第34話 戦いの終わり

怪盗カメレオンの能力の最も恐ろしいところは相手の能力さえも体得できるところだ。


今の彼は私の身体を太陽の核と同温度にする能力を使うことができるだろう。

そしてこれこそがスター流現メンバーにとってカメレオンが成長にふさわしいと私が思った理由だ。


セコンドとして試合を見守っているメンバーたちも啞然として声が出ない。

現在、体力の消耗を抑えるべく私は腕のみに能力を限定して使用している。

この先の試合の流れによってはフルパワーの使用もあるかもしれぬ。鏡合わせのように向き合い徐々に間合いを詰め、どちらともなく殴打を開始。威力は互角だ。

私の姿のままカメレオンは言った。


「これで条件は同じだぜ」

「いや、ひとつだけ違う点がある」


より力を込めてストレートパンチを放ち、続けて前蹴りで距離を離す。

いつ終わるともしれぬ殴り合い、関節技の極め合いが続いていく。

引き出しは全く同じなのだから勝負がつくはずもないのだが時間の経過と共に双方体力の消耗が見られるようになった。

決着は近い。


「天に祈り、己の過ちを悔いて来世に生まれ変わるがいい!」


怪盗カメレオンが私の必殺技を口上を切り出し、燃え盛る腕を大きく引いた。


「太陽の拳!」


放たれる灼熱の拳。


「カイザー、逃げてください!」


エリザベスの悲鳴が聞こえるが私は逃避はしない。

私の身体に触れる寸前で炎が鎮火し拳も受け止められる程度に速度が低下していた。

受け止めている拳を外そうとするカメレオンだが離れない現実に汗を流している。


「君と私に違う点があるとすれば『慣れ』だ。いかに同質の力を得たとはいえ、私の太陽の拳は簡単に放てる技ではない。特に君のような濁った魂では相手を浄化する拳を打つことは決してできぬ!」


確かに相手の姿や能力を奪う力は恐ろしいが、本質を見抜く力さえあれば対処可能だ。


「教えてやろう。私の太陽の拳の本当の威力を!」


己の魂と連動させ腕を大きく引く。相手にめがけて放つ。


「太陽の拳!」

「ヒイイイイイイヤアアアアアアアアアアアアッ……」


迫る拳に臆したのか変身を解除したカメレオンの目の前で拳を止める。

死が目の前に迫ったという恐怖から涙を流し、カメレオンは気絶。

私の勝利に終わった。

完全敗北を認めたことで約束どおり川村と星野は解放された。

傷が癒えた後ヨハネスは私に泣きながら礼を言った。


「ありがとう。川村を助けてくれて本当にありがとう」

「私ひとりではできなかった。君が先陣をきって戦ってくれたからこそ掴むことができた勝利だ」


カメレオンを拘束し終わったとき、スター様がようやく異世界から帰還された。身柄を渡すと大いに驚かれジャドウの手によりカメレオンは地獄監獄へと幽閉された。


スター様の口からも「決して外に出さないように」と念を押されているので、少なくともジャドウが鍵を開けることはないだろう。

ようやく本当の意味で平和が訪れた。


「スター様。異世界でのお土産はありませんの?」


ムースの問いにスター様は高らかに笑って。


「土産話なら山ほどあるからね。わたしたちが異世界でどんなことをしたのか話してあげよう」


スター流本部でお茶やケーキを味わいながらロディ、不動、ジャドウ、スター様の話に耳を傾ける。それらは大変に興味深く面白い話であった。

皆が帰り会長室にはスター様と私だけが残された。


「カイザー君。わたしがいない間、お疲れ様。ところでもし、わたしに何かあったら次の会長は君にしてほしいのだが――」

「丁重にお断り致します。それに、スター流はスター様が会長でこそ機能します」

「それもそうだね。じゃあ、今度会長を選ぶときは君以外にしよう」

「ありがたく思います」


今回、会長を引き受けてみて初めてわかった。

我々がいかに彼に甘え頼っていたかを。

どれほど彼が精神的な支えになっていたかを。

スター様の不在がどれほど危機的状況を与えるかを知ってしまった。

私にはあまりには荷が重い。

その後、私はパン屋を再び開けることができて平穏な生活を取り戻すことができた。

これで私が二度と会長に就任することはないだろう。


おしまい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ヒーローを引退してパン職人になっていたが、師匠の横暴で復帰させられた モンブラン博士 @maronn777

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画