周りの目が気にならなくなるまで

第2話

side.凛




 私には大好きな彼女がいた。目に入れても痛くない程の可愛さ、だけど一か月前に別れた。別れる先日までは普通に接していたと思う。だけど、その次の日何か思い詰めたような顔で私に別れを告げてきた。「なんで別れるの?」と彼女に質問したが、返ってきたのは彼女の走る後ろ姿だけ、何か理由があるんじゃないか?とあの子────凪に聞こうと探し回っていたが、見つからない。見つかったとしてもすぐに逃げられる。


 こないだ街で見かけ、路地裏に強引だったが連れていき逃げ道を塞いだが、「周りの目が気になるから」と別れた理由を告げられ、私が放心している間にまた……凪は逃げてしまった。

 周りの目が気になるから、とは一体何を気になっているのだろうか。どうして────


 と思っているところに廊下に凪の親友、横井柑奈よこい かんながいるのが見えた。


「ねえ横井」


「ん?お、凪の彼女じゃねえか」


がつくけどね」


「そりゃ可哀想に」


「あんまそう思ってないでしょ……」


「まあな、そんなことはどうでも良くて……いったい何用だ?」


「凪に会わせて」


「まあ分かってたけど、いっつも凪を探してるのをよく見てるしな」


「なら……」


「だけど凪は玖村に会いたくねえみたいだぞ?」


 本当にムカつく、顔、言動、性格全てが。だが凪に会うためにはこいつと話すしかないのだ……

 凪が私に会いたくないのは知ってる。だけど会いに行く……それは何故、と言われたら……簡単な話────復縁したいから。凪はそうじゃないのかもしれないけど。


「それでもいい、さっさと会わせて」


今まで凪が居そうなところを探した、教室、食堂、保健室、あらゆる場所を探した……ただ見てないとこはあるかもしれない。


「……場所は教えてやるよ、そのあとは自分でやれ」


「勿論」








 横井に教えてもらったところ、いつも凪は体育館倉庫にいるらしい。あんな少し臭そうなところよくもまあ居れるな。と思ったところで横井が体育館倉庫に入っていった。横井の指示によるといいタイミングで入ってこいとの事。


 ドアの隙間から凪と横井が話しているのが見える。私はこっそり聞き耳を立てた────









 結果は最悪。仲直りをして、あわよくば復縁……だと思っていたのだが、私が逃げてしまった。

 凪が言っていた、女同士だからヘン?だから周りの目が気になる?そんなの私はとっくの昔に乗り越えている。付き合いたての時はまだ少し周りの目が私を見てるような感覚によく襲われた。だが克服した。だから先に告白した凪の方も大丈夫だと思っていたのだが……

 全然大丈夫ではなかったようだ。


 そりゃそうだ、人はみんな違うのだから。



 決めた。凪が周りの目を気にするのが少しはマシになるまで凪のそばに居よう。



 そのためには────






side.凪




 


 私は今家にいた。そして、これからどうしようか考えていた。凛と復縁はしたい……だがどうしても周りの目が気になってしまう。凛と手を繋ぐ度、抱き合う度……誰かに見られているような気がするのだ。だから凛と復縁するには、まず周りの目に慣れなければならない。だが問題がある。周りの目に慣れたとてまた付き合えるとは限らない。そして……周りの目に慣れるためにどうすればいいか分からない。



 ────ピロンッ



 私のそのままにしていたスクールバッグから籠ったような電子音が聞こえた。スクールバッグの中に手を入れ、その音の原因の物を手に取り、見る。


 そこには「友達にならない?」と匿名からメールが来ていた。


 メールを開き再度そのメッセージを確認する。誰から来たのか分からない、だから聞くことにした


「だれですか」


「凛、玖村凛」


「え?」


「え?何?」


 聞くとどうやら……この匿名の人は玖村凛とか言う奴らしい。すごく既視感のある名前だな、なんて現実逃避をする。ただいつまでもそうしてると、また凛が怒りそうだからスマホの画面にもう一度目を向ける……すると、また新しくメッセージが来ていた。


「で、どうなの?友達になってくれるの?くれないの?」


 きっと、凛の友達になろうの意味は「もうお前と二度と恋人になんねぇかんな」という意思の表れなのではないか。なんてヘンに勘繰ってしまう。だが、ここで友達にならないという選択肢は無い。だから私は────


「いいよ」


と、送ったのだった────









 凛から匿名でメールを送られた次の日、学校の昼休憩に凛が私がいるクラスに足を運んで来た。教室のドアの前にいる凛が私を認識した後、少しホッとしたような顔をした後、私に手招きをした。


「今回は逃げなかったんだね」


「友達から逃げるなんてこと、私はしないよ」


「ふーん」


 どうやら前に逃げまくっていたことを根に持っているらしい。そりゃ誰でも避けられたら嫌な気持ちになるのは当たり前なのだろう。なんて考えながら、食堂へ向かった。




「ねぇ、手繋がない?」


 食堂へ向かう途中に凛にそう言われた。だが廊下には食堂に向かったり中庭に向かったりしようとしている生徒で溢れている。


「……え、いや……うーん」


「友達ならだよ」


 そっか普通か、なら大丈夫かな……なんて思ったが妙にドキドキする。



「……なら」


「ん」


 凛がそう声を出すと、私の一歩手前にいた凛から目の前に手を差し出された。本当に、この手を取って大丈夫なのだろうか、と心配になってしまう。


「大丈夫」


 私の考えていた事がわかったのか、さっきよりも優しい包み込まれるような声で宥めるように凛は言った。




 本当に……大丈夫なのだろうか、手を繋いでほかの人たちの視線が私たちに全て向かないだろうか。

 大丈夫、大丈夫だ……きっと誰にも見られてない……

 なんて、自分自身に説得させるように言い聞かせながら私は……凛の手を取った。


 少し視線が集まっているような気がした。ヒソヒソと内容までは聞こえないが、笑いながらこちらを見ている……ような気がした。そんな視線にビクビクしている私に対して凛は堂々としていた。私のようにキョロキョロと周りを見たりはせず、ただ凛は……前だけを見て歩いている────

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風の中で手を伸ばす ポンビン @Ohuton29

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