を傷つけがちなんだよッ?」


 俺が図らずも大声で嘆くなり、チュチュ君がケモ耳を両手で覆った。


「あ、あの~、えっとぉ~……坊ちゃまに才能が無いっていう話じゃなくてぇ~、基本的にスキルが使えるのは、ごくごく一部の限られた特殊な人たちだけなんでぇ。使えなくても、というか、『使えないのが普通』ですよぉ~?」


 スキルが使えないのが……普通?


 ゲームでは、戦闘できるキャラは自キャラも味方も敵も、当たり前のようにスキルが使えたから特に説明がなかったし……。

 だからこそ、俺もスキルが使えるのが当たり前だと思い込んでいたが……。


 ここでは、『スキルを使えないのが当たり前』なのかッ!?


「え、待って……基本的にスキルが使えるのは、ごくごく一部の限られた特殊な人たちだけ。そして、『俺は使えない側のごくごくありふれた人』……ってこと?」

「そうですぅ、そうですぅ」


 ゲームだと、使い手を選ぶ設定があるのは『魔法』だけだったのに!


 待てぃ!

 じゃあ、俺は『魔法も使えない』可能性が高いぞッ!?


「魔法は使えるのかい!? 俺はスキルが使えない代わりに、魔法が使えるよねッ!?」

「えへへ……つ、使えないで~すっ」


 チュチュ君は気まずそうに愛想笑いするものの、普通に断言した。


「なんでッ!? 誰かから差別されてるのッ!? もしや、魔法を独占する選民思想のやつらなどに! あるいは、落雷の影響で魔法の力を失った哀しき運命にッ!?」


「そ、そんな大げさな話じゃなくってぇ……坊ちゃまは、『単純に魔力がない』のでぇ~、魔法が使えないんですよぉ。落雷の後遺症で、お忘れですかぁ?」


 あぅ……そ、そういえば、ゲームのペヨルマは魔法も使えなかった。

 なぜならば、魔法のチュートリアルが始まる前に出てくる敵だからぁ……ッ!


「……教えてくれてありがとね。もう二度と、スキルや魔法を使おうなどと血迷わないよ」


 俺は心で泣いた。


 こんなことってないよ……。


 この異世界もの、やっぱクソだあああああああああああああああああああああッ!


「諦めが早すぎですぅ! 早いのは、逃げ足だけにしてくださいよぉっ!」

「ぽ、ぽれはスキルも魔法も使えない逃げ足だけ早いクソザコ野郎……ってこと?」


 そうか……わかった……わかっちまったよ……。


 ペヨルマは色々とこじらせた悪役だったが、それは才能の無さから来るコンプレックスや、それを持つキラキラリア充への嫉妬が原因だったんだ。

 そんで、やつのいけ好かない性悪で敵対的な態度は、自分にないものを持っている主人公たちに対する八つ当たり的な憎悪による哀しき所業だったのね……。


 ペヨルマは……なんか力のないかわいそうなやつだったんだ……!


「わぁ……ぁ……」

「やかましい! 泣くんじゃねぇっ!」


 はうあ!?


「さっきから、ぴーぴーきゃあきゃあ、うっせぇ! 泣き言言うんじゃねぇっ!」

「はうあ!」


 チュチュ君に「喝!」とばかりにビンタされた!?


「うるせぇっ!」

「はうあ!?」


 二回もぶたれた! 親父にもぶたれたことないのに!


「うるせぇっ! つってんだろっ!」


 三回は、前代未聞でしょうがッ!

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