(40)再来訪

 2015年7月23日(木) 早朝 大阪

 俺は就活で2回目となる大阪に新幹線で向かっていた。準決勝に出場するために。8時半には名古屋駅を出ていた。


 服装は相変わらず普段着OKなのだが、スーツ着用だったら、なおさらキレていたかもしれない。当然、準決勝進出は嬉しいのだが。以前、オープンでチャレンジングで多様性に満ちていると感じていたが、ここまでのスピーディーさまで兼ね備えているとは。


 昨日の準決勝への参加依頼メールには今後のスケジュールまでご丁寧に記載されていた。遠方の方は決勝戦前日にはさすがに前泊の宿が手配されるそうだ。そして決勝対策講座までご用意されているらしい。いよいよ何かの大会じみたイベントになってきた。俺は奇妙ななにかを見るように意味もなく何度もメールを見返していた。


 決勝の内容が何かはわからないが、通ったら何するんだろうとかいらぬ期待と心配をしているところで、昨日ぶりのAMIMEの大阪支店に到着した。24時間以内に見たばかりのビルを俺はぼんやり眺めた。


 会場に着くと、面接室の前にイスがいくつか並んでいた。昨日グループワークで同じチームだった3名の内2名がそこに座っていた。男性1名、女性1名である。ご機嫌と緊張が入り交じったような表情を浮かべていた。


 俺らは再会の喜びを微笑と会釈で体現し、軽く雑談も交えた。どうやらもう1名はダメだったようだ。彼の成功を心よりお祈り申し上げよう。ただまさかここまで早く再会できるとは驚きである。


 前の2名が終わりいよいよ俺の番が回ってきた。先駆者たちを見るとなんだかんだ1人20分程度のスピーディーなもののようだ。


 面接室に入った。まあ広い。初めて最終面接を迎えたアノ会議室を想い出す。先方は3名。真ん中に鎮座するのはおそらく人事部長。あとの両隣は見た目年齢的にも部下であろう。


 人事部長とおぼしき方が質問を始めた。学生時代がんばったことについてだ。まあこれも定番である。


 ただすぐにいつもと違うことを理解した。深掘りがすごい。質問はすでに尋問へと変貌していた。人事部長は変わらず一定の微笑を浮かべたままでだ。話は一定のリズムで徐々に噛み合わなくなっていく。


 大体この手の質問に対して俺は、ゼミでのヒーローエピソード、武勇伝を少しのゲタを履かせて語るわけだが、今回ばかりはそうは問屋が卸さないようだ。嘘発見器のごとく詰めてくる。めちゃくちゃ焦る。


 これまでのAMIMEの選考は名実ともに明るいものであった。が、準決勝は雰囲気こそ明るいものの中身はめちゃくちゃロジカルであった。ハッキリ言って俺の苦手分野だ。

 

 最後は尋問から気を取り直すように、嫌いな食べ物とか聞かれたのだがもう勝敗は明らかだった。惨敗である。これまで勝ち残ってきた自分がいかにラッキーボーイだったのかを身に染みて感じた。面接室を退出する際、彼らは微笑を浮かべたまま、やや大袈裟に手を振っていた。


 20分しか経っていないとは思えないほどの濃密な疲れでヘトヘトになった俺は、ゾンビのように会場を後にした。


 。。!支店の外、すぐ側に先駆者2名が談笑しながらたたずんでいたのだ。


 「お〜梅沢君おつかれ!3人で飯でも行かない?」


 願ったり叶ったりである。急に生気が目覚めるのを感じた。まさか俺のことを待ってくれていたとは。


 「2人ともおつかれ!行こ行こ!せっかく大阪来たし」


 俺らは新大阪駅近くのナポリタンがうまそうなお店に入った。特に理由はない。騒がしそうな店内だった。


 「ノンアルだけどとりあえず乾杯!いや〜絶対落ちたわ、うち」


 そう言うと彼女は、溜まった疲れを全て吐き出すかのように息を吐き、オレンジジュースをストローで飲んでいた。


 この子は口調からして関西人なのだろう。わざわざ名古屋から来た俺と飯に付き合ってくれて申し訳ない。



 ありがとう。

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