第12話 第一章(続き)

 ところで、幽霊に時間経過(時が進むのが未来に向かっての一方向という意味)なるのもはあるのだろうか? はて? 暇に飽かせて時計が進むのを凝視してみようか? さすがに無駄な行為か……時計が進んだからって、時間軸を移動できない(時間と無縁という意味)ことの証明にはならないしなあ。


 ただ、意識が飛んでいた時間帯があって、家族の朝の熾烈な喧騒(後日見ていたら、起床とか飯とかトイレや洗面台の取り合いとか、いや家族って遠慮がねえな)を過ぎる辺りから記憶がない。お父さん以外誰がいたのか、どんな顔だったのかもこれっぽちも思い出せやしねえ。


 肉体の方の状況と何か関係があるかもしれないが、やっぱり自分の身体を確認しに行く気にはなれない。だってさ、見に行ってみたら、解剖中だったとか洒落になんないっしょ? だから、意識的に肉体から遠ざかろうとして、そんな現象に陥ったのだろうか。幽霊は初体験だから、考えても分からん。放置っ!


 気が付くと、もうお昼ご飯の時間だった。リビングにあるカラクリ時計が正午を知らせて鳴っていたから、間違いないだろう。残念ながら身に染みついたオレの時間感覚じゃない。そうなのだ。腹が減った……ような気がしただけで、実はぐうとも言ってない。そういう意味では幽霊って便利なのね。うん、一つ利点を発見した。


 さすがに家の中にはお猫様がお一人の状態だ。小動物にとってはどうか知らないけど、この広いスペースを長時間占有できるのは中々羨ましい。猫って日中は殆んど寝ていたような記憶があるけど、コイツはまあまあ活動的だ。今はフンフン鼻を鳴らしながら家の中をパトロール中だ。


 時々チラッとオレを見ているような気がするけど、どう? 猫って気配に敏感だからか? それとも噂通り幽霊が見えているのか? おう、霊感爆裂か? だとしたらすげぇ。語らってみたいものだが、人間の言葉を解するのかも今のところ分からん。ぜってえ知りたいぞ。猫と喋れるなら暇つぶしは決まったも同然だしね。


 うむ、オレの想像は膨らむ一方だが、お猫様はマイペースに家の中を巡回していらっしゃる。鼠とか捕るのだろうか。って、おい、蝿とか蚊をやっつけてやがる。おおう、役に立っているじゃねーの。生きたフ〇キラー様だぞ。感心感心……あうっ? ま、待て! それは不味い。や、やめれ。触るんじゃねー。んぎゃー。こっちに飛ばすなああああ


 ああっ、そのかわいいお手手の下にあるのは、ま~さ~か~のGさまっ⁉ ぎょわー臭いを嗅ぐんじゃねー、見た目にエグイ! あ、睨まれた。ほっ、食うじゃないのか、ていていっと棚下に入れてらっしゃるが、それはそれで何だかなー。ま、他人ん家(ひとんち)だわ。結果がどうなろうと、知らんがなっ!


 はーはーはーっ、落ち着けオレ。誰も見聞きしていないからいいようなものの、独りで大騒ぎしちゃったぜ。普段見慣れない猫の生態を知ったって何の役にも立たちゃしないよな。ま、暇はつぶせたか。あー、にしてもキモかった。猫ってGさま触っても気色悪くないんだ。猫飼ってたのに知らんかったな~


 ん、ちょおっと待て。オレの今の大騒ぎを再生巻き戻してみよう。ああっ、やっぱこの猫ちゃん幽霊が見えている? オレ、エグイって言った時、絶対睨んでるよね? こっち見てたよね? おい、見えてるくせに聞こえないふりすんなや。



続く


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