第3話 罠猟は大事。だって”お肉”は『活力』だもの。 に~



 罠に掛かった獲物を潰すのは簡単。 でもさ、手負いになった大猪はちょっと厄介。 まぁ、でもアイツ等が相当削ってくれたから、大猪も結構限界に近いのは確か。 後ろ足は未だに『符呪』が利いていて、本来の半分くらいしか力が出てない感じ。 前足と顔はアイツ等の魔法やら斬撃を受けて、結構ボロボロ。 それに旨い事、「目」が潰れていたからね。



 さて、やりますか。



 大猪の急所の一つが首の後ろ。 魔獣の一般の急所と云える場所なんだよね。 樹々の枝を伝い、大猪の直上に向かう。 脂が分厚いから、かなり深く刺さないと急所には届かないからね。 高い場所から飛んで思い切り深く急所を断ち切るんだ。


【隠形】を纏ったまま、大猪の真上に移動。 そんで、狙いを定めて、大木の枝を蹴る。 身体強化を纏ったあたしの蹴りで、太い枝が大きくしなり、木の葉が舞い散る。 



 あたし…… 途轍もなく速度が出ているんだよ。



 あの爆裂突撃蟲エリクシャージバグと同じ感じ? まぁいいか。 狙いを違わず、急所に手槍を叩きつける。 固い表皮、分厚い脂。 手槍はそんな大猪の装甲と云うべきモンを刺し貫いて、一気に急所の骨をブチ折る。


 プヘャャァァ!


 断末魔の叫びが森に木霊する。 大きく痙攣したネブ=ドロン大猪は巨体をドォーンと横に倒れ込んだん。 私は半分分厚い脂の中に居たけど、その衝撃でお外に……


 って、まぁ…… これが、私の狩のやり方。 手負いの獣は、こうやって急所を一撃にしないと、本当に面倒な事に成るんだ。


 罠に掛かっている奴だったら、手槍で周りから突いて、『継続出血』狙って安全に倒すんだけどね。 まぁ、稀によく有る事態だから…… ねぇ…… なんか疲れたから、今日は他の罠を見に行かない。 此奴を解体して、持って帰るだけにしとこっと。



 そうだっ、木の実も捥いで、一緒に持って帰ろ。 お肉だけじゃ体に悪いからねっ!




 あぁ、ばっちいなぁ…… 脂でドロドロだよ。 ホントに…… 洗うの面倒なんだぞッ!!


 そう云えば…… アノ獣人族のヤツ等…… えっと、ウーさんと約束してたよなぁ…… 生きている獣系の亜人族をぶち殺して装備を奪うのは、禁止って。 でもさ、アイツ等ぶち殺したの、この大猪だしなぁ…… えっと、落っこちてる装備とか、死体が着てたものなんかは、拾ってもいいって、言ってたなぁ……


 っていうか、今着てるボロも森の浅い場所で、死体から拾ったやつだし……


 よし、回収しよう。 綺麗そうだったから、洗って手直ししたら使える筈。 持ち物の中に塩とか穀物粉とかあったら嬉しいし、香辛料が有ったらものすんごく幸運。 よし、行こう。 回収しよう。 お肉は後回し。 そんなに時間かからんし、他の野獣に持っていかれる程、『軽く』無いしねッ!


 それにさ、ちょっと楽しみもあるんだ。 だいたい、こんな森の奥に来る奴等なんて、むさい漢ばっかじゃん。 でも、今回の人族…… あの火の魔法使い以外の二人、女性・・だったんだよ。 


 こ、これで、下着がッ!! ウーさんの新聞で見た、女の子用の下着がッ!!! 手に入るかも知れん!!


 気分は、アゲアゲに成ったのは、仲間の皆には内緒・・……






 ――――






 ホクホク…… ホクホク……




 ニマニマ笑いながら、ネブ=ドロン大猪の解体。 後ろ足にロープを括りつけて、近くの大木に吊るしてね。 手槍にくっ付いている戦斧の刃を当てて、腹を切り裂いて内臓を取り出す。 まぁ、何時もの手順。 内臓はそのまま木の根元に掘った穴に自然に落っこちるし、大木にとっちゃ良い栄養になるだろうね。


 首も落とし、粗方の血を抜くと、そこには肉となった大猪がぶら下がっているんだ。 えっと、いつもなら、皮を剥いて脂も落として、肉にして皮に包んで引き摺って帰るんだけど、今日は違う。




 ―――― 違うんだよッ!!




 ほら、あの人族の落っことした装備の中に、『魔法鞄マジックバック』があったんだよ。 それも、容量のデカい奴。 ウーさんの書斎を掃除してた時に見た奴。 呉れって言っても、ダメって云われていた奴。 


 持ち主しか開かないからダメだった奴。 で、拾った魔法鞄は、持ち主が死んじゃったから、持ち主不在。 ウーさんに念の為に聞いておいた『使い方』が、役に立ったよ。 ほんと、今日はついているぅぅ!


 承認呪印にあたしの血を一滴落とすだけで、あたしが死ぬまで、これはあたしの物ぉぉぉ!!




 腰に付けるタイプの鞄の癖に、容量はデカかった。




 それにさ、死体から拾った剥いだ装備の中に、女の子の下着もあったんだよ。 回復職の魔術師は、首から上を吹き飛ばされていただけだから、装備は無傷。 ほんとラッキー。 前衛の戦斧持ちは、装具も金属製だったけど、下に分厚い布の服を着てた。 服の腹の部分は裂かれちゃってたけど、このくらいなら縫えばいいしね。


 他にも、魔法鞄の中になんか入っているけど、それは、帰ってからのお楽しみって事で。 それに、容量が、本当のデカかった。 死体から拾った剥いだ装備を全部突っ込んでも、まだまだ余裕が有るんだよコレ……


 で、何処まで入るか判らんかったから実験の為に、肉になった大猪を入れてみる事にしたんだ。 入ったら、これからの狩がとっても楽になるしね。 だって、狩った獲物を、そのまま持って帰れるんだよ? 今まで、捨ててた部分も、持って帰れるんだよ。




 お肉が全部ッ!! ジュルリ……




 お肉突っ込んだら、丸ごと入った。 重量は感じない。 へぇ…… 魔法鞄の事、もうちっとウーさんに訊こう。 なんか、トンデモな性能してそう。


 ウヘヘヘヘ……


 罠を潰されたのは、痛かったけど…… 『廃品回収スカベンジャー』は、とても美味しいモノだった。 罠もまた作ればいいし。 また、呪符アミュレットを貰わなきゃだけど、そこは土下座して……


 疲れたけど、今日は ウッキウキ で、お家に帰ろう。


 暖かくて、楽しい、お家に帰ろうッ!!


 スキップしそうなくらい浮かれて、森の中をサクサクサクサク音をさせながら帰ったんだ。





 ――――――――――





 森の中の小道をどんどん奥に行くと、はい、ありました。 デカいデカい樹の上に見える、我が家! 


 ええっと、我が家とか言ってるけど、あれは”ウーさん”の家。 私は居候。 そうだね、ちゃんとわかってるよ。自分の事は。 そう、居候ね。 はいはい


 そんなこんなで、家の下に着く。 見上げると、『デカい樹』。 エロ爺ィボボール爺さんの本体。 樹人族の身体にくっ付く様に造られた樹上のお家ウーさんのお家


 でもね、普通には入れない。 だって、入り口になっている場所に、梯子とか、ロープとかついてないんだもん。 見上げる程の高い位置にデッキバルコニーがあるんだ。 其処がこの『樹上屋敷ウーさんのお家』の入口。 


 出て行った時に背負った荷物背負い袋を放り投げる。 うん、この頃、やっと一回で投げられるようになった。 




 私? うん、ちょっと離れて、助走をつけて  ジャァ~~~~ンプ 




      ―――― バン! 




 よし、着地。 乗れました! やりました! 決まりました!



「バカやってんじゃねぇ、 飯のタネ取って来たのか?」



 おう! ウーさんが、なんか言ってますね。 答えてあげよう!



「え~とね、今日の収穫は、ネブ=ドロン大猪 一頭 アガバンドの木の実 一籠 その他拾った『モノ・・』 少々」


「おう、ネブ=ドロン大猪は、久しぶりだな、 ちゃんと毒抜きしろよ」


「アイ、アイ」



 荷物をもって、上へあがる。 この家の中では最下層に当たる、デッキバルコニーから一段上がる。


 でもまだ、壁とか窓とか無い場所。 お肉の処理とか、洗濯をする場所なんだ。 まぁ、床が「簀の子」状になっているし、大量の水を使ったって、全部下に落ちるしね。 その水はって云うと、樹の上から降って来る。 『水道』を使ってね。


 どうなってんだろこれ? ウーさんに聞いてみても、「なるようにしてるんだ」って言ってるから、そうなんだって思って、深く聞かない。 多分、聞いても判らんもん。 まぁ、樹の上の方に『魔法の水玉』が有るんだろうけど、そこからどうやって持って来ているのかが判らん。 けど、便利だから、文句は無い。 そんな事に時間を使ってたら、生きて行けない。


 で、まぁ 獲物の解体ををするんだな。


 皮を剥いで、脂を取り分け、肉を切り出す。 脂は今度、食用油にするから、取っておく。 結構な血が出る。 この血が厄介でね。 猛毒なんだ。 ちょっとヤバイやつ。 全部、下に流す。 洗いざらい流すんだけどね、ここで、私やらかしちゃったんだね。 大丈夫だと、思ってつりさげたら、どっかに溜まっていたらしく、ドバッって血が固まって出て来た。 


 ヤベッ って思った時には、ちょいとばかし遅かった。 頭から、被っちまった。 一生懸命、水で洗い流すんだけど、やっぱりヤバいは、きついね、ちょこっと毒を貰い廻っちまったんだ。



 ―――この毒、男にはあんまり関係ないんだが、女にはかなり関係したりなんかする。 



 ほてるんだよ、体が。 そりゃもう、すんごく。 取り敢えず、ウーに見つかる前に、何とかしようとね、する訳よ。 洗い物籠に大切な魔法鞄を入れて、毒が沁み込んじゃった、各種装備を手早く脱ぐ。


 手甲外して、ブーツ脱いで、ズボン降ろして、胸当てとって、シャツ脱いで、乳あて取って、下履き脱いで、 まぁ、スッポンポンになるわけよ。 この血、結構ネバネバしててね。



 上から流れて来る水で洗う訳よ。

      なかなか落ちない訳よ。

           物凄く焦る訳よ。



               焦れば焦る程、毒が回る訳よ。




「……何やってんだ?」




 ウーの声にびっくりしたとたん、 アフッン って声が出て、腰が砕けペタンと座った。




「悪いけど、腹減ってんだ。 飯ッ! まったく、なに遊んでんだかッ!」


「ウウウウッ ごめん。 血毒…… 被った」




 うるうるして、ウーさんを見上げる。 呆れ果てた視線を投げて寄越すウーさん。 で、身体のあちこちに飛んでる毒血の染みを見て、ちょっと目を細めてた。




「不注意ッ! バカか? ……例の毒か。 おまえ、良く意識保ってられんな…… 判った、ちょい待ち」




 ウーの掌が緑色に光って、頭に乗る。 スーッと体のほてりが消える。毒消しの魔法状態異常解除………… ありがとう! ありがとう、ウーさんッ!!  あのまま行ったら、快感を求め続けるところだった!




「ったく、気を付けろよ! 飯、よろしくな」


「アイ、アイ!」




 ヘマこいて、助けて貰ったお礼に旨いモノ作るかッ!! 今日はいいお肉と、貴重な調味料、それに、ほら、色々と良い事あったし。 新聞のお料理欄の作ってみたいモノも作れる素材も集まったしッ! とりあえず、うまい飯作るか! 洗い物籠の底から魔法籠から取り出して、ゴソゴソ。 ほら、拾った剥いだ装備に、イイ感じの下着やら上着やらあったじゃん。 あれを身に付けてみたんだ。 まぁ、大丈夫そう。




 ―――― よし、気分も上がった。




 解体した肉と果物と野菜を持って、お家の中に向かう。 リビングに続く台所。 


   うんそう、そこは、あたしの『居場所拠り所』。





   暖かくて、優しい感じの、あたしが居ていい場所に…… 












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