チャーコ(猫)を溺愛している八我くんは、三池さん(美少女)からのアプローチにもなびかない。でもある日、三池さんが猫のコスプレをしてきて……!?

間咲正樹

チャーコ(猫)を溺愛している八我くんは、三池さん(美少女)からのアプローチにもなびかない。でもある日、三池さんが猫のコスプレをしてきて……!?

「あの、八我やがくん、こ、この後二人で、カラオケでも行かない?」

「え?」


 とある放課後。

 今日も三池みいけさんから遊びに誘われた。

 だが、大変心苦しいが僕の返事は決まっている。


「ごめんね三池さん。今日も僕、チャーコに逢いに行かなきゃいけないからさ」

「そ、そっか……。じゃあ、また明日ね」

「うん、また明日」


 綺麗な眉を八の字にしながら手を振ってくる三池さんに後ろ髪を引かれつつも、教室を後にする僕。




 僕の自惚れでなければ、多分三池さんは僕のことが好きなんだろうな。

 三池さんみたいなラノベの表紙に載ってそうな美少女が、何故僕みたいな凡人を好きなのかは甚だ疑問だが。

 あれかな?

 前に三池さんが自転車の鍵を失くした時に、一緒に探してあげたからかな?

 だが、もしもそれが理由なんだとしたら、いくら何でもチョロインすぎないだろうか?

 昨今のラノベ業界が空前のチョロインブームとはいえ。

 ……まあ、いずれにせよ三池さんには悪いけど、僕にはもう心に決めたヒトがいるんだ。

 僕は今日もその愛しいヒトに逢うため、いつもの空き地を訪れた。


「チャーコ? どこだ? 僕だぞ、チャーコ」

「にゃー」

「ああッ!! チャーコッ!!」


 土管の陰から、ひょっこりチャーコが顔を覗かせた。

 あああああああ、チャーコチャーコチャーコチャーコオオオオオオ!!!!


「にゃぁーん」

「ぬほおおおおお!!! チャーコオオオオオオオ!!!!」


 そして僕の足にスリスリと頬を擦りつけてくるチャーコ。

 ぎゃああああああ、萌ええええええええ!!!!!

 やっぱり僕には、チャーコしかいないよおおおおお!!!!!


「ほらチャーコ、ご飯だぞぉ」

「にゃーん」


 持参した二つの餌入れ(もちろん消毒済)に、それぞれ猫缶の中身と水を入れる。

 するとチャーコは、あむあむと美味しそうに餌を食べ始めた。

 はぁぁぁぁぁ、この幸せそうなチャーコの表情……!

 この顔を見てるだけで、僕はお腹いっぱいだよッ!


「にゃっ、にゃっ」


 続いてぺちゃぺちゃと水を飲むチャーコ。

 だが、水を飲むのが下手なチャーコは、いつも顔を水で濡らしてしまう。

 はああああああ、そんなところも可愛いよおおおおおおおお!!!!


「にゃおん」


 餌を食べ終えたチャーコは、満足そうに舌をぺろりとさせた。

 うんうん、僕の心も満たされたよ!

 ――さて、次は、と。

 僕はおもむろにレジャーシートを地面に敷くと、その上で胡坐をかいた。


「さあ、おいでチャーコ」

「にゃーん」


 僕の足の上に、チャーコがちょこんと乗ってくる。

 そしてそのぷにぷにの肉球で、僕の足をふみふみしてきた。

 あががががががががが……!!

 こ、これ以上僕を萌え死にさせないでくれえええええ!!!!


「にゃ」


 チャーコは喉をごろごろと鳴らしながら、その場に香箱座りする。

 はああああああああ、チャーコおおおおおおおおおお!!!!!


「よしよーし、チャーコは本当に可愛いなぁ」

「にゃー」


 僕はチャーコのもふもふの背中を、優しくそっと撫でる。

 芸術的とも言える美しい茶トラ柄は、いくら眺めていても飽きない。

 そうしていると、チャーコはすやすやと寝息を立て始めた。

 あああああ、寝ているチャーコもギャン萌えだよおおおおおお!!!!!

 むしろチャーコには一瞬たりとも、可愛くない瞬間がないよおおおおお!!!!!




「じゃあなチャーコ。また明日来るからな」

「にゃぁー」


 それからたっぷり数時間、僕はチャーコとの逢瀬を堪能した。

 本当に楽しい時間はあっという間だ。

 僕は断腸の思いでチャーコに別れを告げ、空き地を後にした。

 ……はぁ、本当はチャーコをうちで飼えたらベストなんだけどなぁ。

 うちは母さんが猫アレルギーだからなぁ。


「……ん?」


 ふと後ろを振り返ると、一人の女性が空き地にこそっと入っていくのが見えた。

 今のは……三池さん?

 ……まさかな。




「あの、八我くん、きょ、今日は、一緒にクレープでも食べに行かないかな?」

「ああ、ごめんね三池さん。今日もチャーコに逢いに行かなきゃいけないからさ」

「そ、そうなんだ……。じゃあ、また明日ね」

「うん、また明日」


 今日も露骨にしょぼんとしている三池さんに申し訳なく思いつつも、僕は早足で空き地へと向かった。




「チャーコォ? 僕だぞ、チャーコォ? …………あれ?」


 が、空き地でいくら呼び掛けても、一向にチャーコが現れない。

 こんなことは初めてだ。

 いままでは毎日欠かさず、この時間にはここで僕のことを待っていてくれたはずなのに……!

 まさかチャーコの身になにか――!!

 こ、こうしちゃいられないッ!

 一刻も早く捜索願を出さなきゃッ!!


「に、にゃーん」

「――!!」


 その時だった。

 土管の陰から、一人の女性がひょっこり現れた。

 その姿を見て、僕は頭が真っ白になった――。


「み、三池さん……!?!?」


 それは猫のコスプレをした三池さんだった。

 胸と腰と手足の先だけが茶トラ柄のもこもこで覆われており、それ以外の部分は肌が完全に露出している。

 そのうえ猫耳と尻尾まで完備するという徹底っぷり。

 えーーーー!?!?!?!?


「何してるの三池さんッッ!?!?」

「チャ、チャーコは三池じゃないのにゃ! チャーコはチャーコなのにゃ!」

「っ!!?」


 えっ!!?

 まさかのチャーコっていう設定なの???


「チャーコは実は、長いときを生きる猫又だったのにゃ。だからこうして、人間の姿にもなれるのにゃ」

「へ、へぇ」


 自称チャーコの三池さんは腰に手を当て、フンスとドヤ顔をキメた。

 どうしよう、こういう時どんな顔すればいいかわからない(笑えばいいと思うよ)。


「……でも、なんで三池さんと同じ顔なの?」

「そっ! それは昨日三池が、チャーコとここで遊んでくれたからにゃ。だからチャーコは三池をモデルにして、こうして人間の姿になったのにゃ!」

「ふ、ふぅ~ん??」


 なるほど、てことはやっぱり、昨日僕が空き地ここに入って行くのを見た女性は、三池さんだったんだな。

 大方こうやってチャーコのコスプレをするために、チャーコと遊んで研究したってところか?

 ……ここまでくると、若干の狂気すら感じる。


「チャーコが猫又だって、信じてくれたかにゃ?」

「え? あ、ああ、うん」


 いずれにせよ、流石にここはノッてあげたほうがいいかもしれない。

 こんな格好をするのは相当恥ずかしかっただろうに、ここでマジレスしたら大人気なさすぎることくらい、僕でもわかる。


「うん、信じるよ、チャーコ」

「ホントかにゃ! 嬉しいのにゃー、八我ー!」

「――っ!!?」


 三池さんは僕に思い切り抱きついてきた。

 ふおおおおおおおおおお!?!?

 何か柔らかいものが当たってるうううううう????


「ちょっ!!? 三池さん!! いくら何でもそれはマズいよッ!!」


 慌てて三池さんを引き剝がす僕。


「にゃー! だからチャーコは三池じゃないってさっきから言ってるのにゃ! にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ!」

「――!!」


 三池さんは両手で僕の胸の辺りをカリカリと引っ搔いてくる。

 お、おぉぅ……。


「そ、そうだったな。ごめんよチャーコ」

「にゃ! わかればいいのにゃ」

「……」


 あれ?

 何だろう……。

 何だか段々三池さんが本物のチャーコに見えてきたぞ?

 ……い、いやいやいやいや!

 何を言ってるんだ僕は!

 これはきっと三池さんの作戦なんだ!

 こうやって僕の気を引こうとしているんだ!

 何て恐ろしい手を使うんだ三池さん……!

 僕が心からチャーコを愛しているからって、そのチャーコになろうとするなんて……!

 僕の心は生涯チャーコだけのものなのに……!


「にゃー、じゃあ今度は、いつもみたいにレジャーシートを敷いてほしいのにゃ」

「え? レジャーシートを?」


 なんで?


「早くにゃ! 早くにゃ!」

「わ、わかったよ」


 言われるがまま、そそくさとレジャーシートを敷く僕。


「そこに胡坐をかくのにゃ」

「はぁ」


 唯々諾々と胡坐をかいた。

 すると――。


「にゃふー。やっぱここが一番落ち着くのにゃー」

「っ!!?」


 三池さんは僕の足の上に頭を乗せてきて、膝枕のような体勢になった。

 み、三池さああああああん!?!?


「あ、あのッ!!」

「くぴー。くぴー」

「ぬっ!?」


 そして瞬く間に寝息を立て始めた。

 三池さああああああああああああん!!!!!

 こんなところ誰かに見られたら、どうするつもりなんだよおおおおおお!!!!!


「み、三池さん……」

「にゃむぅ。にゃふにゃふにゃふ……」

「えぇ……」


 完全に熟睡してしまっている。

 あぁ……、こりゃ暫くはこのままか。


「にゃふふぅ。八我大好きにゃぁ」

「……」


 幸せそうな寝顔してやがる。

 こうして見ると、マジでチャーコみたいだな。

 ……可愛いな。

 あっ、いや!

 今のはあくまで、チャーコが可愛いって意味だよッ!




「ふにゃ~、よく寝たにゃぁ~」

「おはよう、チャーコ」


 目を覚ました三池さんが、猫みたいにピーンと身体を伸ばす。

 大分猫になりきってるな。

 三池さんはコスプレイヤーの才能あるよ。


「にゃあ、やっぱり八我の足はとっても寝心地がよかったのにゃあ。――にゃふん!」

「なっ!!?」


 またしても三池さんは、僕にガバリと抱きついてきた。

 いやだから三池さああああああん!!!!

 何かいろいろと柔らかいものが当たってるんですってばああああああ!!!!!


「にゃっ、にゃっ」

「――!!!」


 そして三池さんは、僕の頬をペロペロと舐めてきた。

 えーーーー!?!?!?!?


「み、三池さんッ!! 流石にそれはッ!!」

「や、八我くん――!!?」

「…………え」


 その時だった。

 が、後方から聞こえてきた。

 そんな、まさか――!!

 慌てて振り返ると、そこには――。


「八我くん……、なんでそんな格好の人と抱き合ってるの……。あ、あれ!? その人、私にそっくり???」

「――!!」


 そこには、頭に疑問符を65535個くらい浮かべながら震えていたのである。

 えーーーー!?!?!?!?

 じゃ、じゃあ、このチャーコのコスプレをした三池さんは……。


「にゃあ、だからずっと言ってたじゃにゃいかにゃ。チャーコはチャーコだにゃ」


 そう言うなり、彼女はぽふんと煙に包まれた。

 そして煙が晴れると、そこには――。


「にゃーん」

「「――!!!!」」


 いつものチャーコが愛らしく、ちょこんと佇んでいたのである。

 えーーーーーーーー!?!?!?!?!?!?!?!?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

チャーコ(猫)を溺愛している八我くんは、三池さん(美少女)からのアプローチにもなびかない。でもある日、三池さんが猫のコスプレをしてきて……!? 間咲正樹 @masaki69masaki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画