第13話 噂の情熱間接キッス★
「それより! 木刀じゃ『死』が実感しづらいので、真剣を使いましょうっ★」
「絶対ダメ! なんだよ、『死が実感しづらい』って、そんなの実感したくないよ!」
素手の戦闘訓練から、武器ありに移行してまだ数日――。
今までの基礎訓練のおかげで、なんとかチュチュ君の斬撃を受け止められるようになってはいる。
だが、初めての稽古では気付いたら気絶していたし、今も場合によっては気絶させられるわけで……。
「真剣なんてもってのほかだ! 殺す気かッ!?」
「えぇ~……でも、木刀じゃあ、いつまで経っても『お遊び』ですよぉ~。やっぱり、血を流して肉と骨を斬り合わないと……ねぇ?」
「物騒! 君は『木刀で木を斬る』んだから、真剣なんて危なすぎて持たせられないよッ! あと、しゃべってる最中に斬撃やめてッ!」
今も死にたくないという一心だけで、チュチュ君の剣を受け止めている!
「木刀は、ちょっと力入れるだけですぐ折れちゃうから、ダメダメですねぇ~」
「折るほどマジにならないでッ!」
チュチュ君は遠慮しない性格なのか、主をないがしろにする類の無礼者メイドなのか知らんが、殆ど手加減なしで強力な斬撃を打ち込んでくる!
「ねぇ! チュチュ君が無茶苦茶するから、俺の木刀まで折れちゃったじゃん!」
「鼻血を出した子一等賞ってことで、朝の訓練はここまでにしましょう~っ★」
「はあ? 君ねぇ、僕ぁご主人様なんだよ? ないがしろにするんじゃないよ!」
チュチュ君がしょうもないことを言った次の瞬間、謎に俺の鼻から血が噴出した!?
木刀が折られたときの衝撃が鼻に当たっていて、時間差で炸裂したのかッ!?
「ふぎゃあああああああああああああああああああああああああああああっ!」
「その痛みと血の味を覚えておいてくださいねぇ? それが、坊ちゃまの強さの糧になりますから」
チュチュ君の指導は乱暴で凶暴で、常に実戦で結果が出ることを意識している。
「今の『決して殺されない安全な状況』で、痛みに慣れておいてくださいましねぇ。そうすれば、『殺されちゃうような危険な状況』でも、痛みに足を引っ張られることがなくなりますからぁっ★」
なので、殺し合いの未来が一年後――いや、もう一年切ったか――に迫っている俺としては、キツいが最適でもある訓練をしてくれていると言えた。
だけど、もっとマシなやり方はないのか……!?
「このやりすぎメイド! 俺を殺す気かッ!? わしゃ、お前のご主人様やぞッ!」
「そんなことおっしゃられましてもぉ~。実戦で役に立つ戦闘技術というのは、殺し合いの場で血を流して激痛にのたうち回ってようやく身につくものなんでぇ~。少々の怪我と痛みは、ご勘弁くださいましぃ~っ★」
チュチュ君が『きゃるーん★』みたいな可愛げな仕草で誤魔化してくる。
「かわいさで流血沙汰を誤魔化すのやめて!」
「はーい! ここで、ポーションですよぉっ! 一口飲めば、たちまち鼻血が止まりま~すっ! ささっ、坊ちゃま! ぐぐい~っとお飲みくださぁーいっ★」
基本的にチュチュ君の訓練では、打撲なら幸運、骨折で普通、悶絶が当たり前だ。
だから、訓練中はポーションをがぶ飲みするようになっていた。
「いくら、ポーションあるからって……無茶して怪我させないでよねッ!」
「ちょっと残っちゃったんでぇ、坊ちゃまのポーション頂きますねぇ~★」
つって、チュチュ君がアグレッシブに間接キッス❤申し出てきた。
「えっ、あっ……そ、それって……はわわ……!」
「ほえ? 何か言いましたぁ~?」
「べ、別に~。なんも言ってねぇし……間接キッスに動揺なんてしてねぇし、マジで……!」
いたずらな間接KISSで黙らせてくるってワケだ……ふ~ん、やるじゃん。
それはそれとして――。
怪我しまくりの激しい訓練&ポーションによる荒療治。
それが終われば、飯食って昼寝。起きたら、また訓練。
日が暮れたら、栄養満点の食事。夜は、気絶同然の睡眠。
早朝にチュチュ君に叩き起こされたら、朝日を見ながら訓練――
その繰り返しが、ここ最近の俺の日常だ。
さすがに、こんな日常に疲れを感じているワケで……。
「さてっ! 鼻血も止まったことですし、訓練を再開しましょうっ!」
「さ、流石にもう無理! もう疲れたよ、チュチュくん……」
「そうですか? 仕方ないですねぇ……じゃあ、膝枕をしてあげましょう~っ★」
疲労のあまり倒れ込むなり、チュチュ君が俺を優しく抱きしめ、そのまま膝枕をしてくれた!?
「はうあ! や、やわらかくて、あったかい……そして、いい匂い」
「お喜びのようで、なによりですぅ★」
とっても大好き・チュチュくん❤ あの頃よりもずっと好き❤
だって、優しいし、ふわふわぷにぷにで、甘い香りがするし、色々大きいし……。
「って、それより~……こんなにズタボロになって、どうしたんですかぁ?」
「どうもこうも! お前が、ボコボコにしてきたんやないかいッ!」
あっぶね! マジ、あっぶね!
うっかり、激ヤバDVメイドの飴と鞭に洗脳されるところだったぜ!
「え~。そーんなこと言うんならぁ~……」
「ひぃ! なんも言ってない、許して!」
暴力の予感に身構えるなり……チュチュ君が優しく撫でてきた!?
「痛いの痛いのとんでけぇ~っ★ ってねっ!」
ちっきしょう、飴が甘すぎる!
このケモ耳メイド、油断も隙もねぇ!
まさに、俺の心と体を弄ぶ小悪魔だゼ……!
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