第28話

【第28話 1回戦決着!レイの“軸の秘密”】


 衝突の余波がまだ空気を震わせていた。


 リング中央で、レイとケントは回転を保ったまま距離をとる。

 砂が巻き上がり、舞台の真ん中に渦が立った。


 実況が熱狂した声を上げる。


 【開始直後からこのスピード!両者とも軸がまったくブレていないッ!】


 観客席から歓声が爆ぜた。


 ケントは歯を食いしばりながら、低姿勢のまま軸を強く踏みしめる。


 「てめぇ……全国トップって噂、あながち嘘じゃねぇな」


 レイは呼吸を整えながら答えた。


 「お互い様だ。お前……重心が低い。回転ぶつけた時に“跳ねない”よう計算してるな?」


 ケントはニヤリと笑う。


 「そういうこった。跳ねたら負けるのが、スピンランサーだろ?」


 次の瞬間――

 ケントの足元が一気に回転数を上げた。


 「――低軌道(ロートラック)・地走りッ!!」


 彼の全身が地を這うように回転し、

 レイへ向かって弾丸のように突っ込んでくる。


 (速い……!)


 レイは回避ではなく、“受ける”選択をした。

 その瞬間――


 ガァァンッッ!!


 衝撃はさっきの数倍。

 レイの体が浮き上がるほどだった。


 観客のざわめきが広がる。


 【オオハラ・ケントの地走り!この技をまともに受けたら、軸が飛ぶッ!!】


 しかしレイは倒れない。

 衝撃を受けたその瞬間――

 レイの靴裏から“青い光”がひらめいた。


 ケントの顔に驚きが走る。


 「……!?何だ今の……軸が、沈んだ……?」


 レイは静かに言った。


 「俺の軸には“柔軟性”がある」


 ケントの眉が跳ね上がる。


 「は?柔軟性……?人間の軸が、衝撃を吸収するわけねぇだろ!」


 レイは回転をさらに上げ、足元を光らせる。


 「普通はな。

  でも俺は――“母さんから教わった軸”を持ってる」


 観客席がざわつく。


 実況までもが声をうわずらせた。


 【母親譲り……? どういうことだ!?レイ・ナツキの回転軸に、何か秘密が――】


 ケントは舌打ちし、さらに加速した。


 「だったら、その“軸”ごと折ってやるよッ!!」


 地面すれすれを滑るような超低回転戦術――

 ケントの最大技が来る。


 「――地走り・絶対衝(アブソリュートクラッシュ)!!」


 アリーナの床がたわむほどの高速衝突。

 回転の火花は赤から白へ、鈍い金属音がビリビリと響く。


 だがその真ん中で――

 レイの足元の光が柔らかく波打った。


 (いま受ける。跳ねず、ずらさず、“吸う”!)


 そして――


 ドンッ!!


 ケントの軌道がわずかに狂った。

 その瞬間、レイは全身の回転を解き放つ。


 「反転衝――ッ!!」


 空気が破裂する。

 レイの体が逆方向へ流れるように回転し、

 ケントの横腹へ“吸収した衝撃”を返すように叩き込んだ。


 ケントの体が跳ね上がり――


 そのままコート外へ吹き飛んだ。


 着地した瞬間、回転が途切れる。


 【――勝者、レイ・ナツキ!!】


 会場が爆発したように揺れた。


 レイは肩で息をしながら、倒れ込むケントへ歩み寄る。


 ケントは荒い息の中で絞り出すように言った。


 「……何だよ……あの軸……あんなの、聞いたことねぇ……」


 レイは少し躊躇してから、答えた。


 「俺の家系は……特殊なんだ。“揺れる軸と、折れない心”――母さんが言ってた」


 ケントは目を閉じて笑った。


 「……そんな……ズルい才能……だけどよ……悪くねぇ……!」


 レイは手を差し伸べ、ケントを立たせた。


 観客席から大歓声が飛ぶ。


 その中心で、レイの心臓はしずかに熱く脈打っていた。


 (次だ。違法ギアに操られた奴ら……そしてあの黒幕――絶対に止める)

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スピナー学園の熱血男子、回転バトルで天下を狙う! ―炎と鋼がぶつかる青春コマ学園記― 魔王の囁き  @maounosasayaki

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