第7話 始まり(続き)

 自分で自分の遺体を見るという謎のシチュエーションに陥っているが、オレはいたって冷静だ。自分の生を惜しむ気持ちが今のオレには薄いようだ。こういう状態で死を受け入れれば、恨み骨髄とかいって化けて出ることもないだろう。なんて、そう思う自分にほっと一息ついていた。

 ヨカッタ、天寿は全うできなかったけど、往生際は悪くなさそうだよ。


 それにしても、病院なら他の幽霊もいるだろうと会話する相手を探したけれど、いても相手にしてくれそうな雰囲気じゃないし、気の合いそうな幽霊?(いんのかそんなもん)を見つけられないまま暫く経った。こんな風になっても、オレって孤独だなあ。がっかりしつつも、所在なくて人気のない夜の病院内をうろうろしてみた。


 夜で廊下は真っ暗だし、当然病室は寝静まっている。それならと、明るいナースステーションにも行ってみたが、数人待機しているだけで好みのねーちゃんもおらん。しまった手持ち無沙汰だ。まさか幽霊って究極の暇人なのか?


 仕方なく自分の遺体がある霊安室に行ってみたが、葬儀社の人が既に来て処置が始まっていた。遠方に住む両親はまだ来ていないが、愁嘆場を見るのもちょっときまりが悪い。どうすっかな。幽霊になっちゃうとは思わなかったものなあ。予想外すぎて身の振り方が分からない。


 暇だし病院にいるのも面倒くさいし、自分の葬式を見る趣味もないし。幽霊といっても誰かに憑りつくようなエネルギーもないし。悩んだ挙句、もう一度院内をうろうろしてみた。このまま病院にいるのもなんだか、芸がない。もうちょっと何とかならないだろうか。面白そうな人はいないかなあ、って夜だし……


 溜息交じりに受付前の椅子に腰かけたら、残業で草臥れた感じの冴えない事務職員らしき(首からネームを下げたまんまだ)おじさんが、疲れたようにとぼとぼと通りかかった。痩せぎすの体形がより物悲しさを促していた。

「自転車に轢かれて亡くなるなんて運が悪いなあ。しかも轢き逃げらしいし。心残りがないといいなあ」


 あ、オレのことだ。薄幸そうに見えるけど、なんだか優しそうなおじさんではあるな。病院の事務職なら戻ろうと思えば付いて来ればいいくわけだから、暇つぶしにちょっとおじさんに行ってみるか? 

 とりあえず今日は……ということでおじさんについていくことにした。


 そう、オレは30代で事故死した幽霊。喋るのは嫌いじゃないので、あれこれオレの経験談を語ろうと思ってる。だけど、この時はまだ、このまま、オレの気ままな幽霊ライフが始まろうとは、少しも予想していなかったんだよなあ。縁って不思議なもんだよね。死して尚縁とか言ってもいいのかは知らんけど。




☆ はい、これは転生ではなくて幽霊になった人のお話です。怖がりなので怖い幽霊話はできませんから……で、次話からは、この幽霊のオレさんがある家族と知り合って深い関係を結んで行くことになります。その家族がとってもいいの。中でも三男坊に心惹かれたオレさんは、幽霊として残ることに偶然なってしまう展開です。

 お楽しみにね ☆

 


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