魔法少女ご近所ガーディアン
にゃべ♪
とある地方都市の魔法少女
突然の非日常
第1話 のどかな街の都市伝説
海沿いに面した人口15万人の地方都市、影守市。のどかな田舎の街に今日も朝がやってくる。夜の闇を白く染めていく大いなる光の登場に小鳥達が祝福の歌を歌う頃、この街に住む少女はベッドの上ですやすやと寝息を立てていた。
天空の星々を讃えていた空はやがて太陽を出迎え、その陽光を空いっぱいに示し始める。風が新しい一日後の始まりを伝え、落ち着いた住宅街も目覚め始めた。少女はまだ眠っている。
空の色が完全に夜と決別し、太陽がすっかり姿を表して目覚ましとスマホのアラームが同時に鳴り出した。それはこの部屋のいつもの光景。賑やかな音が部屋の中を満たしたところで、まぶたを閉じたままの少女が音の発生源を器用に止めていく。
起こすための音はその役目を果たせずに、室内にまた静寂が戻っていった。
「起きなさいっ!」
母親が起こしにきたのはその30分後。その第一声で少女は体が反応したものの、すぐにまた動きを止める。その様子を確認した偉大なこの家の責任者は迷いなく歩みを進めると、勢いよく掛け布団を引っ剥がした。
「もう毎回毎回! 鈴奈、朝だよ! 遅刻するよ!」
「後ごぉふぅ~ん……」
「その5分は20分前に過ぎてんよ! 朝ご飯抜きでいい?」
「え? それは駄目!」
朝ご飯と言うワードを耳に入れた途端、少女、
それが毎日変わる事のない鈴奈の朝のルーティーン。
「行ってきまー!」
「気をつけんだよ」
彼女が通うのは地元の公立中学校。幼い頃からの知り合いがエスカレートで教室に集まっている。2つの地域の小学校がこの中学に通うので、半分は中学に入ってからの知り合いになるのだけれど。
鈴奈が入った教室は2年2組。そう、彼女は14歳の中学2年生。教室に入ったところで彼女の友人が近付いてきた。
「すーずな、おはよ。今日もギリやん」
「そう?」
「そうだよ。ほら」
彼女が椅子に座ったところでチャイムが鳴る。話しかけてきた友人もすぐに自分の席に戻っていった。
「じゃあ、また休み時間に」
「りょっ!」
そうして授業が始まり、ダラダラと時間が過ぎていく。勉強があまり好きではない鈴奈は先生の話もほぼほぼ右から左で、ただ黒板に書かれている文字をノートに書き写す作業を淡々と続けるのみ。頭の中は今日の給食とか放課後の予定の事ばかりだった。
やがてそんな授業も終わり、休み時間になって友達が彼女の席にやってくる。鈴奈より背が高くてちょっと大人びているクラスメイトで、名前は
「よっ」
「何か面白い話ない?」
「あ、そうだ。知ってる? 最近街に変な生き物が現れてるんだって」
「え、何それ怖い」
美咲の話によると、最近街に見た事もない生き物が現れるようになったのだとか。見た目は動物園とかで見る野生動物に近いものの、発光していたり、半透明だったりするらしい。大きさも結構大きいと言う目撃情報が多いのだとか。
「でね、気がつくといなくなってるんだって」
「何それ怖い」
「だから鈴奈も気を付けなよ」
「気の付けようないヤツじゃん」
そこで2人は顔を見合わせて大笑い。被害的なものが発生したと言う話はないので、地元で発生した最新の都市伝説と言う事で決着はついた。
2人が笑い終わる頃にもう1人の友達もやってきて、昨日見たテレビの話だとか、最近読んだ漫画の話なんかで盛り上がる。
楽しい時間はあっと言う間に過ぎて放課後。いつもは美咲と2人で仲良く帰っているものの、予定が重なった事で今日は鈴奈1人で帰っていた。
「たまには1人で帰るのもいいね。朝もそうだし」
彼女が寝坊するようになる前は、朝も2人で仲良く登校していた。鈴奈が段々時間にルーズになっていった事で、美咲に愛想を尽かされたのが中学2年生の6月の事。それはからソロ登校の日々を過ごしていた。
1人で帰路についてた彼女は、休み時間に聞いた話を唐突に思い出す。そこで立ち止まると、キョロキョロと周りを見渡し始めた。
「もしかして、ここでも謎の生き物に出会ったりするのかな?」
まるでこの世のものではないような生き物が突然現れると言う話は、当然ながらホラーではあるものの、好奇心を刺激する魅惑的なもの。鈴奈は会えるものなら会ってみたいと目を輝かす。
しかし、普段は野良猫とすら遭遇しない彼女の前に、そんな都合よく噂の生物が現れる訳もなく――。
「ま、そんなもんか」
そうやって探すのをあきらめて立ち上がり、一歩を踏み出したその時! 鈴奈の直感が敏感に反応する。その違和感が示す方向に顔を向けると、植え込みの中がガサガサと動いているのを発見。
このタイミングと聞いていた都市伝説がリンクして、彼女の想像力が得体の知れないモンスターを想起させた。その時の感情に高まりで思わず大声が出る。
「うわーっ!」
しかし、大山鳴動して鼠一匹。現れたのは白黒ハチワレの猫。片耳の先の欠けた桜耳ではないので、地域猫ではないようだ。
見慣れた猫の登場に、鈴奈はガクリと肩を落とす。
「あー、もう。脅かさんといてよ」
相手が猫だと分かった瞬間、彼女はしゃがんで手招きを始める。猫なで声も同時サービスだ。
「猫ちゃーん、おいで~」
鈴奈は猫好きなので、猫を見かける度にこの行為を試している。現在までの成功率は脅威の0%。それでも彼女はあきらめず、猫と仲良くなろうと頑張るのだ。今後一生この行為が報われなかったとしても。
今回もまた、ハチワレ猫は鈴奈の顔を確認した後、すぐに別の方向に顔を向けた。
「またダメかぁ~」
「早く逃げて!」
「え?」
「え?」
突然猫が喋ったものだから鈴奈は驚く。猫側も彼女の反応に驚いていた。そのリアクションから、猫も自分の猫語が人間に通じた事にビックリしたらしい。
この瞬間、鈴奈と猫はお互いに見つめ合い、動きがピタリと止まる。
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