第3話 命綱は、ケモ耳美少女メイド!?
現状おさらい!
なぜか、ゲームの世界の悪役に転生したぜ!
ゲームが現実になったことで――いや、現実がゲームになった――『ゲームにはなかった様々な問題』が発生している!
今、俺が存在している『Mortal Destiny』――略してモーデス――は、リアルな世界観が売りなので、やたらと細かく作りこまれたゲームだ。
建物や武器などの人工物は質感から破壊されたときの挙動まで本物みたいだし、最新型AI搭載のNPCである人やモンスターは、まるで生きているみたいに振舞う。
時間によって移り変わる天体。場所によって変わる気候風土。不規則だが不自然ではない動きの雲や風雨や水面や動植物、などなど――。
とはいえ、ゲームであって現実シミュレーターではないので、プレイヤーをゲームに没頭させて楽しませるための退屈で余計な『現実的要素』は適当に切り捨てられている。
たとえば、法律、税制、国家、民族、行政、世間――つまり、社会システム全般。
ゲームに取り入れるにはあまりにも複雑すぎるから、簡略化されている要素だ。
だが、簡略化どころか、完全に排除されている要素がある……。
それは、『生理現象』だ!
これこそが、現実の人間を構成する要素であり、ゲームキャラにはない絶対的差異――。
ゆえに、ゲームが現実となり現実がゲームと化した現状、『生理現象がちゃんと存在すること』が死活問題となってくる!
「一言で言えば……『衣・食・住の確保』だッ!」
「あ、あの……ペヨルマ様、どうかいたしましたか? おトイレでなにかございましたでしょうか?」
俺は今、花や絵が飾られている豪華なトイレに存在していた。
座っているのは、成金趣味全開の黄金の便座だ。
さらに、姿隠しの衝立の向こうには、ケモ耳美少女のチュチュがいて――。
「いや、なんでもない……つか、トイレの外にいてくれないかな?」
古今東西、貴族はトイレの世話を従者にさせがちとはいえ……現代社会で育った俺からすれば、攻め過ぎた性癖の変態としか言えなかった。
「文化の違いはいかんともしがたいけど、なにはともあれ――」
この世界での『腹減った、水飲みたい、家に住みたい、トイレ行きたい、風呂入りたい、暖かいベットで寝たい』なんかの生理的欲求は、ほぼほぼ満たすことが出来ていた。
というのも、メイドであるチュチュが甲斐甲斐しく世話を焼いてくれて、俺の身の回りのことをすべてやってくれるからだ。
「坊ちゃま、朝御飯をご用意しました。食卓へ、お越しください」
朝っぱらから、肉中心の豪華なフルコース料理だ……!
「えぇ……朝からこんなに食べるの……?」
「え? あ、あの……いつものように、ご用意させていただいたのですが……?」
バカじゃないの。問題しかないわ。
だから、こんなデブなんだよ。生活習慣病で死ぬぞ。
「なにか、粗相がありましたでしょうか……?」
「いや……君にも料理にも粗相はないよ。ありがたく頂戴するね」
ケモ耳美少女に料理を出された以上は、食わないわけにはいかない。
男として――。
「おーいしいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいーっ!」
料理を一口食べるなり、美味しくて思わずハイテンションな声が出た!
噛んだ瞬間に肉汁がジュワッと溢れ出すステーキ。香ばしく焼かれたミートパイ。大きい肉団子たっぷりのミートソースパスタ。多数の種類のソーセージとハム。卵とチーズのオムレツ。こってり濃厚コーンポタージュ。焼き立てのパン。
肉と脂とカロリーたっぷりのデブ御用達料理だったが……どれを食べてもおいしい!
気がつけば、テーブルにあった料理を全て平らげていた……!
「チュチュ! なんておいしい料理なんだ! 誰が作ったんだい?」
何気なく尋ねるなり、チュチュが目を丸く見開いて驚き。戸惑いがちに眉を下げた。
「わ、わたしです……いつも、わたしが作っております」
「えっ!? 君が作ったの! すごいね、料理がとっても上手なんだね!」
素直な感想を言うなり、チュチュが再び驚き戸惑ったような顔をする。
「ペヨルマ坊ちゃま……今日の味付けは、お気に召したのでしょうか……?」
「うん! 気に入ったよ!」
すると、強張っていたチュチュが安堵したかのように、小さく息を吐いた。
「どうしたの?」
「あ、あの……いつもならば、わたしの不手際のせいで、『朝からこんなもん喰えるか!』や『お前の作った料理はマズい!』と、坊ちゃまにお叱りを受けてお皿を投げ飛ばされてしまいますので……」
はあ? 今時、ヤクザでもそんなことしねぇだろ。昭和のハードコア頑固おやじかよ。
ゲームの悪役とはいえ、ペヨルマのやつは無茶苦茶な野郎だな。
「本日の味付けがご満足頂けたということであれば、今後も同じ味付けの料理をお出ししたいと思います……」
「え? 嬉しいけど、そこまで気を使わなくてもいいよ」
「あ、あの……失礼しました! 差し出がましくて、申し訳ありませんっ!」
あ~、これ見覚えがある……。
この無駄にビビっている感じというか、性悪な飼い主に怯える子犬のような仕草は、まさに俺の知っているチュチュそのものだ。
なにせ、チュチュはペヨルマのメイドという名の奴隷。
だから、傍若無人なペヨルマに始終怯えているのだ。
ゲームでは、ペヨルマとおつきのチュチュが出てくるイベントでは、虐待シーンが頻出したもんだよ。
後のザマァのスカッと感の『溜め』としての殴る蹴るの胸糞な虐待は、リョナを好む連中に好評なレベルだったし……。
「ああいうのは、あんまり好きじゃないんだよねぇ~……」
「あ、あの、坊ちゃま……? なにか、ご気分を損ねてしまいましたでしょうか……?」
それよりも、問題は……『今の俺は、ペヨルマになってる』ってことなんだよなぁ……。
「……参ったなぁ。キャラ設定が悪すぎる」
「ぼ、坊ちゃま! 申し訳ございません! わたしがなにか粗相をしたみたいでっ!」
俺としては、ペヨルマみたいにチュチュを虐待するつもりなんてさらさらない。
勝手わからぬ異世界での生活を支えてもらっている相手を害そうとするほど、俺は邪悪でイカレた人間じゃない。
「し、『躾』の時間……ですよね……?」
「躾……虐待の隠語ね……くだらねぇな」
チュチュには身の回りの世話をしてもらってるし、おいしい料理を食べさせてもらっているのだ。
虐待なんてとんでもない、恩返しをしなければならないぐらいだ。
「躾なんてしないよ。むしろ、恩返しをしなければならないぐらいだ」
「……え? あ、あの……どういうことでしょうか……?」
この世界で現状唯一、会話が可能なチュチュは、今のわけわからん深刻にヤバい状態の『命綱にして恩人』みたいな存在だからなぁ……。
「今後のことを考えると、今のクソみたいな主従関係は対処の必要がある!」
「ふぇっ!?」
さて、どうしたものか……?
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