ウーカルの足音

龍槍 椀

ポーコ・ア・ポーコ 序:あたしは、ウーカル

第1話 あたしの事






  ――――――  あたしは、ウーカル。








 ロップイヤー種の兎人族。 生まれ持ったのは、色の抜けた真っ白な体毛と、深紅の瞳……  普通の兎人族の見た目からかけ離れた異質さは、まさしく、『忌み子・・・』の証。


 そんな外見で生れ落ちたあたしは、その瞬間に実の両親に捨てられたんだ。 生まれたての赤子に、怨嗟の呪いのような、酷い言葉を投げつけながらね。 うっすらと…… 本当に、うっすらと、その言葉は頭のなかに、あるのよね…… 困った事に。  ちなみに、眠れない夜にぼんやりと浮かび上がる、そんな言葉の数々…… ほんと、やんなっちゃうよ。



     ……………… あたしを産み落とした女の言葉。


 ” こんなモノ、産むんじゃ無かった。 さっさと、捨てて来てッ! 見るのも嫌よッ! ”


     ……………… 女を孕ませた男の言葉。


 ” なんで、こんなモノが産れちまったんだ。 全く、手間かけさせやがってッ! ”




 生れ落ちて、最初に聞いたのが、祝福でも慶びでも無く、怨嗟の言葉。 まぁ、そんな運命の元に生まれちゃったんだから、仕方ないね。 あたし、呪わしの子供なんだって。 同族の仲間たちの間で暮すと、その仲間達に禍を齎すんだって。 ずっと後で、その事を知ったんだ。 仲間が教えてくれた。 でも、仲間はあたしを厭わなかった。 『忌み子』の本当の意味を、仲間たちは知っていたんだ…… アイツ等とは出来が違うんだよ、出来がッ!!



   ヤツ等……

     どこで、そんな事を聞いたんだか……

          誰がそんな事を言い伝えた・・・・・んだか……




 まぁ、そんな訳で、産れたての赤子のあたしは、リーダスの塊に捨てられて、魔物がうろつく、ガイアの森に流されたんだ。 そんな事をする理由はね、自分達で殺したら、呪われるから。 だから、森の魔物に喰わせようってね。 自然に任せて、あたしを殺しておこうって事。 まぁ、なんだ、そんな事なんだよ。 あたしは、産れたてで、そんな事知らんかったけどね。 



 ―――― 本当なら、死んでた。



 というより、それが目的だったんだよね…………







    でもさ、あたし、『 豪 運  ・ ・ 』持ちなんだ。




 



 ガイアの森の中を流れる川。 当然、周りにはウヨウヨと魔物、魔獣が居る筈なんだ。 水棲魔獣もね。 でもさ、どんな絡繰りが有るのか、あたしは、見つからなかった。 ゆらゆらと川の流れに乗ったリーダスは、フラフラと流されて…… 流されて……


 そして、リーダスがバラケル寸前に、川の ” 淀み・・ ” に、引っ掛かった。 今にも水没しそうなリーダスの塊の中に居た『あたし・・・』を見つけたのが、今のご主人様、『ウーさん』だった。


 長い長い本当の名前が有るらしいけど、あたしにとっては、ウーさん。 あんまり人に会わない黒の森で、個別で認識する必要があるから『呼び名』が有る訳で…… だから、ウーさんは、ウーさんでいいんだよ。 まぁ、物心ついた時に、直接本人に訊いたんだんだよ。 ご主人様って呼んだ方が良いのかって。 


 そんとき、ちょっと困った表情を浮かべたウーさんは、『 ……別に、ウーさんでも構わん。 ウーカルの中で俺の認識がそう云うモノなら、それでいい』 って、言ってくれたしね。 


 初対面の時のウーさん。 最初は、好奇心と小腹の足し。 ほら、川に流されてた、産れてたての兎人族の赤子がなんか、煩く ” ウーウー ” って、唸っているし、ウーさんを見たとたんに、” カルカルカル ”って、威嚇音を口にしてたんだってさ。 


 その時、珍しく、ウーさん…… 興味を引かれたんだと。 最初は、小魔獣かと思ってたって。 まぁ、喰えるかなって……




 ――― そう、最初の出会では、ウーさんの中では、あたしは食料食べ物。 





 首根っこ掴まれて、『お家』に持って・・・帰られたんだよ……


 幸いな事に、ウーさんが、あたしを『お家』に持って帰ったら、ウーさんの仲間の一人が、あたしを見て気が付いた。 あたしが『忌み子』で有る事を。 それが、先祖返りした兎人族である事を。 そして、” 兎人族の『忌み子』” の、本当の意味を知ってた。 伊達に長生きしてないね、『樹人族』って。 ウーさんに掛け合って、『お家』で育てようって事に成ったんだ。


 最初の興味は失ってたウーさんは、仲間の言葉を聞くともなく聴いてたね。 で、出した答えが


    『好きにしろ』


 だったんだ。 興味から外れて、軽い食料食べ物って感じじゃ無くなったんだろ。 興味と関心を失ったウーさんは、私をポイっと「ドライアド族」の ” エリーゼ姉さん ” に渡したんだ。 人化した姿が、女性形態だったし、なによりこのお家の食事全般を担っていたからね。 それに、ドライアド族だから植物を育てる・・・のは、御手のモノ。 だからだったんだろうって、樹人族のエロ爺ぃボボール爺さんが言ってた。




 ――― そして、あたしは……  食料から 『 ペット 』になった。




 本当に本格的にあたしを育てて・・・くれたのは、エリーゼ姉さん。 『植物』を育てんのはお手の物の姉さんだけど、「動物」であるあたしを育てるのは四苦八苦したって、笑って教えてくれるのよ。 まぁ、そうだろうね。 飯も食えば排泄もする。 そんで、自力ではなんも出来ん…… ボボール爺さんが手伝ってくれてよかったって。


 あたしの、警戒する唸り声と、威嚇する鳴き声から、『ウーカル』って名付けてくれたのは、「エント族」 千年聖樹で、あたしのお風呂を覗き見する エロ爺ぃの ボボール爺さん。 けど…… 今にも死にそうな赤子のあたしを、エリーゼ姉さんと一緒に、それはそれは、大切に育ててくれたんだよ。 


 ボボール爺さんなんか、貴重な千年聖樹の樹液すら、使ってくれたらしいんだ。


 おかげで、あたしはスクスクと育って行った。 兎人族の赤子の中でも、結構体格いい方だったらしいしね。 まぁ、それも伝聞。 だって、普通の兎人族なんて、この黒い森ガイアの森の中なんて入ってこれないから、比べる事なんて出来っこ無かったからだけどさッ!


 ……十年もすれば、十分に成長する兎人族だから、『お家』の皆の好意ですくすくと育ち、バッチリ、大きくなった。 出るところは出て、引っ込むところは引っ込んだ。 背も高くなって、お家の中ではなんも困らんようになったし。


 でね、” 只飯喰らい ” で、ペットなあたしは考えた。 空っぽの頭でも、これはイケないんじゃないかい? なんて、自分の境遇をつらつらと…… 出来る事を遣らないと、この『お家』で棲むなんて、何となく…… 嫌だった。 出来る事、出来る事…… と考えて、皆が気持ちよくボボール爺さんの中で暮らせるように、掃除したり、洗濯したり、食事の用意をしたり…… 


 だって、皆とっても自由人なんだよ。 散らかり放題、汚し放題だったしね。 それに、食べ物も『生』が多かった。 ウーさんが仲間の一人に命じて、遠い国から『新聞』とやらを調達しとった。 で、その中に美味しそうな料理が乗ってて、作ってみたくなったんだよ。 ウーさんとボボール爺さんにお願いして、台所を作って貰った。


 最初は酷い出来だったけど、そのうち喰える物が作れるようになったんだ。 皆、喜んで喰ってくれた。 まぁ、エリーゼ姉さんと、ボボール爺さんは、” 植物・・ ” だから、他の人とはちょっと違うんだけどね。 まぁ、頑張ってるよ。そんなこんなで、自分の居場所を作れた、今は…… 



 ―――― 『お家』で『お手伝いさん』をやってる。



 で、お家の仲間達からの、ペット扱いから…… 兎人族の女の扱いに変わったんだ。 ウーさんと神聖契約を結んでいる家の仲間達から、イイ女になれよって、そう云われている。 その視線は、まぁ…… そうだね…… 弱っちい『あたし』を、意味合いは判らんけど、まぁ、仲間に入れてくれたって感じだね。 


 剣と魔法がこの世界の『力』としたら、あたしは、何の力も無いけど、一生懸命今日も生きて行くのですよ。 もう、あたしが生まれた場所の事なんてどうでもいい。 あたしには、大切な仲間がいるんだ。 そんで……



 イイ女になって、皆と笑って暮らして、生きて行くのですよ。


 この命を救い上げてくれた人たちと一緒にね。


 そう…… 『イイ女』になって、楽しくガイアの森で暮して行くのよ。


 シリアスは苦手なの、痛いとか苦しいとかもご遠慮申し上げます。





  さあ、今日も頑張って生きていきましょう!!






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