第27話 #初めてのデート誤解

 翌朝。

 教室に入ると同時に、悠真がニヤつきながらスマホを掲げた。


「おい、真嶋。朝からトレンド入りおめでとう」

「……は?」

「ほら見ろよ、“#放課後デート説”」


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StarChat #放課後デート説

【校内ウォッチ】

「沈黙の告白の次は、放課後デートらしい?」

コメント:

・「#進展早すぎ問題」

・「#誤解から恋は加速する」

・「#真嶋×七瀬尊い」

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「……どこ情報だよこれ」

「いや、たぶん昨日の帰り道。お前ら並んで歩いてただろ?」

「それだけでデート扱い?」

「お前らの場合、存在自体がコンテンツだからな」


 そこへ、ひよりが登校してきた。

 いつも通りの微笑み。だけど、俺の心臓は全然いつも通りじゃない。


「おはようございます、蒼汰くん」

「あ、あぁ……おはよう」

「“#放課後デート説”、見ました?」

「見た。なんか、もう慣れた」

「でも、面白いですね」

「いや、どこが」

「だって、“誤解の確認”できますよ」

「確認?」

「本当にデートしたら、誤解じゃなくなります」

「理屈のベクトルどこ行った」

「というわけで、今週末、空いてます」

「おい、待て。今“というわけで”って言ったよな?」

「言いました」

「論理飛び越えたな!?」

「誤解の検証、大切ですから」


 ――こうして、“誤解”から始まる初デートが決まった。

 俺の恋愛人生、相変わらず事故みたいに進行している。


 日曜日の朝。

 スマホの通知が鳴りっぱなし。

 開くと――案の定だ。


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StarChat #初めてのデート誤解

【校内ウォッチ】

「真嶋&七瀬、駅前で目撃情報!?」

コメント:

・「#誤解の再現性高すぎ」

・「#沈黙の次はデート」

・「#ひよりちゃんワンピ尊い」

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「……まだ家出てねぇんだけど」


 待ち合わせ場所は、駅前の噴水広場。

 10分前に着いたのに、すでに周りの空気がざわついている。

 まるで“観察対象”だ。


「蒼汰くん」

 声に振り返ると、ひよりがそこに立っていた。

 淡いベージュのワンピース、肩にかけた小さなバッグ。

 春の風がふわりと髪を揺らす。


「……似合ってる」

「ありがとうございます。

 服装、大丈夫ですか?」

「いや、完璧。むしろまぶしい」

「それ、褒め言葉ですよね?」

「……たぶん」


 ひよりが少し照れて笑った。

 もうそれだけで、今日が“誤解でも本物でも”最高だと思えた。


 最初の目的地はショッピングモール。

 人混みを避けながら歩くけど、

 どうしても距離が近くなる。


「悠真くんに“人が多いとこ行け”って言われたんですよね?」

「そう。誤解されにくいって」

「でも、誤解されてますね」

「SNSって生き物なんだよ……」

「でも、悪い気はしません」


 ひよりが小物屋で立ち止まり、

 小さな星のネックレスを手に取った。

「これ、かわいいですね」

「似合いそう」

「“もらったときの練習”しておきます」

「誰からもらう想定だよ」

「“もしも”の話です」

「“もしも”にしては破壊力強いな」


 昼食はフードコート。

 トレーを並べた途端、背後から聞こえる。


「ねぇ、やっぱ真嶋と七瀬じゃね?」

「マジだ! タグ通り!」


「……目撃証言リアルタイム更新かよ」

「誤解の拡散速度、光ですね」

「笑いごとじゃねぇ」

「でも、光って速いし綺麗です」

「……お前、ポジティブの使い方間違ってる」


 笑いながら食べる焼きそば。

 普通の日常が、なんか特別に見えた。


 夕方。

 帰りのホーム。

 電車が来る直前、ひよりが静かに言った。


「今日は楽しかったです」

「俺も」

「でも、また誤解されますね」

「もう慣れた」

「ふふ。

 じゃあ、次は“正解”って言われるデートにしましょう」


 ひよりが少し顔を寄せて、

 小さな声で続けた。


「蒼汰くん。

 “誤解のデート”でも、私は嬉しかったです」


 ――沈黙よりも甘い声だった。


 夜。

 StarChatを開くと、先生がもう締めていた。


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StarChat #初めてのデート誤解

【桜井先生@担任】

「誤解を恐れずに出かける勇気、それも青春の一部である。」

コメント:

・「#先生まとめ力高い」

・「#青春=誤解の連続」

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「……先生、いつ寝てるんだ」

「きっと青春の観察で忙しいんです」ひよりが笑う。

「俺ら、実験体みたいだな」

「結果が“恋”なら、いい実験ですよ」


 電車の窓に映るひよりの笑顔を見ながら、

 俺は思う。


 ――この誤解、もう誰にも訂正したくない。

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