第4話 選択の時

 ポンズ(光月寛奈みつきかんな)は、定期的にカグラ(神楽坂奏多かぐらざかかなた)と会うようになった。

 放課後や休日、二人で楽器を持ち込み、市内の音楽スタジオで合わせを行う。狭いリハーサルルームに、ベースギターとエレキギターの音が響く。

 シー(真白詩音ましろしおん)の路上ライブで見せたあの「化学反応」を、なんとか再現したかった。

 練習の合間には、動画サイトやSNSを見て、シーのような力強いシンガーを探した。

 でも、なかなか見つからない。

 力強いシンガーを見つけても、県外だったり、東京の路上で名を馳せているような有名人ばかりだった。

「松山を拠点にしとって、しかも同年代でなんて、そうそうおらんよね……」

 ポンズはため息をついて、スマートフォンを置いた。

 シーのような存在は、そう簡単には見つからない。だからこそ、シーが欲しい。でも、シーはソロデビューの道を選ぼうとしている。

 *

 この日も、二人はスタジオで練習を重ねていた。

 シーのCDをスピーカーから流し、それに合わせて演奏する。ポンズはベースラインを弾き、カグラはリードギターを重ねる。

 技術的には問題なく合わせられている。二人とも演奏力はある。

 でも、何かが違う。

 あの時、シーと一緒に演奏した時に感じた、あの高揚感。観客と一体になった、あの空気感。それが、全く再現できない。

 ポンズのささやかなオリジナル曲も試してみた。カグラに自由にギターを乗せてもらう。

 カグラは素晴らしいフレーズを弾いてくれる。でも、やっぱり何かが足りない。

 あの時感じた「化学反応」は、起こらなかった。

 *

 演奏を終えて、二人は椅子に座り込んだ。

 カグラは自分のギターを抱えたまま、不安そうな顔をしていた。

「わたしのギター……つまらない、かな……?」

「そんなことないよ! うちの期待通り。カグラちゃんはすごい!」

 ポンズは即座に否定した。

 カグラの技術は本物だ。フレーズのセンスも抜群。褒めているのは本心だ。

「……でも」

 ポンズは真剣な表情になった。

 何が問題なのか、ずっと考えていた。なぜ、あの時の感覚が再現できないのか。

 そして、一つの答えにたどり着いた。

 *

「あれはシーが作った、ライブの世界観のせいやと思う」

 ポンズは分析してみせた。

「シーは歌い出すと、まるっきり空気を変えれるんや。あの子がマイクの前に立った瞬間、周りの空気が一変する。観客は引き込まれて、シーの作る世界の中に入っていく」

 カグラは頷いた。確かに、あの路上ライブで感じた空気感は、そういうものだった。

「うちらは、頭の中で対等に演奏できとったつもりやった。でも実際は、シーの作る雰囲気や世界観に、引きずり込まれとったんやと思う」

「……確かに」

 カグラは思い返した。あの時、自分は詩音の音楽に「引き寄せられた」と感じた。それは、対等な立場での共演というより、シーの世界観の中に入り込んでいったのかもしれない。

「ということは、それって……」

「そう」

 ポンズは言葉を継いだ。

「うちらがどんなに小手先のアレンジでシーの曲を飾り付けしても、うちらがあの子の世界観を変えたわけやないんよ」

 *

 二人はスタジオで、シーの楽曲を何度も繰り返し演奏してみた。

 ポンズはベースラインを変えてみる。もっとグルーヴ感のあるパターン。もっとメロディアスなライン。色々試す。

 カグラは様々なリードフレーズを試してみる。クリーントーンのアルペジオ。歪ませたパワーコード。泣きのソロ。

 技術的には申し分ない演奏ができている。でも、何かが足りない。

「うちがシーの演奏を聴いた時、カグラちゃんがうちらの演奏聴いた時、あの感覚はなんやったんやろう?」

 ポンズは首を傾げた。

「わたしが聴いた時……詩音さんの歌声と、ポンズちゃんのアレンジと、それから……」

 カグラは考え込んだ。

「それから?」

「観客の人たちの熱気。みんなでひとつの音楽を作ってる感じ。わたし一人で部屋で弾いてるのとは、全然違った」

 ポンズは頷いた。

 確かに、あの路上ライブでの一体感は、スタジオでは再現できない何かがあった。CDの音源を相手に演奏しても、そこには「生きた」音楽がない。

 *

「やっぱり、シーがおらんとダメなんかな……」

 ポンズは肩を落とした。

「うん……でも、詩音さんはソロでデビューするって言ってたんでしょ?」

 カグラの言葉に、二人は少し落ち込んだ。

 シーは自分たちとバンドを組むことを断った。ソロデビューの話があるから、と。

 あの時のシーの表情を、ポンズは覚えている。少し寂しそうで、でも決意を固めたような顔。

 でも、ポンズはすぐに顔を上げた。

「なんか諦めきれん!」

「え……?」

「シーはほんとにソロでデビューする気なんやろか? もう一回セッションやって、本音聞きたい!」

 ポンズの目には、強い光が宿っていた。

 カグラも小さく頷いた。真白詩音の音楽に魅せられたのは、自分も同じだ。できることなら、一緒に演奏してみたい。

 *

 ポンズはカグラの手を取った。

「負けてられんで!」

「負け……?」

「自分らの世界観をぶつけんと、シーはうちらには見向きもせんと思う!」

 ポンズは力強く言った。

「今までうちらは、シーの世界観に合わせようとしとった。シーの曲を飾り付けしようとしとった。でも、それじゃダメなんや」

「じゃあ、どうすれば……」

「うちらの音楽を、シーにぶつけるんや。うちらの世界観で、シーを引きずり込むくらいの気持ちで」

 カグラは目を丸くした。

「わたしたちの世界観で……?」

「そう。シーと対等に渡り合うには、シーに負けないくらいの音楽をぶつけんとダメなんや。小手先のアレンジやなくて、本気の音楽を」

 ポンズの言葉は熱かった。

「カグラちゃんのギター、うちのベースライン、それを全力でぶつけて、シーの心を動かすんや。そうやないと、シーには響かん」

 カグラは少し考えてから、小さく頷いた。

「わたし……本気の音楽、まだ誰にも見せたことない、かも」

「じゃあ、見せようや! シーに!」

 ポンズの笑顔に、カグラも思わず微笑んだ。

 *

 一方、シーは松山市内にある、少し高級そうなホテルへ、母親と一緒にやってきた。

 エントランスを抜けると、広々としたロビーが広がっていた。大理石の床、シャンデリア、革張りのソファ。普段の生活とはかけ離れた空間だ。

「こないな建物の中に入るん、初めてや」

 母親は少し緊張気味に言った。シーも同じ気持ちだった。

 ラウンジの方から声がした。

「真白さーん」

 シーをスカウトした芸能事務所の社員と、レコード会社の社員が待機していた。

 二人とも黒いスーツを着た、いかにも業界人という感じの男性だった。年齢は三十代後半か四十代前半といったところ。慣れた笑顔を浮かべている。

 *

 ソファに案内されて、シーと母親は向かい合うように座った。

「あ、これ、依頼されていたものです」

 シーは自分の手作りCDを差し出した。路上ライブで手売りしているのと同じものだ。

「はい、ありがとうございます」

 芸能事務所の男性がCDを受け取った。

「動画サイトやSNSに上がっているものをいくつか、確認させてもらいました。将来性のあるシンガーだと思います」

 男性はにこやかに言った。でも、その笑顔には営業的な計算が見え隠れしていた。何人もの若いアーティストを見てきた、そういう目だ。

「ありがとうございます」

 シーは少し緊張しながら答えた。

 *

「こちらでは、詩音さんをデビューまでプロデュースするにあたって、いくつかのプランがございます」

 レコード会社の男性が、分厚い資料を取り出した。

「まず、デビューまでのスケジュールですが、最短で半年、長くても一年以内にはシングルリリースを予定しています」

「え、そんなに早く?」

 シーは驚いた。半年から一年でデビュー。それは想像以上に早いスケジュールだった。

「はい。今の音楽業界は動きが早いので、タイミングを逃すと機会を失ってしまいます。詩音さんの年齢も考慮して、なるべく早くデビューさせたいと考えています」

 男性は続けた。

「楽曲に関しては、詩音さんのオリジナル楽曲をベースに、プロの作詞家・作曲家がブラッシュアップします。もちろん、詩音さんの個性は活かしながら、より多くの人に受け入れられるような形に仕上げていきます」

「うち……わたしの曲を、他の人が変えるということですか?」

 シーは言葉遣いを直しながら聞いた。

「そう考えていただかなくて結構です。詩音さんの原石を、より美しくカットするという感じですね。ダイヤモンドも、カットしなければ輝けませんから」

 シーは少し戸惑った。

 自分の曲が他人の手によって変えられるということに、漠然とした不安を感じた。自分の言葉、自分のメロディー。それが「ブラッシュアップ」という名目で、別のものになってしまうのではないか。

 *

「それから、ビジュアル面ですが」

 芸能事務所の男性が、写真やイメージ画像を見せてくれた。

 可愛らしい衣装。ふわふわとした髪型。アイドルのような笑顔。パステルカラーのギターまで用意されている。AIで作成したのだろうか、画像の人物の顔はシーのようだった。

 シーは思わず目を見開いた。

(これが、うち……?)

 イメージ画像の中の「自分」は、普段の自分とはかけ離れていた。ショートカットにメッシュを入れた、ストリートミュージシャンらしいスタイルではなく、ふんわりとした可愛らしいイメージ。

「詩音さんの可愛らしさを前面に出して、親しみやすいイメージと、詩音さんの迫力ある楽曲とのギャップで売り出したいと考えています」

 男性は説明を続けた。

「今、ギャップ萌えというのが流行っていましてね。見た目は可愛いのに歌うとカッコいい、というのが受けるんです」

「あの、うち……わたし、まだデビューすると……」

 シーが言いかけると、男性は優しく遮った。

「そうですよね。一応プランを聞いてもらってから決断されるので、全然構いませんよ」

 大人たちは優しい口調で、シーの意思を尊重してくれるような言い方だ。

 しかし、シーにはわかっていた。

 これから提示するプランを拒めば、彼らは別の人間を探すだろう。デビューしたいなら、いくつかを妥協して、このプランを飲むしかないのだ。

 *

「最後に、契約に関してですが」

 レコード会社の男性が、契約書の概要を説明し始めた。

「初回契約は三年間。この期間中の楽曲制作、ライブ活動、メディア出演などは全て事務所と弊社が連携して管理させていただきます。詩音さんには、決められたスケジュールに従って活動していただくことになります」

「自分で路上ライブとかは、できないということですか?」

 シーは聞いた。路上ライブは、自分の原点だ。それができなくなることは、想像もしていなかった。

「基本的には、事務所を通さない活動はご遠慮いただいています。ブランドイメージの管理が必要ですので」

 シーの心に、小さな警報が鳴った。

 自分の音楽活動が、全て他人にコントロールされてしまう。自分の意思で路上に立つこともできなくなる。

「ただし、デビューが成功すれば、相応の収入も見込めます。将来的には、詩音さんの希望も取り入れながら活動していけるでしょう」

 男性たちの説明は続いたが、シーの頭の中は混乱していた。

 プロになれるチャンス。でも、それは自分の音楽を諦めることと同じなのではないか。

 *

「本日はこの辺りで。ゆっくり考えて、お返事をいただければと思います」

「いつまでに答えればいいですか?」

「来週の金曜日までにお願いします。他にも検討している方がいらっしゃいますので」

 それは暗に、早く決めないと他の人に決まってしまうよ、という圧力だった。

 帰り際に、芸能事務所の男性が、今思い出したかのような口調で言った。

「そうだ。よかったらこれ、あの有名なプロデューサーさんが編曲した、詩音さんの楽曲のデモです。よく聴いて決断をされたらと思います」

 レコード会社の社員が差し出したCDを、シーは受け取った。

 自分の曲が、プロの手によってどう変わったのか。それを聴いて決めろということだ。

 *

 面談が終わり、ホテルから出て、母と二人で歩いた。

 夕暮れの松山市街を歩きながら、シーは複雑な気持ちでいっぱいだった。

「シー、シーの思うとおりでええけん。後悔することだけないようにしたらええんよ」

 母親が言った。

「でも、契約したらある程度、お金は入るんやろ」

「シー! そんなこと考えんといて!」

 母親は強い口調で言った。

「ごめん……」

 シーは謝った。でも、現実問題として家計のことは頭から離れない。

 父が亡くなってから、母は一人で家計を支えている。シーは高校に進学せず、音楽活動を続けている。でも、路上ライブでCDを売るくらいでは、たいした収入にはならない。

 プロデビューできれば、少しでも家計の助けになるかもしれない。

 でも、そのために自分の音楽を失ってしまったら、何のためにここまで続けてきたのかわからなくなる。

 *

 翌日、シーはいつものように、松山のアーケード街に現れた。

 路上ライブを開始する。

 しかし、今日のシーは明らかに様子が違っていた。

 いつものように力強いストロークで、ギターをかき鳴らす。力強い歌声で、歌詞を紡いでいく。観客を惹きつける表情の豊かさ。

 それは、いつもと同じように見える。

 でも、何かが欠けていた。

 *

 シーのSNSの告知を見てやってきたポンズとカグラが、離れた場所からシーを眺めていた。

 今日のシーのパフォーマンスから、自分たちがどう変わればいいかのヒントを得るために。

 ところが、二人ともシーの異変に気がついた。

「カグラちゃん、感じない?」

 ポンズは小声で聞いた。

「うん……スタジオでCDを相手に練習してる時と、同じに聞こえる……」

 カグラも同じことを感じていた。

 シーの歌声は確かに美しく、ギターの技術も申し分ない。でも、いつものような魂のこもった演奏ではなかった。

 まるで、心がここにないような、機械的な演奏に聞こえる。

 *

 観客たちも、いつもと何かが違うことを感じ取っているようだった。

 拍手はある。でも、いつものように熱狂的ではない。

「前はもっとすごかったことない?」

「毎日聴いとると慣れたんかな?」

 観客の後ろを歩く人が、そんな会話をしているのが聞こえてくる。

 シー自身も、いつもと違う自分を感じていた。

 歌いながら、頭の中ではレコード会社の男性たちの言葉が繰り返されている。

「プロの作詞家・作曲家がブラッシュアップします」

「より多くの人に受け入れられるような形に」

「ブランドイメージの管理が必要です」

 歌いながら、シーは考えてしまう。

 この曲も、プロの手によって「ブラッシュアップ」されるのだろうか。この歌詞も、もっと「受け入れられやすく」変えられてしまうのだろうか。

 そう考えると、今歌っている自分の楽曲が、急に色褪せて感じられた。

 まるで、もうすぐ失ってしまう大切なもののように。

 *

 シーのライブが終わった。

 いつものようにファンやシーの演奏に感激した人たちが拍手を送っている。

「シーちゃん! かわいい!」

「シーちゃん! サイコー!」

「シーちゃん! デビューはいつ?」

 固定ファンたちはいつものように声援を送っている。

 シーは最後の挨拶をした。

「ありがとうございました! わたし、しっかり自分の音楽でデビューするから、それまで応援お願いします!」

 その言葉を口にしながら、シーは自分でも驚いた。

「自分の音楽で」と言ったが、果たして本当にそれが可能なのだろうか。

 レコード会社のプランを受け入れたら、それは「自分の音楽」ではなくなってしまうかもしれない。でも、プランを断ったら、プロになるチャンスを失ってしまう。

 *

 その時、ポンズはカグラの手を握りしめた。

「カグラちゃん、うちらのできること、まだありそうやねえ」

 シーの宣言を聞いたポンズとカグラには、確信があった。

 シーは自分の音楽的世界観を守るために、戦おうとしている。

 でも、一人では限界がある。

 今がチャンスかも、とポンズは思った。

 でも、今日はそっと見守るだけにした。シーが自分なりの答えを見つけるまで、待つ時間も必要だ。

 ポンズとカグラは、シーのライブを最後まで見届けた後、静かにその場を後にした。

 二人は、シーがプロデビューを前に葛藤の真っ只中にいることを、悟っていた。

 *

 その夜、シーは自分の部屋で、レコード会社との面談のことを振り返っていた。

 あのアイドル風の衣装。プロデューサーが用意するという楽曲。そして何より「可愛い容姿と迫力ある楽曲のギャップで売り出したい」という言葉。

「自分の音楽じゃなくなってしまうんやないか……」

 でも同時に、プロデビューのチャンスを逃すわけにはいかないという気持ちもあった。

 母親は「シーの思うとおりでええけん」と言ってくれている。でも、家計のことを考えると、このチャンスは貴重すぎる。

 シーは父の形見のヘッドウェイ HMJ-WXを手に取った。

 このギターで路上ライブを始めてから、どれだけの人が足を止めて聞いてくれただろう。自分の音楽を、自分の言葉を、真っ直ぐに届けることができていた。

「お父さんなら、どう言うやろう……」

 父は生前、「音楽は自分の心を表現するものや」といつも言っていた。

 でも、現実問題として生活もある。音楽で食べていくということの厳しさも、痛いほどわかっている。

 *

 シーはギターを膝に乗せたまま、ぼんやりと天井を見上げた。

 レコード会社からもらったデモCDが、机の上に置いてある。プロのプロデューサーが編曲したという、自分の楽曲。

 でも、今はまだ聴く気になれなかった。

 聴いてしまったら、何かが決まってしまう気がする。

 シーは代わりに、自分の曲を弾き始めた。

 父のギターで、いつものように。誰に聴かせるわけでもなく、ただ自分のために。

 でも、今夜は音が違った。

 いつもなら自然と湧き上がってくる感情が、どこか遠くにある気がする。歌詞の言葉が、自分のものなのに借り物のように感じられる。

「なんでやろ……」

 シーは演奏を止めて、ため息をついた。

 今日の路上ライブも、同じだった。いつものように歌っているはずなのに、どこか空回りしている感覚。観客の反応も、いつもより薄かった気がする。

 自分の音楽が、自分から離れていくような感覚。

 それは、レコード会社の話を聞いてから始まった気がする。

 *

「明日、また路上ライブをやってみよう」

 シーはそう決めた。

 今の自分の気持ちを確かめるために。そして、自分の音楽がどこに向かっていくべきなのかを見つけるために。

 レコード会社からのプランを受け入れるかどうか、結論を出すのはそれからでも遅くない。

 回答期限の金曜日まで、あと数日ある。

 シーは明日のセットリストを考えながら、静かにギターの弦をつま弾いた。

 いつものように、自分の想いを音に込めて。

 でも、その音は、どこか迷いを含んでいた。

 *

 同じ頃、ポンズは自分の部屋で、カグラに送るメッセージを打っていた。

「シーが路上ライブをやるようだったら、もう一回行こう。そして、うちらの音楽をぶつける準備をしよう」

 送信ボタンを押す。

 すぐにカグラから返信が来た。

「わかった。わたしも、本気の音楽、見せる準備する」

 ポンズは微笑んだ。

 シーが葛藤しているのなら、自分たちにできることがある。

 シーに、別の選択肢を見せること。

 一人で戦わなくてもいいということを、音楽で伝えること。

 ポンズは自分のヘフナーのベースとテキサンを見つめた。

 祖父から受け継いだ、大切な相棒。

「じいちゃん、見とってや。うち、最高の仲間を見つけるけん」

 ポンズは小さく呟いて、ベースギターを弾き始めた。

 シーの心を動かすための、本気の音楽を。

 その準備を、今夜から始めよう。


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