第13話 第一章(続き)
この猫、Gショックで動揺し過ぎて一人で大騒ぎしていたオレのことを、煩そうに眺めてやがったと思う。目、絶対合ったし。 オレは確認したくて、正面からじっと見詰めることにした。やっぱ、見えてやがるな。お互いに牽制し合って、今日は一日お猫様を観察して過ごすことになりそうだと思っていたら、カチャカチャと鍵を開ける音がした。
空き巣かと思ったが、お猫様が落ち着いているから家族の誰かなんだろう。
玄関が開いてそのままリビングに向かう足音が聞こえると、サファリ柄の長パンを履いた男の子が、ガラス戸を引いて入って来た。やにわに背負った茶色のランドセルを下ろして、リビングのソファーに投げ捨てた。それから、絨毯の上に丸くなって寝ている猫を枕にゴロンと転がった。
おい、さすがのお猫様も、頭蓋骨が当たれば痛くね?
当然ボクちゃんにはオレの声が届いているはずはないが、オレが顔をしかめていると、お猫様は頭だけを起こして小僧を見た。あからさまに(なんだ、お前かー。ちょっと痛いけど仕方ねえな)という変顔だ。猫って、こんな変顔すんだ、ぶくっ。……知らんかった。口閉めろや。ぶはっ
あまりの面白い表情にオレは噴き出して大笑いした。猫に、再び睨まれたが止まらなかった。その時突然猫の背中からゆらりと陽炎のようなモノが浮かび上がった。体半分ほどが猫の背中から出ているのは、うむ、締まりが悪いというか、中途半端だが何かは判別するのは可能だった。
何と女の幽霊だ! やったやった、お仲間いるじゃん。万歳して小躍りするオレにはゆらりと立ち上るそれにも、猫を枕にしている男の子は全く気付いていないようだった。幽霊がはみだしている状況なのに、猫に憑依しているのに、見えなきゃ怖くないってか? 知らなきゃ大丈夫ってことか。
幽霊を発見し最初の興奮が収まると、言葉もなくオレ達は睨み合った。それから徐ろに女の幽霊がオレを責め立てた。
『ちょっと! いい加減にしてよね。笑いすぎだわよ』
『はえっ? すまんね=、あの変顔、あんまりにもインパクトあったからさ。それにしても、猫に憑依してんのか~』
『随分笑ってくれたけど、アンタ、もしかしてここの家族が気に入っちゃったんじゃないの? この子、可愛いでしょ?』
いやいやいや、自分が幽霊になったのもそれはそれで驚愕の事態だったけれど、他の幽霊が猫に憑依していた事実も、驚くべきことだ。幽霊ってそんなこと出来るんだーってな感じで。普通に会話しているし、生きていたら腰を抜かしていたかも。
とはいえ、聞かれたことに応えないのも礼儀知らずだ。うむ
『気に入ったのかはまだ何とも……何となく優し気なお父さんについて来ちゃって』
『お父さん……いい人だよね~。影、薄いけど』
『うわっ、一言多いっ!』
『よく言われる。それが原因でアタシは死んだようなもんだからね』
『へえ、生前の記憶があるんだ』
『まあね、だから猫に憑いてんだけどさ。この家族、ほのぼのすんだわ』
『あーお父さんがああだもんな』
『このチビっ子が生まれた辺りからここにいるから、もう猫に憑いて長いよ。そろそろ飽きてきたんだよねー。譲ろうか?』
へえ、じゃあかれこれ十年はここにいるってことか。まあ確かに長いな。飽きて来たとしても仕方ない気はするな。あれっ、待てよ? 幽霊に十年って長いのか? そもそも時間間隔があやふやなのに。一瞬かもしんないな。といっても、オレがこの幽霊と交代して猫に憑依するなんてこととは別の話だよ?
『え? オレに猫に憑依しろってか。いやあ、それはご遠慮申し上げたいな』
『そう言わず、試してみない? 遠慮しなくていいからさ』
『うーん、家猫だろ? 幽霊の自由を謳歌したい気がすんだよね。だから、遠慮でなくてお断りね』
『まあまあ、そう言わず。家猫も悪くないよ? ものは試し。それっ』
はあっ?
続く
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