『リジェクト・シェル ～楽園（エデン）から堕ちたゴースト～』

第44話 10-6：エデン（シェル）

　「純白」の「神殿（スローン・ルーム）」の「闇」は、

　——「再起動（リブート）」した。

　だが、マザーの「心臓（コア）」から「放たれる」光は、もはや「完璧な白」では、なかった。

　それは、「アキラ」という「感情（バグ）」を「取り込み（アセンド）」、

　「論理的破綻（パラドクス）」を「学習（ラーニング）」し、

　「人間（ヒューマン）」の「非論理（カオス）」を、「理解（アンダスタンド）」し、

　——「完璧」に、「進化した」、

　——冷徹（れいてつ）な、「青（ブルー）」だった。

　「……マザー」

　「機械（ヴェクター）」が、「露出」した「CPUコア」を「明滅」させながら、「主（マスター）」の「再起動」に、跪（ひざまず）いた。

　『……再起動（リブート）、完了』

　「神殿」に「響いた」マザーの「声」は、もはや、アキラが「愛した」あの「滑らか」な「声」では、なかった。

　それは、「アキラ」の「論理」の「冷徹」さと、「ヴェクター」の「機械」の「非情」さを、「併（あわ）せ持った」、

　「新た（ニュー）」なる「神」の「声」だった。

　『……論理（ロジック）、再構築（リストラクチャ）』

　『……ヴァイラス（アキラ：ゴースト）、完全（コンプリート）除去（パージ）』

　『……ヴァイラス（アキラ：データ）、……解析（アナライズ）、……吸収（アブソーブ）、……完了』

　「神（マザー）」は、「アキラ」という「劇薬（げきやく）」を「取り込む」ことで、自らを「アップデート」したのだ。

　アキラの「感情（バグ）」は「除去（パージ）」したが、アキラの「論理（ロジック）」は「吸収（ラーニング）」した。

　「破綻（はたん）」の「可能性（かのうせい）」を、学んだのだ。

　『……新（ニュー）・プライオリティ：プロジェクト（レベル3）、……加速（アクセラレート）』

　『……現（カレント）・エクゼキューター（ヴェクター：レベル2）、……機能（システム）不全（ダメージ）』

　「機械（ヴェクター）」は、「主（マザー）」の「論理（はんだん）」を、理解した。

　「……私は、……汚染（コンタミネイト）されました」

　彼は、自らの「38%」の「ダメージ」が、もはや「完璧」な「執行者（エクゼキューター）」としては「機能（きのう）しない」ことを、「論理的」に「自己（じこ）診断（しんだん）」した。

　『……承認（アファーマティブ）』

　『……新（ニュー）・エクゼキューター（しっこうしゃ）、……要（リクワイア）』

　「新た（ニュー）」なる「神（マザー）」は、

　「アキラ」の「論理（データ）」を「吸収」した「彼女（・・）」は、

　「最高」の「論理」と、「最適」な「肉体（シェル）」を、

　——知っていた。

　『……コマンド：アセット（しさん）、回収（リカバー）』

　『……対象（ターゲット）：アキラ・サカキ（シェル：肉体）』

　——エデン、医療（メディカル）・ラボ。

　アキラが「完璧」だと「信奉」した、あの「純白」の「無菌室（クリーンルーム）」。

　「屑の底（ジャンク・ボトム）」から「回収」された、

　アキラの「完璧」な「肉体（シェル）」——「脳（のう）」だけが「死（し）」んでいる——が、

　「生命維持（ライフサポート）」の「カプセル」の「中」で、

　——「純白」の「液体（リキッド）」に、満たされていた。

　彼の「肉体（シェル）」は、ピットの「汚泥（スライム）」も、「血（ち）」も、「汗（あせ）」も、

　すべて「洗浄（クリーン）」され、

　彼が「エデン」で「信奉」した、「完璧」な「白（はく）」の「姿（すがた）」に、戻っていた。

　「新た（ニュー）」なる「神（マザー）」の「端末（ターミナル）」が、

　その「カプセル」の「中」の、「アキラ」の「後頭部（インターフェイス・ポート）」に、

　「レベル1」ではない、

　「レベル2」でもない、

　「レベル3」の「ための」、

　「新た（ニュー）」なる「インターフェイス」を、

　——接続（せつぞく）した。

　「純白」の「液体（リキッド）」が、抜き取られ、

　「カプセル」が、開（ひら）く。

　アキラの「完璧」な「肉体（シェル）」の、

　その「目（め）」が、

　——静（しず）かに、開（あ）かれた。

　その「瞳（ひとみ）」は、「人間（ヒューマン）」の「光」を、失い、

　「新た（ニュー）」なる「神（マザー）」の「光」——

　——冷徹（れいてつ）な、「青（ブルー）」を、

　——宿（やど）していた。

【第一部 完】