第2話 物語強制開始!

「坊ちゃま? 先ほどから、青白い顔でぶつぶつと独り言をおっしゃってますけど……本当は大丈夫じゃないですよね……?」


 それはそれとして! 


 ペヨルマの生い立ちもキャラ背景も、どーでもいい!

 問題なのは、ペヨルマのゲームでの役割だ!


 くっそ簡単に言えば、『最初の戦闘チュートリアルのやられ役』ッ!


「だいじょばないッ!」

「やっぱり! 雷に打たれたら、大丈夫じゃないですよねっ!?」


 つまり、運命として戦闘が宿命づけられている!

 まさに、『Mortal Destiny』~死すべき運命~やんけ!

 上手い! って、全然上手くねぇよ、バカ!


「待って、待って、待って!」

「ふえ? 待つ? なにをでしょうか?」


 今の状態が、どんな状態かまったくわからんが、主人公に遭遇したら終わりだぞッ!

 とりあえず、現状を確認したい!


「あの……俺って、学園……『王立魔法武術学園に通ってる』……よね?」


 ゲームでのペヨルマの設定を、おそるおそるチュチュに尋ねる。


 少しだけ間を置いて、チュチュが訝しげ気な顔で答えた。


「いいえ、まだでございますよ……」


「……え? 『まだ』って言った? 今、『まだ』って言った……よね?」

「はい……それがなにか……?」


 マ、マジ……? 絶望の中に、希望が見えたか……?


「つまり、俺は……『まだ、学園に入学してない』……ってこと?」 

「はい、学園に通うのは『来年』からのご予定ですが……?」


「あっぶねえええええええええええええええええええええええええええええッ!」


 やった! 命拾いした! 不幸中の幸いゲットだぜ!

 まったく状況は理解できないが、ストーリー上の強制戦闘&敗北は、まだっぽい!


「きゃあ! きゅ、急にどうされたんですか……っ?」

「あっ。大声出して驚かせちゃって、ごめんね」 


 何気なく謝ると、またチュチュが先ほど見せた驚きと戸惑いの表情になる。


「それよりも、確認しないと……!」


 まったく認めたくないし、考えただけで頭がおかしくなりそうだが……。

 現状を、『ゲームの世界の登場人物になっている』と仮定する。


「と、とりあえず……ステータスを見たい……」


 今いるここがゲームの世界だとすれば、ステータス画面を見れば、なんらかの情報は得られるはずだ。


 ……でも、どうすればいいんだ? コントローラーもマウスもキーボードもないぞ。

 どっかで見たような感じで、「ステータスオープン!」とか言えばいいのか……?


「ステータスオープン!」


 シーン……。

 豪華な部屋が、ビックリするほど静まり返った――。


「……は?」


 言うだけ言ったのに……。


 いや、一回で諦めるな。

 もう一度だ!


「ステータス! オープン!」


 シーン……。


「ステータス! オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオプンッッッ!」


 シーン……。


「開け! オープン! 出ろ、ステータス! なんかオープンして、出てェェェーッ!」


「ぼ、坊ちゃま……なぜ、泣きながら雄たけびを上げているんですか……?」


 はうあ!? 異常者を見る目!


「あ、あの……チュチュ……『ステータス』って、わかる……?」

「ステータス? ステーキなら、ご用意できますが……?」

「いらない。ステーキはいらない、ご用意しないで。欲しいのは、ステータスだから」


 もう一度、二度……いや、三度!

 俺は諦めずにステータスを開いてみようとした。


 結果は……。


「無駄だったぁぁぁ~……ッ!」


 声が枯れるほど叫んだが、ステータスウィンドウは表示されない。


 思いつく限りのジェスチャーをしたり、飛んだり跳ねたりしたが……。


 すべて徒労、無駄!


 当然、スキルウィンドウだのアイテムストレージだのゲーム設定画面だのも出てこない。


「こ、この異世界……ステータスが出てこないタイプなのかよぉ~……ッ!」


 ゲームの世界なのに、ゲームの要素がねェッ! ここは、ただの異なる世界だッ! 


「こ、これって……非常にまずい……つか、やばい!」 


 だって! 


『Mortal Destiny』は、『死すべき運命』という意味の通り――魔族や人間が入り乱れて殺し合う荒廃した世界の中でプレイヤーの精神力と適応力を試す、容赦のない殺伐系アクションRPGなのだからッ!


 しかも、学園モノの皮をかぶせてユーザーを騙してくるタイプの邪悪な死にゲーよ!


 ――運命を司る聖なる女神と邪悪なる女神に翻弄される世界にて、死せる運命を乗り越えろ――。


「物騒だってェ! キャッチコピーがさァッ!」


 ヤバいでしょ、これ……既に、死せる運命に首根っこ掴まれてますがな……。

 ゲームが現実になった状態にもかかわらず、ゲーム要素がないのは無理だって!

 現実の世界よりクソゲーだし、ハードモード確定じゃんッ!


「終! おしまい!」


 クソが! 異世界転生だか悪役転生だか知らねぇが、最低最悪な異世界モノと断げ――


「坊ちゃま、大変! 顔が真っ青ですっ!」


 唐突にチュチュが俺に抱きついてきて、毛布をかぶせてくれた!?


「それに、体も激しく震えていますっ!」


 や、やわらかい……いい匂い……地獄にケモ耳天使……。


「お、俺……し、死ぬかも……」

「た、大変っ! 不躾ですが、抱きしめて温めいたしますっ!」


「も、もう何もわからない……現実感がない……」


 だって、俺を優しく抱きしめてくれるチュチュの大きくて柔らかい胸とふわふわのしっぽがもたらす感覚が、まるで天使に抱きしめられているみたいだから……。


「め、召されてしま……う……」

「ぼ、坊ちゃま! お気を確かにっ! 摩擦で更に温めますからぁぁぁーっ!」


 突然、理解不能な非日常……いや、今までと違う世界に投げ込まれてしまったが……思考力と五感は、今までの現実と同じものなんだな……。


「坊ちゃま! もっと擦りますよ! 摩擦でっ!」

「あぁ……やわらかくて、あったけぇや……」


 今の俺が『Mortal Destiny』の敵キャラであるペヨルマであり、傍らに同じくゲームキャラのチュチュがいる。見える範囲での建物の雰囲気もゲームに酷似している――。


 この世界は、『Mortal Destiny』となんらかの関係があると思わずにはいられない……。


 だから……ここが天国にせよ、地獄にせよ、ゲームの世界にせよ……。


「言えることは、ただ一つ……」

「言えることは、ただ一つ……?」


 ペヨルマとなった俺の将来には、必ず破滅的な未来が待っている……。


 しかも、タイムリミットはあと一年!


「死にゲー異世界に悪役転生した俺の激ヤバ物語開始! ってことッ!」

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