第2話 都市伝説の正体
沈黙がその場を支配して、先に動いたのは鈴奈の方だった。
「もしかして、君が噂の都市伝説の?」
「え? あたしが噂に? どんな?」
「えっと、最近街に変な生き物が現れるって……」
「失礼ね! そんなんじゃないわ。むしろ変なのってのは……」
猫が喋っている途中で、急に何かが空から落ちてきた。全身に黒いオーラを纏った体長1メートルくらいの小型の謎の生き物だ。霊感のないはずの鈴奈は、何故その生き物にまとわりつくオーラが見えたのか理解が出来ない。自分の目が映したものが信じられないため、彼女の身体は石のように固まる。
この突然のアクシデントに場の空気は一変した。立て続けに信じられない事が起こったため、この事態を上手く飲み込めなかった鈴奈は時間差でパニックになる。
「うわーっ!」
「だから逃げてって言ったでしょ!」
「うわーっ!」
今度こそ猫の忠告を素直に聞いた鈴奈は、その場から一目散に逃げ出した。一度も振り返る事なく500メートルほど走ったところで、彼女の足はピタリと止まる。
状況的に言って派手なバトルが始まっていそうなのに、それらしい音が全く聞こえて来ないと言う事に違和感を覚えたのだ。
「なんか静かだな……」
立ち止まった鈴奈はすぐにさっきの場所に小走りで戻る。すると、そこには黒いオーラの生き物も、喋る白黒ハチワレ猫の姿も見当たらなかった。
「なんで?」
まるで狐に化かされたようなこの現象に、鈴奈は改めて美咲の話していた都市伝説を思い出す。何か不思議な出来事が起こったものの、気がつくとそれらの痕跡は綺麗さっぱり消えていたと言うその顛末を――。
「これがあの都市伝説の正体かぁ……」
鈴奈はこの出来事を明日美咲に話そうと、しっかりと記憶のメモ帳に記録する。彼女が遭遇した不思議な出来事は、この日は二度と再現される事なく過ぎていった。
翌日、昼休みに鈴奈は昨日の出来事を話す。身振り手振りを加えて多少誇張しながらも、起こった出来事自体は包み隠さずに全て吐き出した。
この話を黙って最後まで聞いていた美咲は目を白黒させる。
「嘘? 鈴奈も見たん? マジで?」
「マジマジ。アレって何なん?」
「うちも見たいなー。どうやったら見れるんかなぁ?」
「分かんない。運じゃね?」
正直、鈴奈自身何故自分があの光景に出くわしたのか、そこに何かしらの条件があったのかさっぱり思い当たるところがなかった。だからこそ、偶然とか、運とかと言う言葉しか出てこない。
と言う訳で、もう同じ光景に出くわす事はないだろうと言う結論に達する。それもあって、軽いテンションで話のネタにしていたのだ。
「だからさ、美咲もいつか見れるよ」
「そっか。頑張る!」
「何を頑張るん?」
「常に周りを見渡して、まずは野良猫を探すよ!」
その結論を聞いて2人は笑い合う。それが落ち着いたところで、美咲は「野良猫には一度も遭遇した事はないけどね」と続けた。このオチにまた2人は笑い合う。
その後はまた他愛ない雑談を続け、平和な昼休みの時間は過ぎていくのだった。
放課後、2人は野良猫を探しながら下校する。けれど、2人共野良猫遭遇率はほぼ0%。ギリギリまで粘って探したものの、結局最後まで見つけられずに終わった。
お互いの家に続く分かれ道に差し掛かったところで、美咲は小さくガッツポーズをする。
「ま、今日は初日だし」
「また明日も頑張ろー! またね!」
「また明日!」
笑顔で手を振って友達と別れた鈴奈は、一路自宅へと足を進め始めた。今日起こった出来事を思い返しながらぼうっと通いなれた道を進んでいると、またしても謎の感覚が彼女を導く。
好きな料理の匂いが漂ってきた時に自動的に鼻がその発生源を辿るように、彼女はほぼ無意識でその感覚が強く感じられた方向に顔を向ける。
「あっちから?」
方角が分かった頃には、既に彼女は駆け出していた。何故そうするのか自分でも分からないままに。ただ、向かった先にまたあの猫がいると言う確信を、何の根拠もなく信じていた。
「待ってて、猫ちゃん!」
全力で走って辿り着いたのは、最近更地になったばかりの空き地。そこには、確かに昨日見た光景が再現されていた。黒いオーラを纏った謎の生き物と、それに向かい合う全身の毛を逆立たせている白黒ハチワレ猫の姿。
昨日ぶりの再会に、鈴奈は最高にハイテンションになった。
「いた!」
思わず大声を発した事を彼女はすぐに後悔する。驚かせてまた「逃げて!」と急かされてしまうと思ったからだ。けれど、今回はそうはならなかった。向かい合う2体の生き物が、それどころじゃない緊張感を生み出していたからだろう。
後悔もあってすぐに冷静になった鈴奈は、状況を把握しようとずっと様子をうかがう。ゴクリと飲み込む息の音すら聞こえそうなほどの静寂が辺りを包み込んでいた。
パッと見で分かるのは、この2体が臨戦状態にあると言う事だ。方や黒いオーラを纏った正体不明の生物。片やどこにでもいそうな白黒ハチワレ猫。どう考えても猫の方が世界の平和を守っているヒーロー側だろう。鈴奈に逃げてと警告したのも猫の方だったし。
それもあって、彼女は猫の応援をしていた。勿論声に出さずに。
2体のにらみ合いはしばらく続いたものの、先に動いたのは謎生物の方だった。不意を突かれたのか、勢い良く殴りかかる謎生物の攻撃を避けきれず、猫は軽く吹っ飛ぶ。
飛ばされながらバランスを取って着地はしたものの、その体には傷跡と血が流れていた。白黒の身体に流れる赤い血が何とも生々しい。
「キケケケケ!」
謎生物は聞いた事もない鳴き声を発して手応えを感じている。その様子は、まるでドキュメンタリーで見た事がある野生の猿のようだった。
猫もまた果敢に反撃を試みるものの、黒オーラ猿は軽々と避けきってしまう。猫も素早いけれど、猿の方が更に素早かったのだ。停止状態だとその姿も視認出来るものの、一度動き始めると鈴奈からは黒い煙にしか見えない。
「猫ちゃん、勝てないよ! 早く逃げて!」
ずっと黙って見守るはずだったのに思わず声を出したのは、猫が一方的に傷つけられているのを見ていられなくなったからだ。
大声で叫んだのもあって、流石にバトっていた2体も鈴奈の存在に気付く。
「何でそこにいるの? 早く逃げて!」
「キケケケケ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます