アレグロ・アンダンデ ウーカルの日常と良き隣人
第2話 罠猟は大事。だって”お肉”は『活力』だもの。いち
――――― サクサクサクと足元で小さな音がする。
それは、あたしがこの森を歩く時の音。 音が出ない様に歩く事も出来るけど、やっぱり、地面を踏む『気持ちいい音』は、いいよね。
周囲に十分に気を付けて…… 手槍は何時でも使える様にしっかりと準備して……
今日も罠を仕掛けた所に向かって一人、森歩き。 梢から降る光の階段はまだ朝早い時間だって教えてくれるし、魔鳥がようやっと起き出したあたりだ。 小さい魔獣もまだまだ寝床から抜けてないだろうし、夜歩く奴らはお日様が出始めた時間は、
まぁ、この
早朝の森の澄んだ空気と、鮮烈な匂い。 あたしが大好きな時間でも有るんだ。 森の中の事は何となく良く判る。 まぁ、判らなくちゃ、こうやって森の中を歩けるもんじゃないんだけどね。
獣人族ならまだしも、人族にとっては、正に死地。 弱っちい人族は、相当鍛練した者じゃないと、中層はおろか辺縁でもしんどい場所。
まぁ、兎人族のあたしなら、ちっとはマシかな? そんでも、なんの準備も無しに森に入るのは、まぁ、緩い自殺だと思うよ。 この森で暮す為に必要な事を私に教えてくれて、鍛えてくれたは、エリーゼ姉さんと、なんと ウーさん。 ちょっと、ウーさんがあたしに対する『興味』が復活した辺りで、この森で生きて行く上で必要な事を教えてくれた。 それが『魔法』だった。 とても
でも、あたし…… 本格的には使えんのよ……『魔法』は……
いや、まぁ、その…… 魔力を紡ぎ出す事くらいは、出来るんだよ? ただ、上手くそれで『魔方陣』を綴れないのよ。 理由が有るんだけど…… あんま、思い出したくない。 魔法陣が必要無い、【身体強化】とか、【聴力強化】とか。【暗視】とかは、それなりに…… ね。 強化系って云われる、自分を対象とする『力』を紡ぐ、そんな魔法しか使えんのだよ。
まぁ、困るかって云われると…… そうでもない。 「
勿論、あたしは…… そのどれも使えないけどね。
森を傷つけるような事をする事は、本当に厳しく禁止されているんよ。 まぁ、それだけ、森が傷つきやすいって云うのと、『
森の中の事は、全部ボボール爺さんが教えてくれた。 何をしちゃいけないか、何が制限されているか。 ……そんな所。
――――
ってね。 森の外は知らない。 どんなルールが有るのかすらも、あたしは知らない。 けど、この森の中に居る限りは、そんな事どうだっていいんだ。 だって、森は広大で、深くて、森の外に出るような事は滅多に起こらないしね。
それに、森の外の事は『 ウーさん 』が一手に引き受けているんだよ。 まぁ、ウーさん自身、森の外から来た異邦人だって言ってたからね。 なんか深い事情が有るらしいんだけど、それもあたしには関係ないし、知ってても、知らなくてもなんら変わりは無い事だもんね。
あたしにはウーさんがウーさんで有ればそれでいいから、昔の事を聞くつもりも無い。
サクサクサクと進む道行。 綺麗な空気を胸一杯に吸い込みながら、あたしは森を歩くんだ。 目的は仕掛けた罠の巡回。 大切な食べ物を、大いなる森から貰う為にね。
^^^^^
滅多にない事が起こるのは、偶によくある事だって、ボボール爺さんが言ってた。 聞き耳を研ぎ澄ませれば、森の奥から 「
目を凝らせば、大きな火の魔法がぶっ飛んでいるのも見える。
あぁ……
結構、森の奥深いのよ、ココ…… それに、周囲には樹人族の集りも有るんだよ。 そんな中で、大きな『火の魔法』を使うなんてね…… ほんと、馬鹿……
【隠形】を身に纏って、よいしょって近くの大きな木に登るんだ。 視界は広い方が良いからね。 火が迸っている方向を覗き見るの【遠見】の強化を眼に浮かべてね。
………… 一人、二人、三人
獣人族が三人かぁ…… あれ? 戦っているのって…… 大猪? 待って、待って…… あれって、あたしが想定して居た「
間違いなく、ネブ=ドロン大猪……
後ろ足が腰まで泥に汚れてて、更に言えば罠に使った呪符の断片がこびり付いているんだよ。
アイツ等…… 人の獲物横取りしよってからに~~~~ でもなんで、罠から抜け出てアイツら追っているんだ? 足元捕まえて動けなくしてたのに? あぁ、そうかぁ…… 罠に掛かって ” ブモォ~ブモォ~ ” 呻いている大猪。 攻撃色を眼に浮かべて暴れてた大猪の事を、偶々通りかかったアイツ等が、自分達が攻撃される前兆だと勘違いしちゃったんだ。
で、その大猪が『罠猟の獲物』なんて露知らず、攻撃しちゃって罠を潰しちゃった…… 苦しいくて辛い時間を過ごした大猪は、そんなアイツ等が自分を罠に掛けた『
そんで、大猪が特殊固有スキル『
現に大きな火の魔法でも、大猪の突進は止められないし、魔法使いの前で戦っている戦斧持ちが見た目が剛毅な戦斧を盛大に煌めかせて打ち付けてても前足一本折れもしない。 後方からもう一人の魔法使いが何度も何度も【治癒】を投げて、戦斧持ちや魔法使いの怪我を直しているけど、連続した突進攻撃は、【治癒】の回復を上回ってるなぁ……
ジリ貧じゃん。 逃げなよ~~
でも、まぁ、アイツ等森のルールを無視しちゃって、激しくやらかしているから、助けるなんて事なんて在り得んしなぁ…… どのみち助けようとしたら、こっちを魔物と勘違いしそうだしぃ~~。 じっと様子を見続けるだけにしとこ。 アイツ等にゃ、義理も無いし、得も無いもんね。
長時間の耐久戦闘ではさ、やっぱり後衛が潰れるんよ。 只の獣人族の魔力保有量なんて、限られたものじゃん。 そうなって、当たり前なんだよね。
あの回復職の魔法使い、体内魔力の魔力回復が追い付かない。 その上、回復薬なんかも品切れみたいになって、後衛の魔術師が杖にすがって崩れ落ちた。 まぁ、そうなるよね。 あれだけ連発して『
で、二、三発大猪の突進を喰らった、前衛の戦斧持ちが削り切られて宙を舞う。 アレは…… 助からんね。 大猪の牙に引っ掛けられて、腹を裂かれ内臓飛び出してんだもん。
そこに至って、やっと火の魔法を使っていた魔法使いが逃げを選んだ。 遅ぇんだよ。 奴は、自分だけ障壁系の魔法を身に纏って、逃げ出したんだ。 仲間を見捨てるってこったよね。 なんか、大声で喚いているけど、仲間に対する謝罪とか哀悼じゃなくて、呪詛みたいな恨み言。
” お、お前ら、本当に使えないッ!! つ、使えないお前らのせいだッ!! お、俺のせいじゃないッ! け、『賢者』の称号持ちの私が、こんな無様な事に成る筈が無い! お、お前らが…… お前らが…… ”
ほんと、探索者って、どうしてこうなんだろう? だって、戦うか引くかはちゃんと頭目が決めなきゃならないんでしょ? 自分の判断が間違っていたのに、そこは無視して仲間を非難するなんてねぇ……
みっともないって事。
突撃を繰り返す大猪の
幾ら障壁系の魔法を纏っていても、魔法耐性が強い大猪が相手だから、そんなもん無きに等しい。 つまりは、あの魔法使い、破城槌でぶっ叩かれたのと同じって事。 つまりは、頑丈な金属鎧でも防御しきれない程の『衝撃』があの魔法使いを襲ったんだよ。
―――― まぁ、結果は推して知るべし。
多分全身の骨が折れて、内臓もぐちゃぐちゃだろうね。
生き残っていた回復職の魔術師は、大猪の突進の経路には居なかったんだ。 ほんと、何が幸いするか判らんよね。 でソイツ、なんとか生きている位の状況なんだけど、気配を消してなんとかやり過ごそうとしているんだ。
まぁ、対処方法としては間違いじゃない。 大猪は基本真っ直ぐ前しか見ない。 だから、やり過ごして隠れてしまえば、大猪の攻撃は受ける事は無いしね。 それに、仲間達が全滅しているんだから、自分の身を護るのは当然ちゃぁ、当然。
大猪の警戒範囲から出られたんだ、その回復魔法使い。 そこまでは良かったんだけど…… 致命的な間違いをしでかした。 この森のこの場所って、蟲達が多いのよ。 結構いるのよ。 だから、余程注意して索敵しないと、そいつ等にヤラレル。 大猪の気配が遠ざかった今、蟲達は集まるよね。 何時もそうだもん。
消耗しきった魔法使いは、状況を何とかしようとしたんだろうね、【神聖自己治癒】の魔法を使ったんだ。 隠し持っていた魔力回復薬を一気に煽って、魔力を紡ぎ始めたんだよ。 アレって、聖属性魔法。 光魔法と親和性が高くって、この黒の森で使うのは、結構覚悟が要るんだよ。 だって、ココは闇属性の魔物魔獣がウロツクそんな場所。 云わば、真っ暗な闇の中で松明を付けるのと同じ。
寄って来るよね…… 光に向かって、蟲達が…… そして喰おうとするよね。
ほら、案の定…… 頭の後ろにアンデッド系の魔物の攻撃にも使える【
偶によく有る、獣人族の
―――― さて、あたしはお肉の回収に行こうかな。
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