魔法少女な日々
第4話 お出迎えの儀式
鈴奈は自宅の玄関前で深呼吸をして、玄関ドアのハンドルに手を伸ばす。そうして勢いよくドアを開けた。その先に続くのは見慣れた自宅の姿。母親は視界の中にはいない。
鈴奈はホッと胸を撫で下ろすと、帰宅報告をする。
「ただいま~」
「お帰り~」
声が聞こえてきた距離から考えて、母親はリビングに居るのだろう。テレビを見ているのか、読書をしているのか、スマホを操作しているのか、声だけでは分からない。とにかくまずは飼育の許可を取らねばと、彼女は母親のいる場所までラアサを抱いたまま歩いていった。
リビングに着くと、母親はファッション雑誌を開いて真剣に眺めている。娘が近付いたのにもすぐに気付かないほどだ。
「おかーさん、猫飼っていいよね?」
「は? て、何その猫! どしたん?」
「飼う事にしたから」
「ちょ、待って。あかんて。準備とか何もしてないでしょ。まずは検査!」
鈴奈の突然の報告に母親は慌てまくる。そうして立ち上がると、外出の準備をし始めた。いきなりアクティブに動き出した母親を、鈴奈はあっけにとられたように傍観している。確かに動物を飼うとなると、健康状態のチェックは最優先事項だろう。
けれど、ラアサは猫のように見える精霊。動物病院で健康診断をしたら本物の猫でない事がバレて、更にややこしい事になりそうだ。最悪飼えない世界線も有り得るだろう。
「お母さん、この子は健康だから!」
「そのお墨付きをお医者さんから貰うんでしょう。素人判断は危険よ!」
「えっと、けど……」
「文句言わない。猫ちゃんのためなんだから」
結局押し切られ、2人と1匹は車に乗って動物病院へ。その道中で、助手席に座った鈴奈は抱きかかえられたままのラアサに耳打ちする。
「お医者さんに診てもらっても大丈夫?」
「あたしの身体は猫そのものだから平気よ」
ラアサによれば、彼女の身体は見た目も骨格も内蔵なんかも本物の猫とまるっきり同じで、病院の検査でも精霊だとバレると言う事はないのだそうだ。
あんまり自信満々だったのでその理由を聞くと、過去にも病院で検査を受けた事があるらしい。
「ちなみに注射も平気だから。それと、本物の猫じゃないからノミとかもいないから安心して」
「そっか、良かったあ」
その後、検査をして健康な猫である事が証明され、帰り道にペットショップに向かった。猫の飼育に必要なグッズを買い揃えるためだ。
母親は結構優柔不断なため、店に着いて車を降りたところで鈴奈は一計を案じる。
「お母さん、グッズは全部店員さんに選んでもらおうよ」
「う~ん、でも自分で選ぶよ。私がお金を出すんだし。ただ、参考に話は聞くかな」
「え~っ」
娘の不満の声をスルーして、母親はペットショップに入っていく。鈴奈の心配した通り、全てのグッズを買い揃えられたのは入店して2時間ほど過ぎた後だった。
あまりに時間がかかったため、鈴奈は頬を膨らませる。
「もう真っ暗じゃん」
「何よ。いきなり鈴奈が猫を連れ帰ったのが原因でしょ。遅くなったし夕食は外食……は無理か、猫がいるし」
「だよね。早く帰ろ」
こうして2人と1匹は寄り道せずに自宅に戻る。もう夕飯時なのもあって、帰宅してすぐに母親は食事の準備に取り掛かった。鈴奈は買ってきたグッズを自室に運んでいく。それぞれの準備が終わったところで、そのまま夕食になった。
人間の食事はスーパーのお惣菜とご飯と即席の味噌汁。ラアサの食事はカリカリフード。全員が同じ部屋での食事になった。
「「いただきます」」
「ちゃんと世話出来る?」
「当然。それにラアサは賢いから、特に躾る必要もないと思う」
「やっぱりその名前変えない? もっと可愛いのがいいよ。大福とか、おはぎとかさあ」
母親は猫を和菓子系の名前にしたいようだ。その理由は可愛いから。鈴奈も、もし自分で決められるなら可愛い名前がいいと思っている。
けれど、ラアサが自分でそう名乗ったのだから、変えてはいけないと強く決意していた。
「ラアサはラアサだよ。譲れないかんね」
「分かった分かった。鈴奈が言うならそれでいいよ」
「ラアサ、ご飯終わったら一緒に部屋に行こうね~」
「え~。お母さんにも触らせてよ~。モフモフしたい~」
母親が分かりやすくぶりっ子をしたので、鈴奈は顔を青くしながらドン引き。ただし、母親の機嫌を損ねると飼えなくなる事を考え、仕方なく妥協の道を選ぶ。
「じゃあ、お風呂入るまでね。そこからは私と過ごすんだから」
「了解!」
こうして、バタバタした一日はようやく平穏を取り戻した。夕食後、母親はラアサをモフモフしまくり、定番のおしりトントンなんかをして満面の笑みを浮かべる。ラアサもまた本物の猫のようなリアクションをして、この家の主の期待に答えていた。
そうやって楽しんでいる所に、仕事を終えた父親が帰ってくる。
「ただいま~って、おおい! どうしたその猫」
「鈴奈が連れて帰ってきたの。ラアサって言うのよ」
「へぇ、可愛いなあ。ラアサ、ウチの一員になってくれて有難うな」
父親もひと目でラアサを気に入り、これで家族への紹介も一通り終わった。風呂上がりにその様子を目にした鈴奈は、改めてラアサが家族全員に認められた事に胸を撫で下ろす。
「良かった」
「お、鈴奈。ラアサとどこで出会ったんだ?」
「あー、ええとね……」
鈴奈は父親にラアサと出会った時の事をケガレの話を抜いて説明。偶然出会って懐かれたと言う話をでっち上げた。それを父親は何ひとつ疑う事なくニコニコ笑顔で受け入れる。
「そっかぁ~。鈴奈は猫に好かれていいなあ」
「えへへ」
こうしてお披露目も無事終わり、モフモフしたがっていた父親からラアサを引き剥がして抱きかかえると、鈴奈は自室に戻っていった。
自室に入った彼女は、ベッドに座り込むと改めてラアサに向き合った。そうして、ペロペロと顔を洗い始めた白黒ハチワレ猫をじいっと見つめる。
「後さ、聞きそびれてた事を聞いていい?」
「何かしら?」
「あのケガレって何で空から落ちてきたの? 空の上で何か起こってるの? ケガレの目的は?」
「あ~、それね」
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