After Story ”裏” 白亜の回廊
白亜の長い回廊。
私はアナスタシア様とすれ違った。
アナスタシア様は銀の髪を美しく、ところどころ宝石を使った髪留めで纏めている。
ドレスは意思の強い瞳と同じ深い蒼。
今日もお美しいわ。
流石の私も多少は毒舌を引っ込めるってもんよ。
「――貴女の毒は、聖女らしくないわね」
彼女のその言葉に、私は足を止める。
お互いに頭は下げない。
「これが聖女としての私の武器ですから。アナスタシア様。何だかんだとこの世界は平民も、そして貴族も関係なく男尊女卑な社会。そして下位貴族が高位貴族を貶め、貴族の序列を無視するような行為を行う。……本当にそれで良いのですか?」
「……貴女の毒は私も好きよ。痛快で。確かに貴族の序列を無視することはいけないわ。でも、毒をもって秩序を乱すことは聖女らしからぬ行動ね」
皮肉と苦言。
だけど私はそれを右から左へ聞き流す。
代わりに私は口を開いた。
「聖女って、何でしょうね」
「え?」
「アナスタシア様にとって、理想の聖女は? 大人しくて秩序を乱すことなく、ただただ祈るだけのお人形ですか?」
アナスタシア様は何も言わず私に目を向けるだけ。
続きを促されていると感じた私は言葉を続けた。
「だったら、そんなのクソ喰らえです。秩序は必要ですが動かなければ何も変わりません。自分達の立場を弁えず、思い込みで相手をただ攻撃する行動は祈りだけでは救えないのです」
「……一応、ありがとう、と言っておくわ」
「礼には及びませんよ。アナスタシア様」
断罪されるべきは、真実本当に断罪されるだけのことをした奴だけ。
けれど、私も言いすぎたかしら?
謝らないけれど。
一度吐き出した言葉は、引っ込めることなんてできない。
ただ私は私に正直でありたいだけ。
「……私は、まだまだね」
「えぇ、まだまだです。私も」
そうして私はアナスタシア様とニコリ、と笑い合い、しかし次の瞬間には関係のないかのように、お互いに一礼をしてすれ違う。
これで良い。
これが良い。
「大人だわ。私なんかよりも。ずっと」
アナスタシア様の後ろ姿に視線を向けるが、私はすぐに夕焼けに目を向ける。
「はぁ。一仕事終えたんだもの。今日の夕食、もう少しマシなものにして欲しいわね」
*
――その後。
王子が放った言葉は、翌日には撤回された。
宰相と騎士団長が血相を変えて王様の所に駆け込んで事の顛末を説明し、アナスタシア様のお父様がぶち切れたらしい。
「王子に国外追放の権限はない」
「男爵令嬢ベティの証言に矛盾がある」
まともな王様で感謝感激雨あられよ。
虚偽申告が明らかになった男爵令嬢および王子以下、彼らは社交界から姿を消した。
王子とその下僕達は全員、謹慎処分。
子狸ちゃんがどうなったかなんてどうでもいいわ。
とにかく――ざまぁ。
*****
次回投稿:2025/11/24 22:00
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