第26章 記憶という檻
高架線の下。
少女は地面にしゃがみ込み、棒で何かを描いていた。
「これがね、わたしのおうち」
地面に描かれた歪な四角の中に、丸や星のような模様が並んでいる。
シュンは膝を折り、その絵を覗き込んだ。
「これが……君の、お家?」
「うん。ほんとはね、もっとオッキイの。絵だと、ちょっと変になっちゃう」
少女は笑った。
その笑顔は、世界のすべてを“遊び”として受け止めているように見えた。
「……君は、ここにずっといるのかい?」
「うーん。たぶん?」
「“ここ”って、どこなんだ。君は……どこから来たんだ?」
問いかけると、少女は棒を置き、首をかしげた。
「んー……わかんない。でもね、ここはなんでもつくれるんだよ。ほら!」
少女が手を広げた瞬間、空間にぽん、と何かが現れた。
鉄製のブランコ。
鉄の鎖が、風もないのに赤い空の中でゆらゆらと揺れている。
「すごいでしょ?」
「……ああ、すごいよ」
シュンは、無理に笑ってみせた。
「ね! あそぼ!」
少女は嬉しそうに笑い、シュンの腕を掴もうとする。
「まいったな……俺は帰らなきゃならないんだよ」
その言葉を口にした瞬間——少女の動きが、止まった。
「……帰る? どうして?」
空気が一変した。
先ほどまでの無邪気さが、ほんの一瞬で“静”へと変わる。
「おじさんは、元の世界で仕事があるんだ。仲間も……友達もいる。」
少女は小さく首を傾げた。
その瞳が、少しだけ暗く濁る。
「でも……おじさんは“消えなかった”んだよ」
「……?」
「このまま、ここにいたら??」
声が柔らかく響いた。
けれどそのやさしさの裏に、なにか冷たいものが潜んでいる気がした。
「……そうはいかないんだよ」
シュンは言葉を選びながら答えた。
——しかし次の瞬間
少女の目が、赤く光った。
空が低くうねり、草原の地面が震える。
「帰るの?」
声が変わった。無邪気な響きが、ほんの少しだけ、深くなった。
「そう…じゃあ、もう一度悲しい気持ちを思い出して」
「なに?」
ゴゴゴゴ
空間が揺れる。
赤い風が吹いた。
その瞬間
赤い世界の雨が現実空間すらも貫通して土砂降りとなった。
そしてシュンの掌に——
今まで見たことのない歪んだ赤黒いキューブが空に浮かび上がった。
(な、なんだこれは!!)
そして、赤黒いキューブに突如口のようなものが生まれる。
「ギィヤアアアアアアアア!!」
断末魔のような叫び
シュンはたまらず耳をふさぐ。
叫びの向こうで少女が目を光らせたまま冷酷にこちらを見ている。
「悲しかったこと。ちゃんと思い出して。そして——ここにいて。」
断末魔のような叫び声がさらに空間を引き裂いた。
「うわぁああ!」
視界が真っ赤に歪む。
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