第16話 祝? 初モンスター!
「こんのぉ~、才能がない知能がない親がいない友達がいない家柄がしょぼいメイド遣いが荒い! おまけに、常識と記憶がない無駄に動く泣き虫デブがぁーっ!」
「やだ、なにごと!? 急に、俺の悪いこと探しやめて!」
マジで唐突に、チュチュ君が謀反を起こした!
「だとしても! そんなしゃらくせぇ言い訳は、どうでもいいんだよっ!」
「良くないでしょ! 出生ガチャ失敗してるじゃん! 後半にいたっては、早急に対策が必要じゃん!」
「やかましいっ!」
またビンタされた!?
「ぶべら!」
畳みかけるような暴力! そこらの軟弱者なら、とっくに死んでるぜ!
「そうだ! 早急に対策が必要だっ! かわいくて強くて清楚で完璧なわたしをメイドにできた幸運を活かせっ! 辛い現実と痛みから逃げて絶望に支配されるな、生きることに全力になれっ!」
「そ、そんな深刻に悩んでいるわけじゃないんだけど……? ちょっと、スキルとか魔法とかに憧れちゃう年頃だってだけなんだけど……?」
謎に熱くなってるチュチュ君のせいで、話のスケールが勝手に大きくなってる。
で、逆に俺は自分より熱くなってるやつ見たせいか、なんか冷めてきた。
「情けない言い訳して、『無能な弱者』という現実から逃げるな! 痛みによる自己破壊で弱い自分を叩きのめして、厳しい自己鍛錬で強さを手に入れて新しい自分を作り上げるんだっ!」
「やめて! 話を大げさにしないで! 俺は『自分とチュチュ君を守れるぐらいの力』があればいいの! 最強とか世界一とか目指してるわけじゃないの! 自己防衛ができればいいの!」
自己防衛のための体力づくりと戦闘訓練なのに、話がおかしな方向に行き始めている!
「なにぃ~? このわたしに教えを乞うているのに、志の低いことを言いやがってぇぇぇ~っ!」
なんか謎にチュチュ君が、いつになくムキになっている。
このままだと、より危険で過激でハチャメチャな修行をやらされるかも!
「今でも満身創痍なのに、強さを得るために痛みを受け入れる? 無理! さらにキツくなるのは、いやだ! 強くなる前に死んじゃうもん!」
「じゃあ、弱いままでいいんですかっ!?」
「かまわん! 俺はスキルも魔法もいらない人間だ! 俺はこういう人間だ!」
俺は、チュチュ君から逃げることにした。
なぜならば、今日のチュチュ君はこわいから。
「ちょっと、坊ちゃま! 待ってくださいよーっ!」
すると、急にチュチュ君が、耳をぺろぺろと舐めてきた。
「ちょっ! 急にどうしたん!? 急にぺろぺろ舐めてきて、どしたん!?」
やだ、何事?
喧嘩しちゃって気まずくなっちゃったワンちゃんの仲直りの儀式的なあれ?
「ちょっとちょっと、チュチュ君ーっ!? 人目がないからって舐め回すのは、乙女にあるまじき不謹慎さじゃないかいっ?」
ふーん。ワンちゃん系ケモ耳少女の愛くるしさの本領発揮で仲直りってワケね……憎い演出じゃん。
「? わたし、なにもしていませんが?」
「えっ? 俺の耳、めっちゃ舐めてきてるじゃん?」
「舐めてないですよ。わたし、坊ちゃまの目の前にいるじゃないですか」
「じゃあ、なにが舐めてんのさ?」
振り返った俺の目の前にいたのは、意外――
「蛇ッ!」
「わあっ!? 人喰い蛇ですねぇっ!」
よりタチ悪し!
しかも、アナコンダぐらいデケェし、長いし太てェッ!
「チュチュ君! 助けてぇぇぇーっ!」
「お断りします!」
意外な返答!
「なんで!? ぽれのこと嫌いになっちゃったの!?」
「嫌いじゃないですよぉ」
「じゃなんで!? なんでなのさッ!?」
「なんでの理由はぁ……」
やだ……なんの溜めなの……?
「新たな訓練が、『巨大人喰い蛇退治』だからなのだぁぁぁーっ★」
突如、チュチュ君がかわいい笑顔を弾けさせた!
「かわいいけど、バカ! 『巨大人喰い蛇退治なのだぁっ★』じゃあないんだよ! 巨大人喰い蛇とか無理だって!」
「無理じゃないですよ? やってもないうちから、無理だなんて言わないでくださいっ! 無理っていうのは嘘つきの言葉なんですよぉ?」
何言ってんだ、こいつ!?
「嘘じゃない! どう見ても無理だよ! 極太だよ、動く大木じゃんッ! 普通の蛇じゃない、化け物とか魔物とかだろ、アレッ!」
「あっ……そーいえば、まだ『魔物の殺し方』は教えてませんでしたねぇ~」
やだ……かわいいおとぼけ顔で、すごい物騒な物忘れ。
でも、殺し方を知っているからこそ出たお言葉! 頼もしい!
「坊ちゃま~? 教えていないことをやれと言うのはぁ、酷な話ですかぁ~?」
「酷ッ! つか! あれ、やっぱり魔物なの!? モンスターなの!?」
記憶を探ってみれば確かに、ゲームにあんなやついたなァッ!
序盤に出てくると苦戦するタイプのやたらタフなモンスターだよ!
「はいはーい、ちゅ~も~くっ! かわいくて清楚で魔物退治が出来る完璧メイドのわたしによる『蛇退治のお時間』ですよ~っ★」
刃引きされた剣を構えたチュチュ君が、人喰い蛇の正面に立つ。
「ちょっ! 訓練用の剣で大丈夫なのッ!? たぶんあいつ、物理攻撃しかしてこないけど、HPが多くて硬い系のやつだよッ!」
「何を言ってるかわかりませんがぁ~、大丈夫! ちゃんと殺せまーすっ★」
物騒だけど、頼もしい!
「つか、正面に立ったら危ないって! 巨大人喰いだぜ、ガブッっていかれるよ!」
「意外と平気ですよぉ~。蛇さんは、ゆらゆら動くものを目で追っちゃうんでぇ~」
などと、チュチュ君は呑気に語っているが、人喰い蛇はヤバげな威嚇音を鳴らして鎌首をもたげる。
「完全に臨戦態勢! 呑気に話してる場合じゃないってッ!」
「だからぁ、蛇さんの視線を剣に引き付けてぇ、上下左右に揺らしてあげるとぉ~」
人喰い蛇と見つめ合うチュチュ君が、剣をゆらゆらと上下に振った。
「頭がふらふらしだして、動きが鈍くなるのですぅ」
チュチュ君の言う通り、ゆらゆら揺れる剣を見つめる人喰い蛇の頭が、上下左右にふらふらと縦揺れしている。
「ふらふら~、へびへび~★」
その姿は、まるで蛇使いに笛で操られる蛇のごとし!
ケモ耳メイドVS巨大人喰い蛇! この勝負の行方は、どうなるッ!?
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