第4話 人間関係改善計画とダイエット宣言!

「とりあえず! 今までのことは、全部俺が悪かったァァァーッ!」


 先手必勝! 誠意ある謝罪!


「毎日身の回りの世話をしてくれて、おいしい料理を作ってくれたチュチュに舐め腐った態度を取ったこと! 今まで無駄にした料理と、無下にした君の親切心!」

「えっ?」


 まずは、チュチュとペヨルマとの関係を『チュチュと俺』との関係に変更したい。


「その他諸々、今までの人としての礼儀を欠いた行為を謝る!」

「えっ? えっ?」


「そして同時に、それらの行為はもうしない! 今まで、本当にすまなかったァーッ!」

「えっ? えっ? ええええええええええええええええええええええええええっ!?」


 素直かつ誠実に謝罪したとはいえ……ペヨルマは、絵に描いたような邪悪で性悪な悪党だからな。


「すまなかったあああああああああああああああああああああああああああっ!」

「ぼ、坊ちゃま、頭をお上げくださいまし! わたしごときに、おやめくださいっ!」


 いきなり一方的に謝られても意味わからんし、不審がられるのも無理はない。


 そういえば、俺が今の状態になる前に、『ペヨルマが雷に打たれた』とかでチュチュがわちゃわちゃしていたような……。



「君が、俺の心変わりに驚くのも仕方ない。俺も、自分の変化に驚いているんだ……」

「……え? ご自分の変化……ですか?」


 ケモ耳を下げて戸惑うチュチュの顔をしっかりと見つめる。


「……どうやら、『雷に打たれて生まれ変わった』みたいなんだよ」

「えぇっ!? そ、それは……どのようなことでございましょうか……?」


 どのようなことって……俺にもわからんッ!


「落雷によって生死の境をさまよって臨死体験したせいか、記憶がないみたいなんだ……」

「ええっ!? き、記憶がないっ!?」


「というか、今までのことが別人のことのように感じるというか……むしろ、『別人』」

「むしろ別人っ!? で、ございますか……?」


 だが、どうにかするしかねぇ……ハッタリと勢いでッ!


「とにかく! 雷に打たれてから、身も心も入れ替わったような感じなんだッ!」


 切り取った情報を組み合わせて、嘘をつかずに真実を覆い隠す――。

 詐欺師みたいだが、バカ正直に俺の身に起こった意味不明な超常現象を語って、さらに面倒臭い状況にしたくない。


「でも、今まで君に酷いことをした記憶はあるんだ……いくら言葉で謝ったところで、許されるとは思わない……だけど、だからこそ、これまでのことを謝まらせてくれ……ッ!」


 自分で言っていて、かなりうさん臭いと思う。

 だが、チュチュは俺の話を真剣に聞いてくれていた。


「そ、そんな……わたしごときに、謝るだなんて……おやめください」


 ハッタリと勢いだけで突っ走ったが、こんなんで大丈夫かよ……?


「いや、やめない! だって……」


 不安だ! あと一押ししよう! 


「だって……?」

「だって、これからは『仲良くしたい』から!」


 割と強めに押した!

 気恥ずかしい台詞だが……まぁいいだろう!


「……」


 だが、チュチュは驚いたように口を押えたまま、何も言わない!


 え? やだ、告白失敗したみたいな変な空気になってない……?


「あ、あの~……な、仲良くしたいな? みたいな? ダ、ダメだった……?」


 口を両手で押さえて無言で立ちすくむチュチュの姿に、一抹の不安がよぎる――。


「……様のおかげだわ」

「おかげ? なにが?」


 聞きそびれたので聞き返したら、チュチュがブンブンと両手を振った。 


「い、いいえ! なんて素晴らしいお言葉なんでしょう! 卑しい亜人の奴隷には、余りあるお慈悲! 恐悦至極でございますっ!」


 感涙した!?

 こんな歯の浮くような台詞で感動するなんて、どんだけ虐げられてたんだよ……!?


「坊ちゃまが、まるで別人のようにお優しいお言葉をかけてくださるなんて……! 本当に人が変わったようですっ!」 


 ……ちょっとやりすぎたかな?

 別人であることがバレるのは、マズい気がする。


 とりあえず、話を逸らそう!


「こ、このお屋敷って! やたら大きくて広いけど、俺と君しか人がいないよね? もしかして、俺と君の二人っきりなの?」

「えっと……はい、坊ちゃまとわたしの二人だけですよ? それがなにか……?」


 しまった!

 話をそらしたのに、ペヨルマが知ってて当然のことを質問してしまった!


「だ、だよねぇ~。ちょっと確認しただけ」

「確認でございますか……?」


 急なキャラ変も不審がられるが、それよりも不審がられるのは……。


 ペヨルマが持ってる知識を持ってないことがバレることだ!


「なんだい? このペヨルマが、改めて確認したことがおかしかったのかい?」

「い、いえ! 滅相もございません!」


 く、くそぉ~……何気ない会話をするのにも、いちいち神経を使う……ッ! 


 だが、そのかいあったのか……今の危なっかしいやり取りで収穫があったぜ。


 俺の置かれてる状況が、『ゲームの設定そのまま』だとわかった!


 となると……『ストーリー』も、ゲームと同じように進むと仮定したほうがいいな。

 なにせ、既に未来の予定として、『学園の入学が一年後に控えている』わけだし。


「あ、あの~……坊ちゃま? 急にお静かになられましたが……お加減が悪いのですか?」


 そして、学園に入学してからが本格的にヤバい……!

 ペヨルマが通う学園は入学式の後、クラス分けをするための実力テストがある。


 これが、ゲームでの戦闘チュートリアルのイベントだ。


 この実力テストで主人公に負けたペヨルマは、イベント以降も事あるごとにダルがらみしてくるめんどくせぇヘイトしか買わない敵キャラになる――。


「それはそれとして、だ」

「え? それはそれ? なにがでしょうか?」


 ペヨルマになってしまった俺の未来が『ストーリー通り』に進行するとしたら、このストーリーラインは避けたい! 絶対に!


 なぜならば、最終的に主人公に殺されるからだッ!


 ゲームプレイヤーにしてみれば、念願のザマァ!

 だが、ペヨルマにしてみれば、突然の死だ。


 再度確認するが、今の俺はペヨルマになっているわけで……。

 定められた死に繋がるストーリーラインは、絶対に避けたい!


「あ、あの……坊ちゃま……? 難しいお顔をなされていますが、なにか不手際がありましたでしょうか……?」


 となると、俺(ペヨルマ)の死の原因になる主人公と対等に戦うことができれば……そして、その結果が勝利ないし引き分けならば……。


 おそらく、そのルートは回避できる!


 だが、そのルートに入るには、学園の入学式までに準備をしないといけない……。


「このままだと……マズいな……」

「えっ!? やはり、料理がお口に合わなかった……のですか?」


 とはいえ、出来るのならば、死の原因となる『学園に入学しない』ってのが、ベストに思えるのだが……。


 大胆にストーリーと設定を変えるようなマネをした場合、もっと事態がややこしくなるのは想像に難くない!


 だから、入学しないのと同じレベルで『入学できない』のもヤバい!


 右も左も今いる場所すらもわからないのに前に進むしかない! ってのが、マジでキツ過ぎるッ!


「うぅ……! 苦しすぎる……ッ!」

「えっ!? 苦しい!? ぼ、坊ちゃま! 大丈夫ですかっ!?」


 死ぬのはしょうがないよ。人間はいつは必ず死ぬから。

 でも、殺されるのはいやだ! 

 回避したい。全身全霊で!


「まさか! 落雷の後遺症で、何事かが起きたのではっ!?」


 クソッタレがッ! マジで意味わからんって! ほんと逃げたい!

 でも、こんなにぶくぶく太った重い体では逃げようがねぇ……ッ!


「うがあああーッ! 先のことはなんもわからーんッ!」

「わあっ!?」


 だから、今の状態でもやれて確実に結果が出ることをやろう!


「まずは痩せるぞッ!」

「や、痩せる……?」


「痩せる! 身軽! 逃げ足が速くなるッ!」


 破滅ルートは、全力ダッシュで回避だッ!

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