(39)大阪
2015年7月22日(水) 昼下がり 大阪
俺は就活で初となる大阪に新幹線で向かっていた。愛知県に本社を置く大手食品メーカーAMIMEの大阪支店でグループワーク・適性テストの案内が届いたからだ。大阪は夜行バスでテーマパークに行ったことがあるぐらいで新幹線は初めてだ。
新幹線に乗ってどれぐらいの時間がたっただろう。道中はなぜ名古屋に本社があるのに大阪なのかとか、グループディスカッションじゃなくてグループワークとかいう記載に意味はあるのかなどを考えていた。外の天気は快晴である。場所は新大阪駅から乗り換えが無いので大変助かる。
言うまでもなく第1志望の業界ではない。だがなぜ最終でもないのにわざわざ大阪に出向くか。往復の新幹線がタダだからか。違う。この会社は雰囲気が良いのだ。
セミナー・1次面談とこれまでの選考過程においては服装普段着OK。セミナーでは商品のサンプルもいただけたりと、至れり尽くせりの会社である。母が喜んでいた。
金融業界の大多数の会社とは真逆だと俺は感じている。オープンでチャレンジングで多様性に満ちている。そんな会社だ。俺の本来の性格はこちらに合っているのかもしれない。
ただ現実は甘くない。メガバンク・メガ損保の倍率が100倍だとすると、この会社のそれは300倍ほどだと言われている。超人気企業だ。
俺は到着するなりグループワークを実施することになった。4人チームで男性3名、女性1名。全員私服だった。お題は「農業による地方活性化」であった。今回はサンプルはもらえないらしい。
それはもうお互いライバルだとは思えないほどの和気あいあいとした自由闊達な議論をした。ソンマリのGDとは大違いである。B紙(模造紙)を1時間ほどで埋めて発表まで行った。B紙そのものが議論を象徴するかのように輝いて見えた。
楽しさの余韻に浸る間もなく、続いて適性テスト、筆記試験が行われた。
既にテストセンターで一般的なものはセミナー前に受けているのだが、ここに来てもう一度である。しかもシャーペンと消しゴムでマークシート方式で実施すると言うのが斬新だ。
内容は性格に関するものだったので、俺は深読みせず本能の赴くままに、ただどこか慌ただしく回答を終えた。
16時半頃に全ての試験が完了し、俺は何の気なしに大阪をブラブラした。そして19時半頃、新大阪駅発の新幹線に乗った。
手応えは特段無かった。楽しかったし、大阪にもタダで来れてよかったって感じだ。内々定も出ており、残り企業も少ないので体力的にも精神的にも余裕があったとも言える。
いやーしかし。グループワークはいいメンツだったな。
またいつか会いたい。いや。会える気がする。バラバラの会社に就職したとしても、それが別れを意味するわけでもないし。
まーだったらLIME交換しとけよって話なんだけど、さすがにそこまでは俺でもできなかった。
俺はニヤニヤしながら、窓から外の景色を眺めていた。
!メールだ。
タイトルは『準決勝!へのご参加依頼』
宛先は先ほど受けたばかりのAMIMEの人事からだった。
時間は明日午前10時。場所は今日と同じ大阪。
現在時刻は21時。間もなく名古屋駅に着く。俺は青ざめた。
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