第23話 第一章(続き)
猫に憑依してしまったことを肯定的に捉え始めたら、ものすごく気が楽になった。ある意味生きているのと変わらない。え? 人間? 面倒臭い。今の今まで他人に踏む見つけられた人生を歩んでいたのに、別の人生なら幸せとは限んないもんな。猫、サイコーじゃああん。かくして、屋内の索敵は続くのであった。
なんとういうことでしょう。このサイズにこの広さだよ! おおう、一軒家を独り占めじゃ~ん。むふふん、日中はこの家の王様だな。走り回っても、どこで爪とぎしても(これは駄目か?)、何時食べてもどう寝てもいいってわけだ。歯止めが効かなくなったら、どうしよう……ま、途中で疲れるかな。
どれどれ、今日は上の階に上がってみるとしようかね。思わず知らず年寄り言葉になっている自分にちょっとたじろいだが、年寄り猫なのだから問題あるまい。うむ、三階から順番に探索してみよう。おう、ワクワクしてきたぞ。すると、オレの眼前に〈猫に長い階段〉という未知の世界が広がった。実家は田舎にあって平屋の中二階だったからな~この長さにはなぜか心臓が高鳴る……まさか怖い方の高鳴り?
何しろこの体は年寄りだもんなー、上り切ることはできるのか不安を抱いても仕方ないにゃ。だがしかし、んなもん途中休憩ありでどうとでもなるっしょ。あ、えっ、ほっ えっ、ほっ? よいさっさ。って、階段ってこんなに上りにくかったっけ。心の中で掛け声を掛けつつ頑張るオレってよくね?
よ、ほ、と。あと一段、しまった。んなろー滑ったぁ~~~すとととととっ。あれ? 腹を下に滑った割に案外痛くない。そういえば猫の腹は毛むくじゃらだったわ。そして、何やら楽しい。もう一回行ってみよう。
すととととっ、それ、もう一回、すとととととっ……ループする……
い、いかん、ただの階段で遊んじゃった。実家の猫は、階段の手すりが滑り台だったことを不意に思い出したが、階段自体を滑っている姿は見たことがない。普通はやらないのかもしれないな。中身がオレに代わってからの遊び方だとしたら、皆に見つかると、ちょっと面倒だ。うむ、誰もいない時だけの遊びにしようっと。
疲れて来たので、ふーふーと荒い鼻息を吐いて息を整えると、気持ちを入れ替えて探索に戻ることにした。三階まで、息が上がらないようにゆっくり上った。猫がぜーぜーしている姿を目にしたことはない(事実は知らん)から、年寄りだからだと思うことにした。決してオレが運動不足だからではない!
三階には屋根上の物干し台に出られるらしき開き戸と物置? と子ども部屋があった。どちらもかなり広くて、狭小の三階建てとは違っているようだ。以前、同僚に都内の自宅に招かれた時の家は、車庫も庭もあったけれど、建物が細長かった。それでびっくりするような価格だった。だから、世田谷でこの間取りって、すごいことだよな、多分。
二人とも頑張ったのだね~感涙。かなり後になって、親類だか知人だかから土地代は格安で購入したとのだと知った。オレの感動、返せえええ。いやまあ、大した事じゃないな。ふんす。
おおっと、今何時? 区切りのいい時間に一旦探索継を終えたいところだ。
さて、先ずは物置。さすがに物置は、扉がしまっていて入れなかった。猫には入って欲しくないのかもしれないが、いずれ開け方を習得する予定だから、今だけスルーしてあげましょう。お覚悟⁉ って、見上げると、ひっくり返されたネームプレートがかかっている。元は長男の部屋だったのかもしれない。ふむ
とりあえず物置は入れたとしても、暗くて(猫にはあまり関係ない?)荷物が多ければ迷路のようになっているだろうからオレだけだと遭難? しそうだ。今のところ危険を避けるべく入る気はない。電気を点けて誰かが入る時についていくのが妥当だろうと、冷静に判断した。オレって慎重派なのさ。ふふん
続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます