上級区の少女リア
リアが暮らす上級区は、白とガラスでできたような場所だった。
道路は静かで、空気には濁りがない。
すべてが整理され、計画され、最適化されている。
幸福指数は高く、人々は落ち着いていた。
感情は制御されるべきだと教えられてきた。
揺らぎは、人を不幸にするからだ。
しかし、リアは気づいている。
その静けさは、どこか息苦しいことを。
教室で窓に視線を向ける。
遥か下。灰色の下級区の中で、ひとりの少年が立ち止まっていた。
空を見ていた。
(あの子は、止まれたんだ……)
都市は流れ続ける。
立ち止まるというだけで、異物になる。
そのとき、校内放送が告げた。
『下級区にて観察対象者を確認。現在マザーによる監視下にあります。』
リアは静かに息を吸った。
(やっぱり——見えたのは、間違いじゃない。)
授業が終わると、リアは教室を出た。
ただ一つの理由で。
(わたしは、確かめたい。)
上級区と下級区を分ける透明な通路を進む。
その足取りは静かで、しかし迷いはなかった。
まだ、その名前を呼ぶには早すぎる。
けれど世界は、確かに動き始めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます