第3話 突然の変身!
謎の黒猿はこのイレギュラーな観戦者にターゲットを変えた。ものすごい勢いで迫ってきて高くジャンプすると、その爪を彼女に向かって振り下ろす。1秒にも満たない時間での攻撃に、鈴奈は全く反応が出来なかった。
「キャッ……」
大ダメージを覚悟した彼女は、けれど全くの無傷のまま。閉じていたまぶたを上げると、そこには身体を深く
「どうして?」
「良かった、無事で。早く逃げて!」
「逃げない! 頭来た!」
「え?」
大好きな猫をボロボロにされた事で、鈴奈は怒りが頂点に達していた。その気持ちの高ぶりが彼女の身体に変化を起こす。まばゆい光が全身を包みこんだかと思うと、その光が特別な衣装に変わっていく。その光のまぶしさに、黒オーラ猿は目を腕でガードした状態で動けなくなっていた。
光が完全に収まると、赤いヒラヒラの可愛い衣装に身を包んだ少女の姿が現れる。それは鈴奈が変身したものだった。
「え?」
「あなたは……やっぱりそうのね」
「どう言う?」
「キケケケケーッ!」
話の途中で黒猿が襲いかかってくる。さっきは全く目が追いつかなかったこの攻撃も、変身後の彼女にはしっかりと見えていた。何なら、スローモーションにも感じるくらいに。
動きが分かれば対処も簡単。鈴奈は軽く振りかぶると、敵に向かってカウンターで拳をぶち当てる。
「まだ話の途中だよッ!」
「キケケェェ――ッ!」
彼女のワンパンで、猿は獣の雄叫びを上げながらまるでギャグ漫画のように空の彼方に吹っ飛んでいく。こうして、鈴奈に迫ったピンチはあっけなく脱したのだった。
自身に降り掛かった火の粉を振り払った後、彼女は改めて自分の変わってしまった姿に驚く。
「何これ?!」
「それは、あなたが望んだ姿」
「ちょ、猫ちゃん説明してよ!」
「そうね……。あたしにはその責任があるわ」
そうして、白黒ハチワレ猫はペロペロと体を舐めて傷を癒やしてから説明を開始する。不思議な事に、ひと舐めする事に傷が消えていた。それは、この猫が猫の姿の別の存在である事を意味している。やがて、全身にあった無数の傷はいつの間にか目立たなくなっていた。完治したかどうかは分からないけれど。
落ち着いたところで、彼女は自身をラアサと名乗った。年齢は3歳で、さっきのような化け物を追い払うためにこの街に来たらしい。
「でも驚いたわ。あなた、私の亜空間結界に入り込めるのね」
「え?」
「アレと戦う時、亜空間領域を広げるの。それで被害が出ないって訳」
つまり、ラアサが都市伝説の化け物と戦う時は、周囲の空間ごと別空間にしてしまうと言う事のようだ。その話しぶりから言って、普通の人間はこの空間に立ち入る事は出来ないのだろう。
ここで鈴奈は思わず周囲を確認する。バトルが終わったからなのか、既に元の景色に戻っていた。ひとまず落ち着いたところで、彼女は思いついた疑問をぶつける。
「で、何で私は変身しちゃったの?」
「あたしは素養のある人を望みの姿にする能力があるの。今まで何人かそうしてきたわ」
「つまり、私は選ばれたって事ね? どうやったら戻れるの?」
「戻ろうと思えば。その姿はあなたの意思の具現化だから」
ラアサの説明を聞き終わった後、いつの間にか鈴奈の服は制服に戻っていた。彼女は元に戻った事を自覚すると、思わず自分の両手に視線を落とす。
「さっき襲ってきたヤツむっちゃ弱かったけど、それってつまり変身した事で私が強くなったって事?」
「それがあなたの望みだったのね。勿論、人によって得る力はバラバラよ。武器を手にする人が多いけれど」
「アレってさ、魔法って事でいいんだよね」
「あなたがそう思いたいなら」
ラアサの回答に若干のモヤモヤを感じながら、鈴奈はこの説明に一応納得する。自身の力についての疑問が解消したところで、彼女はこの一連の出来事に対する核心に触れた。
「でさ、結局あの生き物って何なん? てか、ラアサは何者なの?」
「私が追っ払ってるものを一言で言うと『ケガレ』ね。ザックリとした説明をすると不成仏霊ってところ。普通の方法ではダメージを与える事は出来ないの。あたしはケガレを倒す力を持つ精霊。猫の姿なのは、この世界に馴染むための変装みたいなものね」
「ふ、ふぅ~ん」
いきなりの情報の洪水に、鈴奈は頭がパンクしそうになる。その後の説明によると、ラアサは大魔女の使い魔であり、その大魔女がこの街を救おうとラアサを派遣したのだそうだ。
「話は大体分かったよ。で、私はこれからどうしたらいい? どうして欲しい?」
「じゃあ、一緒にケガレを倒してくれる?」
「そうなるよね。空き時間で良ければ」
「やたっ! これからよろしくね!」
願いを聞き入れてくれた事で、ラアサはその場でピョンピョン飛び上がって喜びを表現する。正体は精霊でも見た目がまるっきり猫なのもあって、猫好きな鈴奈はそれをニコニコと満面の笑みで眺めていた。
ラアサは今まで野良生活をしていたと言う事で、鈴奈は彼女を自分の家に招待する。
「もし良かったらさ、ウチの
「え? いいの?」
「勿論! 当然だよ!」
「じゃあ、お世話になります」
こうして交渉は成立。晴れて白黒ハチワレ猫の精霊ラアサは寺内家の家族になる。鈴奈は彼女を抱き上げると、自宅に向かって歩き出した。猫を抱いて歩くのが夢のひとつだった鈴奈は、超ご機嫌で残りの帰路を楽しむ。
その道中でまだ大事な事を話していない事に気付いた彼女は、大人しく抱かれている胸の上の存在に視線を落とした。
「私は寺内鈴奈。ラアサ、よろしくね!」
「こちらこそよろしくね、鈴奈」
成り行きで魔法少女になった鈴奈。この先、彼女にどんな未来が待ち受けているだろう。最初に現れた敵が雑魚だっただけで、次回以降も楽勝かどうかも分からない。
そもそも、ラアサと言う存在自体がまだ謎のままだ。彼女の言葉を鵜呑みにしていいのだろうか。もしそこに何かしらの意図が隠されていたとしたら――。
そう言う不安な部分を丸ごとスルーして、自宅の玄関前まで辿り着いた鈴奈は、猫と一緒に暮らせる幸せだけを噛み締めていた。
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