第14話 スキルと魔法はどこですか!?

「なんだかんだで、真剣使うようになっちゃったなぁ……」


「坊ちゃま? 刃物持ってるときは、よそ見しないように注意しましたよねぇ?」



 木刀を使った訓練から真剣を使った訓練に移行して、しばらく経った頃――。



「チュチュ君。素人意見で恐縮なんだけど、訓練について提案していいかな……?」

「積極的でいいですねぇ! ご意見どんどん、お聞かせくださぁい★」


 にこやかに会話しているのに、チュチュ君が俺の首を狙って剣を振るう!

 刃は潰してあるとはいえ、当たれば大怪我間違いなしだ!


「倒れるまで戦闘訓練して! 倒れたらポーションで無理矢理回復して! また戦闘!」


 体を後ろに引いて避けてから、チュチュ君の脛を狙って剣を振るう!


「みたいなやり方はよくないんじゃないのかなッ!?」


 俺がチュチュ君に仕込まれているのは、実戦型の剣術。

 なので、ゲームのように派手な攻撃はせずに、鎧や鎖帷子で守られていない首や脛を地道かつ的確に狙い、確実に戦闘不能を達成するのだ。



「言われてみれば、そうですねぇ~。訓練の内容が過酷で過激で怪我が当然になってきましたし……休息多めでやりましょうっ!」


 瞬間移動みたいに素早い足さばきで斬撃を回避したチュチュ君が、俺の口に何かを入れてきたッ!?


「まずうううううううううううううううううううううううううううういッ!」


 おなじみのチュチュ君特製の激マズクッキーだァッ!


「ヴぉえ! このクッキー、なにかと食わせてくるけどさ! 体力回復の効果なんてないって! 逆にマズさで疲れるって! しんどいって!」


「変な嘘つかないでくださいっ!」

「嘘じゃないって! 真実だって!」

 

 チュチュ君がぷぅとむくれる。

 かわいい! でも、クッキーのマズさはまったく誤魔化せない! 

 だって、まったく関係ないから!


「だとしても、文句言わない! わたしが教える以上は、言うことを聞いてもらいますからねっ?」


 チュチュ君が、脅すかのようにクッキーをもう一枚取り出した。


「……は、はい。すんません」


 チュチュ君は、普段はかわいい子犬みたいなケモ耳美少女だが、訓練では狼のように恐くて厳しい。あと、マズいクッキーを謎に食わせてくる。


 そんな妙に癖が強いチュチュ君から俺に課されるのは、朝から晩までの地獄の戦闘訓練だ。


「うん、素直でよろしい! いい子には、わたし特製の愛情たっぷりクッキーを上げましょうっ★」


 今日も、今日も、今日も、今日も……楽しい地獄!


「いやっほう! 元気溌剌ッ! 毎日たのしい&クッキーおいしいいいッ★」


 溜まりに溜まったいろんなものを誤魔化すために、無理にはしゃいでポーションをがぶ飲みした!


 それぐらいしか苦痛を紛らわす術がないからッ!


「こら、坊ちゃま! 『ポーション中毒』になんてなっちゃダメですよっ!」

「ポーション中毒? なにそれ?」


「お酒に依存する病気のポーション版です。ちょっと痛い、ちょっと怠いをポーションで癒していたら、そのうち怪我もしてないのにポーションを飲み出すようになり、遂には常にポーションが手放せなくなって飲むのをやめた途端、手が震えたり呂律が回らなくなったり、様子がおかしくなっちゃうこわ~い病気ですっ!」


 アル中? っていうより……軍人やアスリートが痛みを緩和させるために飲み始めた鎮静剤がやがて効かなくなって、最後はドラック漬けになっていくのと似たものだろうか?


 やだ……心当たりがありすぎて、こわい!


「万能薬と思えた我が心の友ポーションの知られざる姿、いと怖し……」


「そうです、ポーションは怖いんです! それに比べて、かわいくて清楚で料理上手で完璧なメイドのわたしが作った『癒しのめちゃうまクッキー❤』は、どれだけ食べても大丈夫っ! まさに、安心・安全の完全食なんですっ★」


 だから、チュチュ君は『異世界で一番不味いとされるクッキー』を、ことあるごとに俺に食わせてくるのか……。


 無邪気で癖強なだけで嫌がらせじゃないとわかって、ほっとした。

 でも、口に生乾きのおっさんの味と臭いがこびりついてるから、超地獄❤


「じゃあ、もう一枚食べます? 癒しのめちゃうまクッキー❤」

「『じゃあ』の意味がよくわかんないから、話変えるんだけどさ」

「なんですかぁ~?」


 クッキーの話が続いて追加で食わされたらたまらないので、話題を変えた。


「自画自賛かもしれないけど、俺って、もはや身体能力だけなら『常人を越えてる』と言っても過言じゃないじゃん?」


「そうですねぇ~……今の坊ちゃまなら、そこら辺の実戦経験に乏しい騎士や駆け出しの冒険者になら引けを取りません。武器持って本気で殺る気なら、ちゃんと殺せますよぉ~っ★」

「最後の余計な一言が、こわい!」


 チュチュ君のお墨付きでわかるように、毎日の地獄の訓練によって鍛えられた俺は、身体能力が常人を超越していた。


「にも関わらず……ここまで鍛えたからには使えてもおかしくないのに、まだ使えねぇな……」


 そう……『この世界がゲームの世界だとすれば、当然のように使えるはずのもの』――が、未だに使えずにいた。



「『スキル』……使えねぇなァァァッ!?」



 そもそも、この手の異世界転生ものにつきものの『ステータス画面』が存在しない時点で嫌な予感はしていたのだが……。


 この異世界……怪我が一瞬で治るポーションとか剣振り回すケモ耳少女が普通に存在する『めくるめく剣と魔法のファンタジー世界』のくせにねぇんだわ。


 魔法もスキルも!


 ゲームだと存在していたので、探せばきっとどこかにあるはずなのだが……。


 生憎と、チュチュ君も俺も『スキルと魔法が使えない』ので、実在しているかどうか、よくわからねぇッ!

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