第3話

 おばあちゃんの家にいたとき、いきなり雨が降りだした。帰りの車の中で、繭子が

「雨が降ったから地面が濡れているね」と言う。私は、運転しないといけないことはわかっているが、通勤のとき以外、運転はしない。いつも妹や両親に任せていて、自分が運転した方がいいことはわかっているが、どうも、普段の練習した道以外を走るとてんぱって事故を起こしそうになる。それが怖い。普段の道でも怖いのに、慣れない道を走るとなおさらだ。

 おばあちゃん家は古いから、雨音がよく聞こえた。耳の遠いおばあちゃんは雨の音も聞こえていないようだった。雨が降ったとき、テレビを見ていて、朝ドラ女優の、私より何歳か若い女の子を見ていた。

 今日見た映画は主題歌がおそらくなかった。いまどき、主題歌はないものが多いのだろうか?制作費削減かもしれない、と思ったけど、全然見当違いかもしれない。

「あの女優、歌上手かったのかな?」

 私は繭子に尋ねる。繭子は、さぁ、と首を傾げた。

「さぁ。歌手かどうか知らないから」

「私、あのシーンが記憶に残ってる。若い頃の家でのシーンとか、あと、バスの中でとか」

 私は細かいシーンを繭子に説明する。見終わった今になって映像が頭に浮かぶ。妹はいきなり止まった前の車に合わせて、ブレーキを踏む。

「映画っていいよね。私、好きだなぁ。なんか自分の心が豊かになっていくようでさ。お姉ちゃんは、よく覚えているんだね。小さな頃から記憶力がいいって言われていたもんね」

「嫌なことも忘れられないんだけどさ。覚えてるのはどうでもいいことばっか」

 私が投げやりに言うと、繭子は笑う。今日も、仕事に未練みたいな、金曜にやり残したことを思い浮かべたりしている。

 見慣れた道を車は走る。休日しか通らない道だが、見知った道でも、混んでいると感じるのは、なぜだろう。もっと空いた道を走りたいな。田舎のそれも、道が整備された豊かな市道を想像する。それもそれで寂しい気がする。

 私は、今日見に行った映画のチケットを写真に撮る。こうしておかないと、日記にチケットを貼り付けておいても、文字がはげてしまって、読めなくなる。

 家に帰り、パソコンを開く。カクヨムを開くと、PVが2つついていた。過去の作品にも、PVがついている。だけど、六十万ぐらい星がついて、PVも百万ぐらいある人と比べると、雲泥の差がある。私は、相変わらず自分の小説に価値がないような気がする。

 妹が、ショッピングセンターで買ってきた物を片付けている。

「繭子って、いつ帰るの?」

 繭子は、炭酸水の箱を母に言われた場所へと移動させていて、聞いていない。私はもう一度聞く。

「月曜帰るよ。三連休中はいるつもり。お姉ちゃんは?なんか予定ないの?好きな人とデートでもしなよ」

 私はむっとする。「できたらしてるよ・・・」そういいながらも、今日何度目かの英人の顔を思い浮かべる。だけど、映画で見た若かりし頃のお父さん役の方が、かっこよさでいえば上だ、と思う。そういう位置づけなのだ。

「知ってるでしょ。私には親しい人なんて一人もいないの。繭子こそ、早くアパート帰って、気になる人にアピールでもしなよ」

「別に私のアパートにいるわけじゃないし。それに、ラインは知ってるけど、無視されがちだし」

 それでもアタックしてるのすごいじゃん、と私は口に出さずに思う。妹は、中学生の頃から同級生と高校を卒業するまで付き合っていた。私より恋愛経験値でいえば上だ。実は妹が兄と私と妹の三人の中で一番はじめに結婚するのではないかと私は踏んでいる。本当かどうかはわからないけど。

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